表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
波待ち。  作者: 阿部兄弟
4章 愛と代償

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/44

44話 「夜風」


幸せな時間ほど、


終わった後の静けさが、


少しだけ怖かった。


夜。




駅前のロータリーに車を停める。




楓がシートベルトを外しながら伸びをした。




「はー楽しかったぁ」




「お前騒ぎすぎなんだよ」




「いいじゃん別に〜」




楓が笑いながら後部座席から身を乗り出す。




「澪ちゃん!」




「ん?」




「また遊ぼうね!」




「もちろん!」




「そんで!今度服見に行こ!」




「行こ行こw」




蒼がため息をつく。




「勝手に予定増やすな」




「いいじゃんねー?」




「ねー?」




二人で笑う。




楓がドアを開ける。




外の夜風が少しだけ車内へ入ってきた。




「じゃ、お兄ちゃん」




「ん?」




「ちゃんと幸せにしなよ?」




蒼が少し眉をひそめる。




「……わかってるって」




「ならよし!」




楓が笑う。




「じゃーねー!」




手を振りながら駅へ向かっていく。




その後ろ姿が人混みに消えていくまで、


澪は静かに見ていた。




「……いい子だね」




「まぁな」




蒼が短く答える。




車を走らせる。




夜の街。




窓を少し開けると、


冷たい風が入ってきた。




ラジオが小さく流れている。




澪が窓の外を見ながら口を開く。




「なんか今日楽しかったなぁ」




「墓参りなのに?」




「だからじゃない?」




蒼が少しだけ目を向ける。




「なんかさ」




「楓ちゃん見てて思ったんだけど」




「蒼ってちゃんと家族に愛されてるんだね」




「……なんだよそれ」




「いや、なんか安心した」




澪が笑う。




「私さ、昔“家族”って言葉あんまり好きじゃなかったんだよね」




蒼は何も言わず運転する。




「結婚してた時も」




「家族っていうより、ただ一緒にいるだけって感じだったし」




「だから今日みたいなの、ちょっと羨ましかった」





信号で車が止まる。




蒼が前を見たまま言う。




「楓は昔から変わんねぇよ」




「うん。優しいね」




「お前も懐かれてたしな」




「嬉しかった〜」




澪が笑う。




「でもほんとびっくりした」




「ん?」




「蒼があんな普通に笑う人だったんだって」




「失礼だなお前ら」




「だって最初怖かったもんw」




「お前もその話するのかよ」




「だってほんとだもん」




また笑う。




その空気が心地よかった。




何気ない会話。




何気ない夜。




でも、


こういう時間が、


今の二人には何より大切だった。




コンビニへ寄る。




蒼が缶コーヒーを二本持って戻ってくる。




「はい」




「ありがと」




プルタブを開ける音。




車のボンネットに寄りかかる。




夜風が少し冷たい。




澪がコーヒーを飲みながら空を見る。




「なんかさ」




「最近毎日楽しい」




蒼が缶コーヒーを口に運ぶ。




「そりゃ良かった」




「……でもちょっと怖い」




「またそれか」




「だってさ」




「急に全部無くなったら嫌じゃん」




蒼が少し考える。




「まぁな」




「でも」




「無くなる事考えて生きても仕方ねぇだろ」




「今あるもん大事にしろよ」





澪は少し黙る。




それから、


ふっと笑った。




「……うん!」




「そうだね!」





車へ戻る。




澪の家の前。




「今日はありがとね」




「おう」




「なんか今日、ちゃんと蒼の人生の中に入れた気がした」




蒼が少しだけ目を逸らす。




「大袈裟だろ」




「ふふっ」




澪がシートベルトを外す。




降りる前、


少しだけ蒼を見る。




「……好きだよ」




「急だなお前」




「言いたくなっただけ」




澪が笑う。




軽く頬にキスをする。




「んじゃ、おやすみ」




「おう」




ドアが閉まる。




澪が手を振る。




蒼も軽く手を上げる。




車を走らせる。




バックミラー越し。




澪がアパートへ入っていく姿が見えた。




少しだけ口元が緩む。





アパートへ戻る。




階段を上がる。




ポストに何か入っていた。




封筒。




差出人を見る。




山口沙耶香。




蒼の表情が止まる。




部屋へ入る。




静かな部屋。




さっきまでの笑い声が、


もう遠く感じる。




ソファへ座る。




封筒を開ける。




短い文章。




再婚しました。




蓮のためにも、


これからは新しい父親と暮らしていく事を考えています。




だから——




そこで読むのを止める。




蒼は静かに俯いた。




テーブルの上には、


開いたままの封筒。




さっきまで感じていた幸せが、


少しだけ遠くなった気がした。




部屋には、


時計の音だけが響いていた。


人生は、


前に進むほど、


置いてきたものを思い出す。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ