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波待ち。  作者: 阿部兄弟
4章 愛と代償

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43話 「団欒」



特別なことがなくても、


笑い合える時間は、


ちゃんと幸せだった。



墓参りを終えて車へ戻る。



楓が後部座席に乗り込んだ瞬間、


大きく伸びをした。



「お腹空いたー!」



蒼がエンジンをかけながらバックミラーを見る。



「さっきコンビニでパン食ってただろ」



「別腹ですー」



「女子ってほんとそれ好きだよな」



「澪ちゃんもそう思わない?」



突然話を振られて、


澪が笑う。



「わかるかもw」



「ほらー!」



楓が勝ち誇った顔をする。



蒼は呆れたようにハンドルを切った。



「で、何食う?」



「ラーメン!」



「却下」



「えーなんで!?」



「親父の墓参り帰りにニンニク臭くなりたくねぇ」



「意味わかんないんだけどw」



澪が笑いながら窓の外を見る。



昼過ぎの柔らかい光。



さっきまでの静かな空気とは違う、


いつもの日常みたいな空気が車内に戻ってきていた。



「んーじゃあ定食屋とか?」



「お、いいね〜!」



「澪ちゃんセンスある!」



「だろ?」



「いや別にお兄ちゃんは褒めてない」



「うるせぇ」




三人で笑う。



少し前まで、


自分がこうやって誰かの家族みたいな空気の中に居る未来なんて想像していなかった。



でも今は、


不思議なくらい自然だった。




店へ入る。



昔ながらの定食屋。



木のテーブルに少し色褪せたメニュー。



昼時を過ぎているからか、


店内はそこまで混んでいない。



「何にするー?」



楓がメニューを開きながら言う。



「あたし生姜焼き!」



「早っ」



「澪ちゃんは?」



「んー迷うなぁ」



「お兄ちゃんはどうせ唐揚げ定食でしょ」



「なんで分かるんだよ」



「何年兄妹やってると思ってんの」



澪が小さく笑う。



こういうやり取りが自然に出来る兄妹って、


なんかいいなと思った。



自分には無かったもの。



少し羨ましくなるくらいに。




注文を済ませる。



水を飲みながら、


楓がニヤニヤし始めた。



「てかさー」



嫌な予感がする。



蒼が嫌そうな顔をする。



「なんだよ」



「澪ちゃんって、お兄ちゃんのどこが好きなの?」



「おい」



「えー聞きたいじゃん!」



楓が机に身を乗り出す。



澪が少し困ったように笑った。



「えーどこだろ」



「ほら!困ってんじゃねぇか」



「いやいや違うよw」



澪が少し考える。



蒼は露骨に気まずそうな顔をして水を飲んでいた。



「……優しいところかな」



蒼がむせる。



「げほっ……」



「きったな」



「お兄ちゃん照れてるー」



「うるせぇ!」



澪が笑う。



「でも本当に優しいよ?」



「どこが?」



「こういうところ」



「意味わかんねぇ」



「でもわかるー」



楓がうんうん頷く。



「お兄ちゃんってなんだかんだ面倒見いいんだよね」



「昔から?」



「うん。口悪いけど」



「余計だ」




定食が運ばれてくる。



湯気が立つ。



「いただきまーす!」



楓が勢いよく箸を割る。



蒼も箸を持ちながら言う。



「お前大学ちゃんと行ってんのか?」



「行ってますー」



「絶対サボってるだろ」



「サボってませんー」



「怪しい」




「てかお兄ちゃんさ」



楓がニヤッと笑う。



「最近ほんと変わったよね」



「またその話かよ」



「だってほんとなんだもん」



楓が真面目な顔になる。



「前のお兄ちゃんって、


なんかずっとイライラしてたじゃん」



澪が静かに聞いている。



「話しかけづらかったし」



「まぁ否定はしねぇ」



「でも最近普通に笑うじゃん」



「人間味出てきた」



「俺前までなんだったんだよ」



「野良猫?」



澪が吹き出す。



「ふふっ」



「笑うなよ」



「ごめんごめんw」



でも、


少しだけ分かる気がした。



澪が出会った頃の蒼は、


確かにどこか張り詰めていた。



人を近づけないようにしている感じ。



でも今は違う。



こうして笑って、


家族と話して、


隣に自分を置いてくれている。



それが少し嬉しかった。




「でもさ」



楓が箸を置く。



「澪ちゃん居るとお兄ちゃん柔らかくなるんだよね」



蒼が眉をひそめる。



「何だよその犬みたいな言い方」



「実際そうじゃん」



「ねー?」



楓が澪に振る。



澪が少し笑う。



「……そうかもね」



蒼がため息をつく。



「二対一はずりぃだろ」



「多数決でーす」



「なんの多数決だよ」




また笑いが起きる。



その空気が心地よかった。




食事を終え、


店を出る。



外は少し夕方の色になり始めていた。



「はー食った食った」



楓が満足そうに歩く。



「澪ちゃん今度服見に行こ!」



「え、行きたい!」



「勝手に約束すんな」



「いいじゃん別に〜」



楓が澪の腕に軽く抱きつく。



蒼はその姿を見て、


少しだけ目を細めた。



二人とも楽しそうだった。



それを見ている自分も、


なんだか悪くない気分だった。




「ねぇお兄ちゃん」



「なんだよ」



「ちゃんと幸せにしなよ?」



突然真面目な声になる。



蒼が少し黙る。



その横で、


澪も静かに楓を見る。



「……わかってるよ」



短く答える。



でもその声は、


どこか優しかった。



楓が満足そうに笑う。



「ならよし!」



空を見る。



ゆっくり流れる雲。



何でもない一日。



でも、


こういう日がずっと続けばいいと思った。


居場所って、


気づいた時にはもう、


隣に出来ているのかもしれない。

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