表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
波待ち。  作者: 阿部兄弟
4章 愛と代償

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
47/84

47話 「月灯」


帰る場所が無くなるわけじゃない。


でも、

帰りたい場所が遠くなる夜はある。


そんな日に限って、

誰かの部屋の灯りがやけに優しかった。


雨は変わらず降っている。


濡れた道路を、

車のライトが流れていった。




「ありがとな今日。着いてきてくれて」


蒼は前を見たまま言った。




「ううん、いいよ」




「澪がいなかったらキツかったわ」




「私も一緒に背負うって言ったじゃん?」


澪が小さく笑う。


少しだけ、

車の空気が柔らかくなった。




「ねぇ」


「ん?」


「鍋しない? ウチで」




「え?」


「鍋?」


「夏に?」




「いいでしょ別に」




「まぁ澪が良いなら」




「よし、んじゃ買い物行こ!」




スーパーに着く。


店内の冷房が、

雨で湿った身体に少し気持ちよかった。


蒼がカートを押す。




「カート似合わないね〜?」




「別に似合わなくても良いわ」




「えーとー白菜とー」


澪が慣れた手つきで、

必要なものをカゴに入れていく。




「よし!こんな感じかな?」


「お酒とか飲む?」




「いや車だし」




「泊まって行ってもいいよ?」




「え?」


蒼が思わず澪を見る。




「明日休みでしょ?


私は仕事だけど遅番だから」




「んー、んじゃあ飲む」




「はい、んじゃビールね」


「あと適当におつまみ作るからその材料も買うねー」




レジを済ませる。


袋を持って、

2人で駐車場へ向かった。




「なんかカップルって感じの事してるね」




「確かに」


「新鮮だな」




エンジンをつけ、

車を走らせる。




「てゆうか俺、彼女の家に泊まるの初めてだわ」




「蒼って以外と硬派だもんねー」




「でも私も初めてかも。ウチに呼ぶの」




「澪のアパートオシャレだよな」




「でしょ?物件探してて、一目惚れしたの!」


「そしたら大家さんがたまたまうちのお母さんの友達でさ! 初期費用も安くしてもらって好条件で入れたんだ!」




「そうなんだな」




「蒼の家は?どんな感じ?」




「普通の古いアパート。コーポなんちゃらみたいな」




「なにそれ」


澪が笑う。




「いやよくあるだろ昔ながらのやつ」




「なんとなく想像ついた」




そんな話をしているうちに、

アパートへ着いた。




「駐車場そこに停めて良いよ!」




「あれ澪の車?」




「そうそう!」




「澪っぽいな」




「褒めてんの?貶してんの?」




「褒めてる」




車を停め、

2人で降りる。


雨の匂いが少し強かった。




「はいどーぞーこちらが我が家です〜」




「お邪魔しまーす」




「と、待ってねー」


「ちょーっと片付けてきます!」


バタン、とドアが閉まる。




五、六分後。


ガチャ、と扉が開いた。




「はいどーぞー我が家ですー」




「お邪魔しまーす」




「おーおー。中もオシャレだな」




「でしょでしょ」




「サーファーズハウスっていうコンセプトでデザイナーと一緒に作ったアパートなんだって〜」


「私もサーファーだしちょうど良いよね!」




「んまぁ確かに」




「住んだ時はサーフィンやってないけどね」




「んじゃ鍋の準備するねー」




「はーい」


蒼が部屋を見渡す。


棚の上に犬の写真があった。




「この犬実家で飼ってんの?」




キッチンから澪の声が返ってくる。


「ん? あーうん。でも去年死んじゃったんだぁ」




「でも最期見とれたから良かったけどね。長生きしたし」




「そっか」


蒼は写真を少し眺める。


近くには、

会社の人達との飲み会の写真も飾ってあった。


楽しそうに笑う澪を見て、

蒼が少し笑った。




「よし!蒼コンロ運んで〜」




「あっはーい」




チチチ、と火がつく。




「後は待つだけと!」


「はいビール!」




「澪は?飲まないの?」




「私お酒あんま得意じゃないの」




「意外だな。めっちゃ飲みそうなのに」




「お母さんはお酒好きなんだけど、お父さんが飲めないんだ。多分お父さんに似たんだね」




「なるほどなー。澪の親ってどんな人?」


蒼がビールを開ける。




「はい。私はジュースだけど」


「カンパーイ」




缶を軽く合わせる。




「あ、そうそう私の親ね」


「お父さんは無口だけどー、家族の前ではふざけるダジャレ親父みたいな感じで」


「お母さんはー、私をもっとうるさくした感じかな」




「なんか良いな。楽しそうな家族だな」




「お母さんに蒼の話したのね?」


「そしたら会いたがってたよー」




「まじ?」




「写真送れー今度家に呼べーってうるさかった」




「楽しみだな澪のお母さん」




「蒼は?お母さんは?」




蒼は少しだけ視線を落とした。


「ウチは早くに母親が出てって、親父が1人で俺と楓を養ってたって感じ」




「お父さん本当に凄いね」




「そりゃ身体も壊すよな」


「天晴れだよ本当に」




鍋がブクブク音を立てる。




「あ!おい!鍋!」




「わー!やばいやばいやばい!」


慌てて火を消す。




「あっぶな!」


澪が笑う。




「食べよ!」


澪が鍋を取り分ける。




「はいどーぞー」




「お、さんきゅ」




「そういえば楓ちゃんって何のバイトしてるの?」




「ガソリンスタンド」




「えーそうなんだー。んじゃ今時期大変じゃない?暑いし」




「んーまぁでもあいつって男に囲まれて育ったから、そういうのの方が性に合ってんじゃね?」




「そっかー。蒼とお父さんと3人暮らしだったんだもんねー」




「だから肝だけは座ってるよな」




「確かに!なんか何起きてもあんまり動じなさそうだよね」




気付けば鍋はほとんど空になっていた。


外ではまだ雨が降っている。




「ねぇ。つまみ……いる?」




「いや……結構腹パンパンだわ」




「だよねー」


澪が余った材料をまとめながら笑った。




「材料買ったけど明日の朝ご飯に回すわー」


_____


_____


「ってもうこんな時間?」


時計は23時を指していた。


_____


_____


食べ終わった皿を重ねながら、

蒼が立ち上がる。




「洗い物やっとくよ」




「良いよ、私やるから」




「いいって。風呂入ってこいよ」




「えー、んじゃ入る」


澪が立ち上がる。




「おう」




「ありがとう」


小さく手を合わせて、

澪が洗面所へ向かっていく。




鍋の洗い物なんて、

そこまで多くない。


蒼は黙々と皿を洗った。


流れる水の音だけが、

部屋に響いている。




洗い物を済ませた頃、

ちょうど澪が戻ってきた。


髪が少し濡れている。




「早いな」




「夏はシャワーで十分でしょ」


「ガス代節約節約♪」




「三十路って感じだな」




「あんたもでしょ!」


澪が笑いながら、

蒼にタオルを投げる。




「ほら!蒼も浴びてきな!」


「服は?オーバーサイズのTシャツならあるよ?」




「あー、んじゃそれ借りる」




「行ってらっしゃーい」




洗った食器が、

綺麗に並べられている。


それを見て、

澪が少し笑った。




「蒼って感じするわぁ」




リビングでスマホを見ていると、

洗面所の方から声がする。




「バスタオルは!?どこ!?」




「洗濯機の上のカゴの中!!」




「はーい」




しばらくして、

蒼が洗面所から出てくる。


少し大きめのTシャツ。


澪の柔軟剤の匂いがした。




「おかえりー」




「ただいま」




「歯ブラシあるよ!来客用の100均のやつだけど」




鏡の前に並んで、

2人で歯を磨く。




「蒼って身長高いよねー」




「親父が高いからなー」




「確かに楓ちゃんもすらっとしてるもんね」




「うん」




口をゆすぎ、

蒼が先にリビングへ戻る。


そのままソファに横になった。




「おやすみー」




「蒼〜、身体痛くなるよ?」


「こっちおいでよ」




「あ、うん」




2人でベッドに入る。


クーラーの音だけが、

静かに部屋へ流れていた。




外の雨はすっかり止み


カーテンの隙間から入る三日月の光が、

薄く部屋を照らしている。


_____


_____


隣から、

澪の体温が伝わってくる。


_____


_____


今日はもう、

何も考えなくていい気がした。

鍋の匂い。


ビールの缶。


柔軟剤の香りが残ったTシャツ。


雨上がりの三日月。


誰かと過ごした夜は、

何気なしにそういうもので出来ている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ