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波待ち。  作者: 阿部兄弟
1章 再会と再開

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4話 「記憶」

人は、見えている部分だけで判断する。


明るいとか、軽いとか、

近寄りづらいとか。


でもその奥にあるものは、

案外、誰にも見えていない。


これは、

そんな「見え方」と「本当」の話。

教室の真ん中。


---


そこに澪の席があった。


---


最初から決まってたみたいに。


---


誰かが集まる場所って、だいたい自然にできるもんだけど。


---


あいつの場合は、ちょっと違った。


---


最初からそこが中心だった。


---


休み時間になると、自然と人が集まる。


---


笑い声が広がる。


---


それが当たり前みたいな空気。


---


無理に作ってる感じはない。


---


でも、ちゃんと中心にいる。


---


そんなやつだった。


---


---


俺はその少し外側。


---


隣町の高校だったってのもあるし、


---


元々、馴染むの得意な方じゃない。


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それに加えて——


---


「話しかけづらいよね」


---


「なんかオーラ出てる」


---


よく言われた。


---


別にそんなつもりないんだけどな。


---


---


気づけば、一人でいることが多かった。


---


それが楽だったし、別に困ってもなかった。


---


---


でも、視界には入る。


---


いつも。


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---


澪は目立ってた。


---


美人とか、そういうのもあるけど。


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それだけじゃない。


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空気の作り方がうまい。


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誰とでも話せる。


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でも、距離の取り方も分かってる。


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近すぎない。


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遠すぎない。


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男はよく寄ってた。


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分かりやすいやつも多い。


---


下心丸出しみたいな。


---


澪はそれを、さらっといなす。


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慣れてる感じだった。


---


笑ったまま、ちゃんと線引いてる。


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その感じが、逆に引っかかった。


---


軽いっていうか。


---


いや、違うな。


---


軽そうに見せてるだけで、


---


中身が見えない。


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感情があるのか、ないのか。


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分からない。


---


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でも。


---


いつも笑ってた。


---


授業中だった。


---


黒板の文字も、先生の声も、なんとなく流して聞いてた。


---


その時。


---


ポケットの中で、ずっと震えてる。


---


一回じゃない。


---


何回も。


---


気づかないふりしてたけど、さすがにおかしい。


---


「……すいません、トイレ」


---


立ち上がって、そのまま教室を出る。


---


廊下。


---


ポケットからスマホを取り出す。


---


知らない番号。


---


少しだけ迷ってから、折り返す。


---


「もしもし」


---


少し間。


---


「〇〇病院です」


---


頭の中が、止まる。


---


話は続いてるのに、うまく入ってこない。


---


親父が倒れた。


---


救急車。


---


会社。


---


断片だけが残る。


---


---


教室に戻る。


---


ドアを開ける。


---


先生の視線。


---


何か言ってる。


---


うまく聞こえない。


---


「すいません、親父が倒れて…」


---


それだけ伝える。


---


担任の顔が少し変わる。


---


「行ってこい」


---


---


振り返る。


---


その一瞬。


---


澪と目が合う。


---


---


澪が、少しだけ笑う。


---


いつもと同じ顔。


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軽く、ニコッと。


---


---


——なんなんだよ


---


場違いなその感じに、少しだけ引っかかる。


---


でも、それどころじゃない。


---


---


教室を出る。


---


そのまま駅まで走る。


---


---


電車の中。


---


何も考えられない。


---


ただ、さっきの言葉だけが残ってる。


---


---


病院に着く。


---


消毒液の匂い。


---


白い壁。


---


---


妹がいた。


---


先に来てたらしい。


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顔を見た瞬間、泣き出す。


---


「お兄ちゃん…」


---


蒼は少しだけ息を吐く。


---


「大丈夫だ」


---


それしか出てこない。


---


---


自分に言ってるみたいだった。


---


---


少しして、医者が来る。


---


説明を受ける。


---


肺がん。


---


言葉だけが残る。


---


中身は入ってこない。


---


---


病室。


---


ベッドの上。


---


親父がいる。


---


少しだけ痩せて見えた。


---


---


「蒼か…」


---


弱い声。


---


「ごめんな」


---


---


蒼は首を振る。


---


「謝んなくていいよ」


---


少し間。


---


「親父のせいじゃねぇだろ」


---


---


沈黙。


---


機械の音だけが鳴ってる。


---


---


蒼が口を開く。


---


「親父」


---


少しだけ間。


---


「俺、学校辞めるわ」


---


---


親父がゆっくり顔を上げる。


---


「……蒼」


---


蒼は続ける。


---


「別に元々、真面目にやってたわけでもねぇし」


---


「なんとなくで入った学校だし」


---


---


言葉にしながら、もう決めてる。


---


---


親父がかすれた声で言う。


---


「保険も入ってる」


---


「金の心配は…」


---


蒼は首を振る。


---


「いいって」


---


少しだけ強く。


---


「楓もいるし」


---


「俺が働く」


---


---


その言葉に、迷いはない。


---


---


親父が目を閉じる。


---


「……すまん」


---


---


蒼は少しだけ息を吐く。


---


「いいって」


---


---


それ以上は、何も言わなかった。


---


---


決まったことだから。

あのときの笑顔の意味を、

蒼はまだ知らない。


ただ引っかかるだけで、

答えには辿り着かない。


でもその違和感は、

確かに残っている。


それが、

二人を繋いでいく。

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