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波待ち。  作者: 阿部兄弟
4章 愛と代償

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40/84

40話 「沈影」


過去は、


突然目の前に現れる。


⸻


⸻


でも、


向き合うことはできる。


朝。


⸻


⸻


澪が目を覚ます。


⸻


⸻


昨日買った服の袋が目に入る。


⸻


⸻


少しだけ、


微笑む。


⸻


⸻


⸻


準備を済ませ、


家を出る。


⸻


⸻


車を停め、


職場へ向かって歩く。


⸻


⸻


その時、


昨日の蒼の言葉を思い出す。


⸻


⸻


「とりあえず今から言う事をやれ」


⸻


⸻


「こういうのは初動が大切なんだ」


⸻


⸻


「何をやればいいの?」


⸻


⸻


「何もするな」


⸻


⸻


「……え?」


⸻


⸻


「そのまま。何もしないで、いつも通り振る舞ってろ」


⸻


⸻


「相手はまだ直接的には何もしてきてないだろ?」


⸻


⸻


「そもそも人違いかもしれないし」


⸻


⸻


「かえって何か起こせば刺激しかねない」


⸻


⸻


「だから気にせず、いつも通りしてろ」


⸻


⸻


「……なるほど」


⸻


⸻


「わかった」


⸻


⸻


⸻


(大丈夫だよね)


⸻


⸻


自分に言い聞かせる。


⸻


⸻


⸻


仕事を始める。


⸻


⸻


「いらっしゃいませ〜」


⸻


⸻


「とてもお似合いです!」


⸻


⸻


「ありがとうございました〜」


⸻


⸻


⸻


いつも通り。


⸻


⸻


⸻


休憩中。


⸻


⸻


バックヤード。


⸻


⸻


LINEが鳴る。


⸻


⸻


蒼

「いつも通りな」


⸻


⸻


澪

「分かってる。ありがとう」


⸻


⸻


⸻


その時、


店長が入ってくる。


⸻


⸻


「澪、お疲れ〜」


⸻


⸻


「しほちゃんから聞いた?」


⸻


⸻


「この間の話」


⸻


⸻


「あー、聞きました」


⸻


⸻


「不安にさせてない?」


⸻


⸻


「私もさ、後から不確定な話しちゃったな〜って思って」


⸻


⸻


「大丈夫ですよ!」


⸻


⸻


「気遣わないでください!」


⸻


⸻


「ほんと?」


⸻


⸻


「でもあれ、浦部さんだと思うんだよね〜」


⸻


⸻


「何かあったら言ってね?」


⸻


⸻


「小さいことでもいいから!」


⸻


⸻


「ありがとうございます」


⸻


⸻


「従業員守るのも店長の仕事!」


⸻


⸻


ニカッと笑う。


⸻


⸻


「んじゃね!」


⸻


⸻


「お疲れ様です!」


⸻


⸻


⸻


仕事が終わる。


⸻


⸻


19:00。


⸻


⸻


「お疲れ様でした〜」


⸻


⸻


外に出る。


⸻


⸻


駐車場へ向かう。


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⸻


⸻


澪の姿を、


遠くから見ている影。


⸻


⸻


⸻


その男の横から、


声がする。


⸻


⸻


「おい」


⸻


⸻


「……はい?」


⸻


⸻


「ちょっといい?」


⸻


⸻


⸻


別の路地へ連れていく。


⸻


⸻


「……なんですか?」


⸻


⸻


「ストーカー?」


⸻


⸻


「趣味悪いな、あんた」


⸻


⸻


「何の事ですか?」


⸻


⸻


「とぼけなくていいよ」


⸻


⸻


「全部知ってるから」


⸻


⸻


「あんた、澪の元旦那だろ?」


⸻


⸻


「……そうだけど」


⸻


⸻


「お前は誰だ?」


⸻


⸻


「俺、萩原ってもんだけど」


⸻


⸻


「澪の……まぁ彼氏」


⸻


⸻


「ほー」


⸻


⸻


「んじゃ、その彼氏がなんだ?」


⸻


⸻


「因縁つけにきたのか?」


⸻


⸻


「かかってくればいい」


⸻


⸻


「盛り上がってるところ悪いけど」


⸻


⸻


「別にそんなんじゃない」


⸻


⸻


「たださ」


⸻


⸻


「あんたの澪に対しての言動とか態度」


⸻


⸻


「離婚した今でもトラウマになってるみたいでよ」


⸻


⸻


「そこで本人登場ってなると」


⸻


⸻


「ますます人生上手くいかないだろ?」


⸻


⸻


「だからもう、こういうのやめてくれないか?」


⸻


⸻


「……たかが彼氏如きが」


⸻


⸻


「何、生意気な事言ってんだよ」


⸻


⸻


「お前に関係ない話だろ?」


⸻


⸻


「それに明らかに歳下だよな?」


⸻


⸻


「その口の聞き方なんだ?」


⸻


⸻


「え?」


⸻


⸻


「俺がお前に敬語使う必要どこにあんの?」


⸻


⸻


⸻


睨む。


⸻


⸻


空気が凍る。


⸻


⸻


⸻


「今の、これからの澪に関係ないのは」


⸻


⸻


「お前だろ?」


⸻


⸻


「……っ」


⸻


⸻


「それにさ」


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⸻


「あんたの方も、これからの人生こんな事してていいわけないだろ」


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⸻


「もうちょっと考え直せよ」


⸻


⸻


「俺が言うのもアレだけど」


⸻


⸻


「別れた女のケツ追いかけても、何も変わんないでしょ」


⸻


⸻


⸻


正利が口を開く。


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⸻


「……澪が出てって離婚した後」


⸻


⸻


「色々考えたんだよ」


⸻


⸻


「確かに俺の行動はおかしかったなって」


⸻


⸻


「だから変わったよってところを」


⸻


⸻


「少しでも見せたかった」


⸻


⸻


「……でも、もう遅かったようだな」


⸻


⸻


⸻


「……そうだな」


⸻


⸻


「人の人生は都合良く待ってはくれないから」


⸻


⸻


「タイミングが悪かったんだよ」


⸻


⸻


「……大人だな、君」


⸻


⸻


「ただ捻くれてるだけだよ」


⸻


⸻


⸻


蒼が歩き出す。


⸻


⸻


「萩原君」


⸻


⸻


「……こんな事、僕が言うのもおかしいし余計なお世話だけど」


⸻


⸻


「澪を幸せにしてやってくれ」


⸻


⸻


「……本当余計なお世話w」


⸻


⸻


振り返らず、


手を上げる。


⸻


⸻


⸻


蒼のスマホが鳴る。


⸻


⸻


澪

「何事もなく家に着きました!」


⸻


⸻


蒼

「そうか、良かった」


⸻


⸻


続けて送る。


⸻


⸻


蒼

「どうせビクビクオドオドしてたんだろ?w」


⸻


⸻


⸻


澪が画面を見る。


⸻


⸻


LINE

「どうせビクビクオドオドしてたんだろ?w」


⸻


⸻


「……うざw」


⸻


⸻


文字を打つ。


⸻


⸻


「してない!」


⸻


⸻


「うざい!」


⸻


⸻


少しだけ間。


⸻


⸻


⸻


「……ありがとうね〜」


⸻


⸻


⸻


蒼は車に乗る。


⸻


⸻


タバコに火をつける。


⸻


⸻


大きく吐いた煙は、


⸻


⸻


夜風に舞い、


静かに消えていった。


沈んでいくのは、


未練だけじゃない。


⸻


⸻


静かになった心にも、


ちゃんと意味がある。

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