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波待ち。  作者: 阿部兄弟
4章 愛と代償

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38/84

38話 「平熱」


特別じゃない朝が、


少しだけ違って見えた。


⸻


⸻


それが心地よかった。



アラームが鳴る。


⸻


⸻


目を開ける。


⸻


⸻


ぼんやりしたまま、


携帯を見る。


⸻


⸻


LINEが入っていた。


⸻


⸻


澪

「昨日、私のこと考えて寝れなかった?」


⸻


⸻


「……」


⸻


⸻


思わず、


笑う。


⸻


⸻


テレビの黒い画面に、


自分の顔が映る。


⸻


⸻


その笑った顔を見て、


すぐに表情を戻す。


⸻


⸻


「……」


⸻


⸻


少しだけ、


照れる。


⸻


⸻


「別にそんなことねーよ」


⸻


⸻


送る。


⸻


⸻


⸻


既読。


⸻


⸻


すぐに返ってくる。


⸻


⸻


「ふふっ、シャイボーイ君」


⸻


⸻


「……」


⸻


⸻


昨日のことを、


思い出す。


⸻


⸻


頬に残る感触。


⸻


⸻


無意識に、


触れる。


⸻


⸻


「……ふん」


⸻


⸻


携帯を置く。


⸻


⸻


⸻


歯を磨く。


⸻


⸻


コーヒーを飲む。


⸻


⸻


タバコに火をつける。


⸻


⸻


煙が上がる。


⸻


⸻


⸻


なんでもない朝。


⸻


⸻


⸻


なのに、


少しだけ違う。


⸻


⸻


⸻


日常に、


花が咲いたみたいな。


⸻


⸻


⸻


何してても、


少しだけ楽しい。


⸻


⸻


⸻


「……こんなの、いつぶりだ」


⸻


⸻


⸻


会社に着く。


⸻


⸻


⸻


「うぇい!蒼!」


⸻


⸻


「朝から機嫌いいじゃねーか」


⸻


⸻


「別に普通っすよ」


⸻


⸻


「ほんとかぁ?」


⸻


⸻


先輩が、


ニヤニヤしながら小指を立てる。


⸻


⸻


「……はい」


⸻


⸻


⸻


「えぇ!?」


⸻


⸻


「マジかよお前!」


⸻


⸻


「どんな子だ!?」


⸻


⸻


蒼はそのまま、


無視して歩く。


⸻


⸻


⸻


休憩中。


⸻


⸻


「工場長!」


⸻


⸻


「蒼のやつやっぱりこれでしたよ!」


⸻


⸻


「やっぱか!」


⸻


⸻


「認めたのか!?」


⸻


⸻


「はい!」


⸻


⸻


⸻


「蒼、ちょっと来い」


⸻


⸻


「なんですか」


⸻


⸻


「どんな子だ」


⸻


⸻


「顔見せなさい」


⸻


⸻


「嫌ですよ」


⸻


⸻


「なんで見せなきゃないんですか」


⸻


⸻


「上司として責任がある」


⸻


⸻


「関係ないでしょ」


⸻


⸻


「頼むって!」


⸻


⸻


「俺からも!」


⸻


⸻


「写真持ってないんすよ」


⸻


⸻


「はぁ!?」


⸻


⸻


「今どき一緒に自撮りとかすんじゃねーのか!?」


⸻


⸻


「いやもう30すよ」


⸻


⸻


「写真ぐらい持ってないとダメだろー!」


⸻


⸻


「男として恥ずかしいぞ!」


⸻


⸻


「……そうなんすかね」


⸻


⸻


⸻


蒼は少し考える。


⸻


⸻


⸻


⸻


⸻


携帯を開く。


⸻


⸻


「澪、顔写真送って」


⸻


⸻


「なにそれww」


⸻


⸻


すぐに、


何枚か送られてくる。


⸻


⸻


⸻


蒼が見る。


⸻


⸻


その横に、


先輩と工場長が顔を寄せる。


⸻


⸻


「おいおいおい!」


⸻


⸻


「めっちゃ可愛いじゃねーかよお前!」


⸻


⸻


「どこで出会った!?」


⸻


⸻


「高校の同級生で」


⸻


⸻


「ちょっと前に海で再会して」


⸻


⸻


「って感じです」


⸻


⸻


「いいねぇ〜!」


⸻


⸻


「俺もサーフィンやろっかな〜」


⸻


⸻


⸻


笑いが起きる。


⸻


⸻


⸻


その時、


またLINEが鳴る。


⸻


⸻


「蒼の写真も送ってよ」


⸻


⸻


⸻


⸻


一方その頃。


⸻


⸻


⸻


「ねぇ澪〜」


⸻


⸻


「この冬服なんだけどさ」


⸻


⸻


「見てよ〜」


⸻


⸻


⸻


同僚が、


バックヤードに入ってくる。


⸻


⸻


目が合う。


⸻


⸻


「……なにニヤけてんの?w」


⸻


⸻


「え?」


⸻


⸻


「ニヤけてないよ?」


⸻


⸻


「ニヤけてたよ!」


⸻


⸻


「めちゃくちゃ!」


⸻


⸻


「あー!彼氏できたんでしょー?」


⸻


⸻


「この間の人?」


⸻


⸻


「付き合ったの!?」


⸻


⸻


「……うん」


⸻


⸻


「きゃー!!」


⸻


⸻


「おめでとう!!」


⸻


⸻


⸻


「いいなー」


⸻


⸻


「なんかキラキラしてるわー」


⸻


⸻


「そんなことないよー」


⸻


⸻


⸻


「でもいいじゃん」


⸻


⸻


「大人の恋って感じでさ」


⸻


⸻


⸻


少しだけ、


間。


⸻


⸻


⸻


「……そういえばさ」


⸻


⸻


「浦部さんとはもう連絡取ってないよね?」


⸻


⸻


「……うん」


⸻


⸻


「この間さ」


⸻


⸻


「店の近くで見たって店長が言ってて」


⸻


⸻


「え……」


⸻


⸻


「別れてから担当変えてもらったじゃん?」


⸻


⸻


「それから来てないと思ったらさ」


⸻


⸻


「そんな話聞いて」


⸻


⸻


「……そうなんだ」


⸻


⸻


「でも、たまたまじゃない?」


⸻


⸻


「だよね!?」


⸻


⸻


「もし来てもさ」


⸻


⸻


「愛しの彼氏がなんとかしてくれるよ!」


⸻


⸻


「もうやめてよ〜」


⸻


⸻


⸻


笑いながら、


流す。


⸻


⸻


⸻


でも、


⸻


⸻


少しだけ、


引っかかった。

変わらない日々の中に、


ちゃんと残るものがある。


⸻


⸻


それを、


見逃さないでいたい。

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