表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
波待ち。  作者: 阿部兄弟
1章 再会と再開

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/38

3話 「余白」

軽い会話のはずだった。


でも、気づけば少しずつ、

お互いの過去に触れていく。


言葉は少ないのに、

分かってしまうことがある。


この時間はまだ穏やかで、

どこか静かに揺れている。

「蒼だからだよ」


---


その一言のあと。


---


蒼は少しだけ間を置いて、視線を前に戻す。


---


「なんだそりゃ」


---


軽く流す。


---


それ以上は触れない。


---


澪も、追わない。


---


少しだけ間があってから。


---


「あ、そこ右」


---


さっきまでの空気を切るみたいに。


---


「そのあと左に水色の看板あるから、そこ」


---


蒼は何も言わず、ハンドルを切る。


---


---


カフェの前で車が止まる。


---


港町に馴染んだ、少しラフで、でも整ってる店。


---


ドアを開ける。


---


カランカラン。


---


「いらっしゃいませー。お二人様ですか?」


---


「はい」


---


「こちらへどうぞ」


---


窓際の席。


---


海が少しだけ見える。


---


向かい合って座る。


---


澪がメニューを開く。


---


「どれにしよっかなー」


---


顔を上げて。


---


「好きなの頼んでいいよ」


---


蒼は軽く目を落とす。


---


「じゃあ、これでいい」


---


短く決める。


---


---


しばらくして、飲み物が運ばれてくる。


---


蒼の前にコーヒー。


---


澪の前にコーヒーとクロワッサン。


---


澪がパンを手に取りながら言う。


---


「ほんとに何もいらないの?」


---


「運動したあとって、なんか食べた方がよくない?」


---


蒼はカップに手をかける。


---


「そんな腹減ってない」


---


「大丈夫」


---


澪は少しだけ首を傾げる。


---


「ふーん」


---


一口食べる。


---


「私は食べるけどね」


---


少し笑う。


---


---


間。


---


澪がふと顔を上げる。


---


「てかさ」


---


「ん?」


---


「蒼ってさ」


---


少し間。


---


「高校辞めてから、どんな感じだったの?」


---


続けて。


---


「てかさ、なんで辞めたの?」


---


蒼は一瞬だけ視線を落とす。


---


カップの中を見る。


---


「家、父子家庭でさ」


---


少し間。


---


「親父が病気になって」


---


「下もまだ小さかったから」


---


「働くしかなくて辞めた」


---


それだけ。


---


澪は何も挟まない。


---


ただ、蒼の目を見る。


---


少しして。


---


「そっか」


---


短い一言。


---


でも、ちゃんと受け取ってる感じがする。


---


澪が続ける。


---


「そのあと?」


---


蒼は少しだけ息を吐く。


---


「昼と夜で働いて」


---


「下のやつが高校入るタイミングで、今の会社入って」


---


少し間。


---


「そっから結婚した」


---


澪の手が少し止まる。


---


「結婚したの?」


---


「今も?」


---


蒼は首を振る。


---


「いや、今は一人」


---


澪は少しだけ視線を落とす。


---


「そっか」


---


聞かない。


---


でも、分かってる感じがある。


---


蒼が続ける。


---


「嫁が浮気してな」


---


淡々と。


---


「子供もいたけど、親権取られて」


---


少し間。


---


「それが3年前」


---


澪はすぐに言葉を返さない。


---


少しだけ考えてから。


---


「色々、あったんだね」


---


静かに。


---


「蒼にも」


---


蒼は何も言わない。


---


コーヒーを一口飲む。


---


それだけ。


---


---


少しして。


---


蒼が言う。


---


「澪は?」


---


澪は少しだけ笑う。


---


「んー」


---


軽く考えるふりをして。


---


「普通に卒業して」


---


「そのまま今の会社入って」


---


「会社の人と結婚して」


---


そこまで言って、少しだけ止まる。


---


蒼はその“止まり方”を見る。


---


言葉じゃなくて、空気で分かる。


---


澪が続ける。


---


「…私も蒼と一緒だよ」


---


短く。


---


それだけ。


---


蒼は小さく頷く。


---


「なるほどな」


---


それ以上は聞かない。


---


聞く必要がない。


---


さっきまで笑ってた顔が、少しだけ曇ってるから。


---


---


少しの沈黙。


---


窓の外、海が見える。


---


その向こうに、光が揺れてる。


---


蒼はふと視線を外す。


---


——変わんねぇな


---


昔から。


---


あいつはずっと、ああいう顔してた。


---


明るくて。


---


周りに人がいて。


---


でも。


---


どこかだけ、違う。


---


---


記憶が、少しずつ戻る。


---


教室。


---


昼休み。


---


笑い声。


---


中心にいるのは、澪だった。

過去は消えない。


忘れたつもりでも、

ふとした瞬間に戻ってくる。


そしてそれは、

今の自分の見え方を変えていく。


この再会は、

ただの偶然じゃ終わらない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ