47話 「月灯」
帰る場所が無くなるわけじゃない。
でも、
帰りたい場所が遠くなる夜はある。
そんな日に限って、
誰かの部屋の灯りがやけに優しかった。
雨は変わらず降っている。
濡れた道路を、
車のライトが流れていった。
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「ありがとな今日。着いてきてくれて」
蒼は前を見たまま言った。
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「ううん、いいよ」
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「澪がいなかったらキツかったわ」
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「私も一緒に背負うって言ったじゃん?」
澪が小さく笑う。
少しだけ、
車の空気が柔らかくなった。
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「ねぇ」
「ん?」
「鍋しない? ウチで」
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「え?」
「鍋?」
「夏に?」
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「いいでしょ別に」
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「まぁ澪が良いなら」
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「よし、んじゃ買い物行こ!」
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スーパーに着く。
店内の冷房が、
雨で湿った身体に少し気持ちよかった。
蒼がカートを押す。
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「カート似合わないね〜?」
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「別に似合わなくても良いわ」
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「えーとー白菜とー」
澪が慣れた手つきで、
必要なものをカゴに入れていく。
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「よし!こんな感じかな?」
「お酒とか飲む?」
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「いや車だし」
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「泊まって行ってもいいよ?」
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「え?」
蒼が思わず澪を見る。
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「明日休みでしょ?
私は仕事だけど遅番だから」
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「んー、んじゃあ飲む」
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「はい、んじゃビールね」
「あと適当におつまみ作るからその材料も買うねー」
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レジを済ませる。
袋を持って、
2人で駐車場へ向かった。
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「なんかカップルって感じの事してるね」
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「確かに」
「新鮮だな」
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エンジンをつけ、
車を走らせる。
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「てゆうか俺、彼女の家に泊まるの初めてだわ」
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「蒼って以外と硬派だもんねー」
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「でも私も初めてかも。ウチに呼ぶの」
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「澪のアパートオシャレだよな」
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「でしょ?物件探してて、一目惚れしたの!」
「そしたら大家さんがたまたまうちのお母さんの友達でさ! 初期費用も安くしてもらって好条件で入れたんだ!」
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「そうなんだな」
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「蒼の家は?どんな感じ?」
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「普通の古いアパート。コーポなんちゃらみたいな」
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「なにそれ」
澪が笑う。
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「いやよくあるだろ昔ながらのやつ」
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「なんとなく想像ついた」
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そんな話をしているうちに、
アパートへ着いた。
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「駐車場そこに停めて良いよ!」
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「あれ澪の車?」
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「そうそう!」
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「澪っぽいな」
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「褒めてんの?貶してんの?」
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「褒めてる」
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車を停め、
2人で降りる。
雨の匂いが少し強かった。
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「はいどーぞーこちらが我が家です〜」
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「お邪魔しまーす」
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「と、待ってねー」
「ちょーっと片付けてきます!」
バタン、とドアが閉まる。
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五、六分後。
ガチャ、と扉が開いた。
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「はいどーぞー我が家ですー」
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「お邪魔しまーす」
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「おーおー。中もオシャレだな」
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「でしょでしょ」
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「サーファーズハウスっていうコンセプトでデザイナーと一緒に作ったアパートなんだって〜」
「私もサーファーだしちょうど良いよね!」
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「んまぁ確かに」
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「住んだ時はサーフィンやってないけどね」
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「んじゃ鍋の準備するねー」
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「はーい」
蒼が部屋を見渡す。
棚の上に犬の写真があった。
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「この犬実家で飼ってんの?」
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キッチンから澪の声が返ってくる。
「ん? あーうん。でも去年死んじゃったんだぁ」
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「でも最期見とれたから良かったけどね。長生きしたし」
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「そっか」
蒼は写真を少し眺める。
近くには、
会社の人達との飲み会の写真も飾ってあった。
楽しそうに笑う澪を見て、
蒼が少し笑った。
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「よし!蒼コンロ運んで〜」
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「あっはーい」
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チチチ、と火がつく。
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「後は待つだけと!」
「はいビール!」
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「澪は?飲まないの?」
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「私お酒あんま得意じゃないの」
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「意外だな。めっちゃ飲みそうなのに」
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「お母さんはお酒好きなんだけど、お父さんが飲めないんだ。多分お父さんに似たんだね」
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「なるほどなー。澪の親ってどんな人?」
蒼がビールを開ける。
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「はい。私はジュースだけど」
「カンパーイ」
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缶を軽く合わせる。
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「あ、そうそう私の親ね」
「お父さんは無口だけどー、家族の前ではふざけるダジャレ親父みたいな感じで」
「お母さんはー、私をもっとうるさくした感じかな」
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「なんか良いな。楽しそうな家族だな」
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「お母さんに蒼の話したのね?」
「そしたら会いたがってたよー」
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「まじ?」
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「写真送れー今度家に呼べーってうるさかった」
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「楽しみだな澪のお母さん」
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「蒼は?お母さんは?」
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蒼は少しだけ視線を落とした。
「ウチは早くに母親が出てって、親父が1人で俺と楓を養ってたって感じ」
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「お父さん本当に凄いね」
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「そりゃ身体も壊すよな」
「天晴れだよ本当に」
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鍋がブクブク音を立てる。
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「あ!おい!鍋!」
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「わー!やばいやばいやばい!」
慌てて火を消す。
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「あっぶな!」
澪が笑う。
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「食べよ!」
澪が鍋を取り分ける。
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「はいどーぞー」
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「お、さんきゅ」
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「そういえば楓ちゃんって何のバイトしてるの?」
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「ガソリンスタンド」
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「えーそうなんだー。んじゃ今時期大変じゃない?暑いし」
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「んーまぁでもあいつって男に囲まれて育ったから、そういうのの方が性に合ってんじゃね?」
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「そっかー。蒼とお父さんと3人暮らしだったんだもんねー」
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「だから肝だけは座ってるよな」
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「確かに!なんか何起きてもあんまり動じなさそうだよね」
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気付けば鍋はほとんど空になっていた。
外ではまだ雨が降っている。
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「ねぇ。つまみ……いる?」
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「いや……結構腹パンパンだわ」
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「だよねー」
澪が余った材料をまとめながら笑った。
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「材料買ったけど明日の朝ご飯に回すわー」
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「ってもうこんな時間?」
時計は23時を指していた。
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食べ終わった皿を重ねながら、
蒼が立ち上がる。
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「洗い物やっとくよ」
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「良いよ、私やるから」
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「いいって。風呂入ってこいよ」
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「えー、んじゃ入る」
澪が立ち上がる。
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「おう」
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「ありがとう」
小さく手を合わせて、
澪が洗面所へ向かっていく。
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鍋の洗い物なんて、
そこまで多くない。
蒼は黙々と皿を洗った。
流れる水の音だけが、
部屋に響いている。
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洗い物を済ませた頃、
ちょうど澪が戻ってきた。
髪が少し濡れている。
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「早いな」
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「夏はシャワーで十分でしょ」
「ガス代節約節約♪」
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「三十路って感じだな」
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「あんたもでしょ!」
澪が笑いながら、
蒼にタオルを投げる。
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「ほら!蒼も浴びてきな!」
「服は?オーバーサイズのTシャツならあるよ?」
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「あー、んじゃそれ借りる」
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「行ってらっしゃーい」
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洗った食器が、
綺麗に並べられている。
それを見て、
澪が少し笑った。
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「蒼って感じするわぁ」
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リビングでスマホを見ていると、
洗面所の方から声がする。
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「バスタオルは!?どこ!?」
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「洗濯機の上のカゴの中!!」
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「はーい」
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しばらくして、
蒼が洗面所から出てくる。
少し大きめのTシャツ。
澪の柔軟剤の匂いがした。
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「おかえりー」
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「ただいま」
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「歯ブラシあるよ!来客用の100均のやつだけど」
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鏡の前に並んで、
2人で歯を磨く。
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「蒼って身長高いよねー」
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「親父が高いからなー」
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「確かに楓ちゃんもすらっとしてるもんね」
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「うん」
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口をゆすぎ、
蒼が先にリビングへ戻る。
そのままソファに横になった。
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「おやすみー」
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「蒼〜、身体痛くなるよ?」
「こっちおいでよ」
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「あ、うん」
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2人でベッドに入る。
クーラーの音だけが、
静かに部屋へ流れていた。
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外の雨はすっかり止み
カーテンの隙間から入る三日月の光が、
薄く部屋を照らしている。
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隣から、
澪の体温が伝わってくる。
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今日はもう、
何も考えなくていい気がした。
鍋の匂い。
ビールの缶。
柔軟剤の香りが残ったTシャツ。
雨上がりの三日月。
誰かと過ごした夜は、
何気なしにそういうもので出来ている。




