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波待ち。  作者: 阿部兄弟
4章 愛と代償

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48話 「静寂と真心」

失ったものは戻らない。


それでも朝は来るし、

腹も減る。


人は案外、

そんな当たり前の繰り返しで生き延びていく。


朝、目が覚める。


隣に澪はいなかった。




蒼はすぐに身体を起こす。


キッチンの方から音が聞こえていた。




「おはよう!」




「おはよう」


「悪りぃ、寝てたわ」




「いいよー。疲れたでしょ?」


澪は料理をしながら振り返る。




「いや澪の方こそ今日仕事だろ」




「いいの。サービス業は土日関係ないから慣れっこ!」




テーブルに朝飯が並ぶ。




「はい!朝ごはん!食べよ!」




蒼は手を洗って席につく。


澪が味噌汁を運んできた。




「ありがとう」




「いただきまーす」




「うまっ!」


蒼がすぐ箸を動かし始める。


その様子を見ながら、

澪が静かに笑った。


少しは、

気が楽になったかな。


そんな気持ちで見ていた。




「あ!そういえば今日波良いよ?」




蒼がすぐスマホを見せる。




「知ってます〜」




「感じ悪!」




「たまには1人で行ってきたら?」




「うん、そう思ってた」




「ずーっと私につきっきりで蒼も大変だったでしょ?」




「いやぁそうでも無い」


「教えながら自分の反復練習にもなるし」




「勉強家だねー」




「まぁな」




「行くって言うと思って弁当作っといたよ?」




「え?まじ?」


蒼の顔が少し緩む。




「めっちゃ嬉しい」




「子供かよ」


澪が笑った。




「よし!ご馳走様でした!」




「ご馳走様〜。美味かったわー」




「私準備するね!」




「あ、てか板とかウエット取りに家戻らなきゃじゃん!」




「澪と行くようなってからは板は積みっぱなしだし、ウエットも予備のやつあるから大丈夫」




「うわー流石サーフィン歴10年」




「いつでもいけるだろ?」




「あと俺洗い物やるから準備してていいぞ」




「お言葉に甘えます」




澪が出掛ける準備をする。


蒼は歯を磨いて、

食器を洗った。


昨日と同じ流れなのに、

不思議と気持ちは軽かった。




「準備出来たよー」




「おう。こっちも着替え終わった」




「んじゃ行こっか!はい弁当」




「お、さんきゅ」




2人で部屋を出る。


昨日とは打って変わって晴天。


今日は湿気が強い。




駐車場で、

それぞれの車へ向かう。




「んじゃあ後ラインするね〜!」


「波気をつけなよ!」




「おう。色々ありがとなー」


「仕事頑張れよ」




「ありがとー!」


「じゃあねー」




蒼はタバコに火をつける。


煙を吐きながら、

いつもの海へ向かった。




「よしー」




着替えて、

海辺を歩く。


そのまま沖へ出る。


波待ち。




二、三本乗る。


けど、

どこか感覚が違った。




「なんか違うな」




また一本乗る。


今日は1人だった。




『すごーい!』


『どうやってやるのー?』


『プロじゃーん』




いつの間にか、

ああやって横で騒がれる事に慣れていたのかもしれない。


蒼は小さく笑う。




「でも、やっぱり気持ちいいな」


「1人は1人で違った良さがあるよな」




1本乗った後、浅瀬から沖へ戻ろうとした時だった。


いつかの小学生の声が聞こえる。




「お兄ちゃん!」




「おう!どした?」


蒼が近寄る。




「めっちゃかっこいい!」


「今日はあの怖いお姉さん居ないの?」




「あー今日は仕事だぞ」




「あの人彼女?」




「そうだ」




「へぇー」


「怖いの?」




「怖くないよ」


「めちゃくちゃ優しい」




「澪って言うんだ」




「みお?」




「あぁ」




「お兄ちゃん澪ちゃんの事すごい好きなんだね!」




「は!?」




「澪ちゃんの話してる時の顔デレデレしてる〜!」


指を差して笑われる。




「お前黙ってたら!」




蒼が海水を掛ける。




「うわー!やめてよー!」




走って逃げていく。


蒼はそれを見ながら笑った。




「ふっ、なんだあいつ」


「蓮もあんな風になんのかなw」



「そろそろ上がるか」




シャワーを浴びる。


タオルで髪を拭きながら、


タバコに火をつけた。



色々な事を思い出す。



『あのー、サーフィンやってますか?』




『人と話す時、この人が私を嫌いになるまでどれくらいかかるんだろって考えちゃうんだよね』




『蒼だからだよ』




『私達って過去に縛られて生きていくのかな』




『背負うの!』


『だから無かった事にするなんて言わないで!』




『私も背負う』


『蒼と一緒にいるよ』




清々しい気持ち。


蒼は灰皿にタバコを押し付ける。




弁当箱を取り出し、

防波堤へ座った。




「いただきまーす」




あの日、

ここで再会したんだよな。




空っぽで、

何も無かった俺に。


澪は、

話しかけてきてくれた。




それが今じゃ、

あいつの事考えながら、

あいつが作った弁当食ってる。




人生って、

分かんないもんだな。




蒼は少し笑った。


潮風が静かに吹いていた。




第4章  完


誰かの作った弁当を食べながら、

昔の自分を思い出していた。


空っぽだった海に、

今はちゃんと帰りたくなる理由がある。

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