表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
波待ち。  作者: 阿部兄弟
5章 居場所と未来

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
50/84

50話 「残暑」

夏はまだ終わっていなかった。


でも、

少しだけ変わり始めた風が、

季節の終わりを教えていた。


昼間の熱気だけが、

まだ夏を引きずっていた。




鉄工場の中は相変わらず暑い。


機械音。


鉄の焼ける匂い。


汗で重くなった作業着。




蒼は額の汗を腕で拭きながら、

鉄材を運ぶ。




「蒼ー!そっち頼む!」




「はーい」




フォークリフトが横を通る。


熱気と油の匂いで、

肺の奥まで鉄工場になる。




休憩時間。


蒼は自販機の前で缶コーヒーを買った。


古い扇風機の前に座る。




「っあち……」




スマホが震えた。


澪からLINE。




『ひま』




蒼が少し笑う。




『働け』




すぐ返ってくる。




『店長いないからみんなやる気ない』


『もう帰りたい』




『まだ昼だろ』




『蒼は?』




蒼は汗で濡れた作業着を見る。




『死にそう』




『鉄工場ってやっぱ大変なんだね』




『今さら?』




『でも頑張ってる蒼かっこいいよ』




蒼は思わず鼻で笑う。




「何ニヤニヤしてんだぁ??」




横で先輩がタバコを吸いながら言った。




「別に」




「あれか?澪ちゃんか?」




「……まぁ」




「青春だねぇ」




「うるせぇっす」




蒼が缶コーヒーを飲む。


冷たいはずなのに、

一瞬でぬるく感じた。




前は、

仕事終わりなんて、

ただ疲れて寝るだけだった。


最近は違う。


LINEが来る。


誰かが待ってる。


それだけで、

不思議と仕事も終われる。




夜。


仕事を終えてアパートへ戻る。


外階段を上がりながら、

蒼はスマホを見る。




『明日休みになったー!』




澪からだった。




『珍しいな』




『平日休み最高!』


『何しよっかなー』




蒼は玄関を開けながら返す。




『寝とけ』




『ひど』




部屋へ入る。


エアコンをつけ、

作業着を脱ぐ。




ソファへ座ったタイミングで、

またスマホが震えた。


今度は楓。




『お兄様ー』


『金欠』




「こいつ毎回これだな……」




蒼が笑いながら返す。




『知らん』




『冷た』


『てか澪ちゃん元気?』




『明日休みらしい』




少し間が空く。




『え、まじ?』




『まじ』




『暇?』




『知らん』




その直後。


澪から電話が掛かってきた。




「もしもーし」




『ねぇ聞いて』




「ん?」




『店長まじで天然すぎて意味分かんない』




「急だな」


蒼が笑う。




澪が仕事の愚痴を喋る。


蒼はソファへ座ったまま、

適当に相槌を打っていた。


その時間が、

最近は心地いい。




その時。


ピコン、と通知が鳴る。


楓からだった。




『澪ちゃんに電話していいかな?』




蒼は少し笑う。




「楓がお前に電話していい?って」




『え、いいよー』




「いいよだって」




数秒後。


澪の方から笑い声が聞こえた。




『あ、楓ちゃんから来た』




「じゃあ切るわ」




『うん、またねー』




通話が切れる。


静かになった部屋で、

蒼はタバコに火をつけた。




少ししてから、

またスマホが鳴る。


今度は澪からLINE。




『楓ちゃんかわいいw』




『なんて?』




『明日買い物行こーって誘われた』




蒼は少し笑う。




『仲良いなお前ら』




『ねぇ』




『ん?』




『明日楓ちゃんとデートしてくる!』




スマホを見ながら、

蒼は少しだけ口元を緩めた。




外では、

夏の終わりの風が吹いていた。



仕事終わりの電話。


他愛もないLINE。


そんな小さなやり取りが、

いつの間にか日常になっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ