40話 「沈影」
過去は、
突然目の前に現れる。
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でも、
向き合うことはできる。
朝。
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澪が目を覚ます。
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昨日買った服の袋が目に入る。
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少しだけ、
微笑む。
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準備を済ませ、
家を出る。
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車を停め、
職場へ向かって歩く。
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その時、
昨日の蒼の言葉を思い出す。
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「とりあえず今から言う事をやれ」
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「こういうのは初動が大切なんだ」
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「何をやればいいの?」
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「何もするな」
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「……え?」
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「そのまま。何もしないで、いつも通り振る舞ってろ」
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「相手はまだ直接的には何もしてきてないだろ?」
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「そもそも人違いかもしれないし」
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「かえって何か起こせば刺激しかねない」
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「だから気にせず、いつも通りしてろ」
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「……なるほど」
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「わかった」
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(大丈夫だよね)
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自分に言い聞かせる。
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仕事を始める。
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「いらっしゃいませ〜」
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「とてもお似合いです!」
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「ありがとうございました〜」
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いつも通り。
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休憩中。
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バックヤード。
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LINEが鳴る。
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蒼
「いつも通りな」
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澪
「分かってる。ありがとう」
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その時、
店長が入ってくる。
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「澪、お疲れ〜」
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「しほちゃんから聞いた?」
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「この間の話」
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「あー、聞きました」
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「不安にさせてない?」
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「私もさ、後から不確定な話しちゃったな〜って思って」
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「大丈夫ですよ!」
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「気遣わないでください!」
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「ほんと?」
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「でもあれ、浦部さんだと思うんだよね〜」
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「何かあったら言ってね?」
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「小さいことでもいいから!」
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「ありがとうございます」
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「従業員守るのも店長の仕事!」
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ニカッと笑う。
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「んじゃね!」
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「お疲れ様です!」
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仕事が終わる。
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19:00。
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「お疲れ様でした〜」
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外に出る。
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駐車場へ向かう。
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澪の姿を、
遠くから見ている影。
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その男の横から、
声がする。
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「おい」
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「……はい?」
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「ちょっといい?」
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別の路地へ連れていく。
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「……なんですか?」
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「ストーカー?」
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「趣味悪いな、あんた」
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「何の事ですか?」
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「とぼけなくていいよ」
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「全部知ってるから」
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「あんた、澪の元旦那だろ?」
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「……そうだけど」
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「お前は誰だ?」
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「俺、萩原ってもんだけど」
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「澪の……まぁ彼氏」
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「ほー」
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「んじゃ、その彼氏がなんだ?」
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「因縁つけにきたのか?」
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「かかってくればいい」
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「盛り上がってるところ悪いけど」
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「別にそんなんじゃない」
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「たださ」
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「あんたの澪に対しての言動とか態度」
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「離婚した今でもトラウマになってるみたいでよ」
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「そこで本人登場ってなると」
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「ますます人生上手くいかないだろ?」
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「だからもう、こういうのやめてくれないか?」
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「……たかが彼氏如きが」
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「何、生意気な事言ってんだよ」
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「お前に関係ない話だろ?」
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「それに明らかに歳下だよな?」
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「その口の聞き方なんだ?」
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「え?」
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「俺がお前に敬語使う必要どこにあんの?」
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睨む。
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空気が凍る。
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「今の、これからの澪に関係ないのは」
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「お前だろ?」
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「……っ」
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「それにさ」
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「あんたの方も、これからの人生こんな事してていいわけないだろ」
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「もうちょっと考え直せよ」
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「俺が言うのもアレだけど」
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「別れた女のケツ追いかけても、何も変わんないでしょ」
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正利が口を開く。
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「……澪が出てって離婚した後」
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「色々考えたんだよ」
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「確かに俺の行動はおかしかったなって」
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「だから変わったよってところを」
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「少しでも見せたかった」
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「……でも、もう遅かったようだな」
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「……そうだな」
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「人の人生は都合良く待ってはくれないから」
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「タイミングが悪かったんだよ」
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「……大人だな、君」
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「ただ捻くれてるだけだよ」
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蒼が歩き出す。
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「萩原君」
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「……こんな事、僕が言うのもおかしいし余計なお世話だけど」
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「澪を幸せにしてやってくれ」
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「……本当余計なお世話w」
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振り返らず、
手を上げる。
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蒼のスマホが鳴る。
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澪
「何事もなく家に着きました!」
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蒼
「そうか、良かった」
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続けて送る。
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蒼
「どうせビクビクオドオドしてたんだろ?w」
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澪が画面を見る。
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LINE
「どうせビクビクオドオドしてたんだろ?w」
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「……うざw」
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文字を打つ。
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「してない!」
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「うざい!」
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少しだけ間。
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「……ありがとうね〜」
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蒼は車に乗る。
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タバコに火をつける。
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大きく吐いた煙は、
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夜風に舞い、
静かに消えていった。
沈んでいくのは、
未練だけじゃない。
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静かになった心にも、
ちゃんと意味がある。




