45話 「残心」
消したくても、
消せないものがある。
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それはきっと、
ちゃんと愛していた証なんだと思う。
朝。
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まだ少し眠そうな街。
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蒼の車がアパートの前へ止まる。
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助手席の窓が開く。
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「おはよう」
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「おはよー」
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澪が乗り込む。
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「眠っ」
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「自分で行くって言ったんだろ」
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「でも海行く時って何故か起きれちゃうんだよね〜」
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「分かる」
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「お、珍しく共感した」
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「なんだそれ」
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澪が笑う。
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車を走らせる。
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朝焼けが少しずつ広がっていく。
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ラジオから小さく音楽が流れていた。
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「今日波いいかなぁ」
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「風次第だな」
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「最近さ」
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「海入る前のこの時間好き」
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「なんで」
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「なんか始まる感じするから」
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蒼が少し笑う。
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「ガキみたいな事言ってんな」
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「哲学的なんですー」
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「はいそうですかー」
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「うざぁw」
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海へ着く。
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空気が気持ちいい。
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二人で着替える。
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ワックスを塗る。
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「今日波いい感じだね」
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「そうだな」
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ボードを抱えて海へ向かう。
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海へ入る。
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冷たい水。
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朝の光。
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波の音。
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「ねぇ蒼」
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「ん?」
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「ドルフィンそろそろ教えて」
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蒼が笑う。
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「前から気になってたんだけどお前ロングなのに何でドルフィンしたがんの?w」
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「え?だって沖に出るにはやらなきゃじゃん」
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「ロングでドルフィンはめちゃくちゃむずいし力いるぞ」
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「じゃあどーするの?」
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「ローリングスルーってのがある」
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「ローリングスルー?」
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「うん。まず普通にパドルして波が来たら板に捕まって体を水中に隠す」
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「板だけ水面に残す感じで波をかわしたらまたいつもと同じパドルの体勢に戻す」
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「ロングだとこれが主流だな」
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「蒼もこれやるの?」
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「ロングの時はこれだな」
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「ショートの時はドルフィンだけど」
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「どっちも出来るんだぁすご!」
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「まぁ歴が違うからなw」
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「とりあえずやってみたら?ローリング」
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「うん」
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澪が実践する。
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波が来る。
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バシャッ。
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「ぶはっ!」
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蒼が笑う。
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「意外とむずいね!」
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「鼻に水入るし〜!」
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「水中入る前に息吸って」
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「潜った時鼻から空気出してれば入らない」
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「それ先に言ってよーw」
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小一時間経つ。
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「大体出来てきたな」
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「ほんと!?」
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「ただこれ使うのってポイントがよっぽど沖にあるとか波がすごい時とかだから澪にはまだ早いかも」
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「それにロングだと小波でも乗れるからまずはそれマスターしてからだな」
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「んー確かにそうかもね」
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「2本ぐらい乗ったら後上がるか」
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「はい!」
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海から上がる。
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シャワー室へ向かう。
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「今日めっちゃ気持ちよかった〜」
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「最近だいぶ様になってきたな」
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「初日あんなガオってたのにw」
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「だってあの時全神経使ったもんw」
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二人で笑う。
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車へ乗る。
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「あースッキリした!」
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「何する?まだまだお昼前だよ?」
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「サーフィンの良いところってさ」
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「これだけ楽しんでも朝早いから時間まだまだある所だよね!」
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「まぁな」
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その時、
蒼のスマホが鳴る。
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画面。
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沙耶香 母
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蒼の表情が少しだけ止まる。
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「もしもし」
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『もしもし蒼君、お久しぶりです』
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『沙耶香から手紙入ってましたか?再婚の件の。』
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「はい、見ました」
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『私たちも色々考えたんだけど、やっぱりお父さん二人居るみたいなのはおかしいと思って』
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『蒼君には申し訳ないんですけど……』
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「はい。分かってます」
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少し間。
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「ただ最後に会わせてください」
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『……本当にすみません』
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『沙耶香の方が歳上なのに、蒼君には迷惑ばっかりかけてしまって』
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「いや、大丈夫です」
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『日程調整するのでまた後日連絡してもいいですか?』
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「いいですよ。んじゃあ」
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電話を切る。
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少しだけ静かになる車内。
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「……大丈夫?」
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澪が小さく聞く。
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蒼が笑う。
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「聞こえてたか?w」
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「まぁな」
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「大丈夫大丈夫」
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「何となく予想してた事だし」
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蒼が前を見る。
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「なんか腹減ったな」
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「ラーメン行くか?この間のとこ」
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(俺には澪がいる。大丈夫。)
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「いいね!いこいこ!」
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蒼がエンジンをかけようとして止まる。
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「……ちょっとタバコだけ吸っていいか?」
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「いいよー」
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「1本だけね?w」
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「逆に1回に何本も吸えねーよw」
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車を降りる。
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火をつける。
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煙を吐く。
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その背中を、
澪は黙って見ていた。
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(何でこんなに優しい人なのに)
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蒼が戻る。
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「よし、行くか」
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「あのさぁ」
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「ん?」
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「私達って過去に縛られたまま生きていくのかな」
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蒼が少し笑う。
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「まだ引きずってんのか?あの男の事」
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「あれは多分もう大丈夫だぞ」
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澪が首を横に振る。
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「んーなんていうか」
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「私のは蒼が全部とってくれたの。」
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「おかげで自分の人生楽しもうって思えた」
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「思えたんだけど、」
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「蒼の場合は……」
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少し間。
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「背負っていくしかないのかな」
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蒼が笑う。
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「俺ならもう大丈夫だって」
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「もう吹っ切れたしw」
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「最初から全部無かったって事にすればさ」
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「ふざけないで!」
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空気が止まる。
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蒼がゆっくりシフトをパーキングへ戻した。
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「そういう事言ってるんじゃないの」
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「背負っていくの」
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「もし例えその子が蒼の存在を忘れて、新しいお父さんのことを本当のお父さんとして認識しても」
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「蒼の中ではその子の事を忘れちゃダメなの」
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「消しちゃダメなの!」
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澪の声が震える。
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「それが、親って事なんだと思う」
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「だから、無かった事にするなんて言っちゃダメ」
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「分かってるんでしょ?自分でも」
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蒼が澪を見る。
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それから、
ゆっくり視線を外へ向けた。
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「……離婚した後も定期的に会っててさ」
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「会う度にパパーって俺に来てくれたんだ」
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小さく笑う。
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「子供用のサーフボードとかも買ってさ」
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「家に置いてあるんだけど」
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少しだけ沈黙。
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「サーフィン、教えたかったな」
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澪は泣きそうになる。
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でも、
泣かなかった。
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「……そうだね」
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「私も背負う」
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「蒼と一緒にいるよ」
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(いつも私のことを助けてくれた)
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(今度は私の番)
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色んな記憶が頭をよぎる。
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パーキング。
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夜の電話。
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抱えていた過去。
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全部。
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「……澪」
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「なに?」
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「本気で好き」
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澪が少し笑う。
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「蒼?」
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「ん?」
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「知ってる〜」
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二人で笑った。
二人で一緒に。
どうしようもない過去は、
無くなるんじゃなくて、
抱えながら、背負いながら生きていくものなのかもしれない。




