2話「残響」
再会のあと、二人は同じ車に乗る。
ただそれだけの時間。
でも、距離が少しずつ変わっていくのが分かる。
何気ない会話の中に、
言葉にしきれない違和感が混じり始める。
駐車場に戻る。
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澪がボードを軽く持ち上げながら言う。
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「ねぇ、車で来たんだよね?」
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蒼はポケットからキーを出す。
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「そうだけど」
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「私のボードとセット、積んでもいい?」
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蒼は少しだけそれを見る。
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「いいけど」
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少し間。
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「それ、まさか歩いてきたの?」
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澪は何でもない顔で頷く。
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「うん、そうだよ」
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蒼が少し笑う。
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「マジかよ」
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「うちすぐそこだし」
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澪はそう言いながら、自然な動きでトランクを開ける。
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ボードを積み込む手つきは、慣れてないけど雑でもない。
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閉めて、そのまま助手席に回る。
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ドアを開けて、迷いなく座る。
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エンジンをかける。
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低い音。
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長く乗ってる感じの、少しだけくたびれた車。
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でも、ちゃんと手入れはされてる。
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澪が中を見回す。
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「えー、なんかもう蒼って感じの車だね」
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少し笑う。
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「こういうの好き。車も、中の感じも」
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蒼は前を向いたまま言う。
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「なんだよそれ」
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少しだけ笑う。
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「もうオンボロだけどな」
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澪は首を振る。
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「そういうのがいいんだよ」
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車が動き出す。
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澪が軽く前を指す。
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「道案内するねー」
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少し間。
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「てかさ」
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蒼「ん?」
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「蒼って地元、隣町だよね?」
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蒼は軽く頷く。
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「まぁな」
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澪は続ける。
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「なんでわざわざこっち来てるの?」
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蒼は少しだけ考える。
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「別に大した理由じゃないけど」
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前を見たまま。
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「いいポイントあるのと」
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少し間。
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「知り合いに会わないってのが楽だから」
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そのまま、少しだけ澪の方を見る。
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澪は一瞬だけ止まってから、笑う。
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「なにそれ」
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少し肩をすくめる。
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「お忍び芸能人じゃないんだから」
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すぐに続ける。
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「そしたら私に会っちゃったじゃん」
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笑う。
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「ウケる」
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蒼も少しだけ笑う。
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それから、少しだけトーンが落ちる。
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「まぁ…」
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短く息を吐く。
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「なんか色々あってさ」
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少し間。
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「ここ2、3年、人付き合い避けてたんだよね」
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澪は何も言わない。
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ただ、小さく二回頷く。
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そのまま、窓の外を見る。
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流れる景色。
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少しして、ぽつりと。
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「わかる」
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蒼は何も言わない。
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澪が続ける。
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「そういう時、あるよね」
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少し間。
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「実は私もそんな感じでさ」
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視線は外のまま。
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「サーフィン始めようと思ったのも」
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「一人でできるし」
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「なんか、自然感じれるっていうか」
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少しだけ笑う。
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そのタイミングで、蒼が吹き出す。
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「一人でできてなかったけどな」
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澪は視線を外したまま。
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蒼が続ける。
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「最初から教えてもらう気だったろ」
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少し笑う。
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澪はそのまま、窓の外を見ている。
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少しだけ間。
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静かな声で。
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「蒼だからだよ」
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その一言で、空気が変わる。
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時間が一瞬、止まる。
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さっきまでの軽さが、どこかに引っかかる。
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蒼は何も言えない。
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言葉が出てこない。
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でも、その感じだけは、はっきり残る。
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——またか
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この感じ。
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嫌じゃないのに、引っかかる。
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説明できないのに、消えない。
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車はそのまま進んでいく。
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何もなかったみたいに。
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でも、さっきまでとは少し違う。
同じ車に乗っただけ。
それだけのはずなのに、
何かが少しだけ変わった気がする。
言葉にできない違和感。
でもそれは、
確かに残っている。
その正体に気づくのは、
もう少し先の話。




