38話 「平熱」
特別じゃない朝が、
少しだけ違って見えた。
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それが心地よかった。
アラームが鳴る。
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目を開ける。
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ぼんやりしたまま、
携帯を見る。
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LINEが入っていた。
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澪
「昨日、私のこと考えて寝れなかった?」
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「……」
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思わず、
笑う。
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テレビの黒い画面に、
自分の顔が映る。
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その笑った顔を見て、
すぐに表情を戻す。
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「……」
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少しだけ、
照れる。
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「別にそんなことねーよ」
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送る。
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既読。
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すぐに返ってくる。
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「ふふっ、シャイボーイ君」
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「……」
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昨日のことを、
思い出す。
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頬に残る感触。
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無意識に、
触れる。
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「……ふん」
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携帯を置く。
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歯を磨く。
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コーヒーを飲む。
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タバコに火をつける。
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煙が上がる。
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なんでもない朝。
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なのに、
少しだけ違う。
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日常に、
花が咲いたみたいな。
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何してても、
少しだけ楽しい。
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「……こんなの、いつぶりだ」
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会社に着く。
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「うぇい!蒼!」
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「朝から機嫌いいじゃねーか」
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「別に普通っすよ」
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「ほんとかぁ?」
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先輩が、
ニヤニヤしながら小指を立てる。
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「……はい」
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「えぇ!?」
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「マジかよお前!」
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「どんな子だ!?」
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蒼はそのまま、
無視して歩く。
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休憩中。
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「工場長!」
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「蒼のやつやっぱりこれでしたよ!」
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「やっぱか!」
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「認めたのか!?」
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「はい!」
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「蒼、ちょっと来い」
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「なんですか」
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「どんな子だ」
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「顔見せなさい」
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「嫌ですよ」
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「なんで見せなきゃないんですか」
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「上司として責任がある」
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「関係ないでしょ」
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「頼むって!」
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「俺からも!」
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「写真持ってないんすよ」
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「はぁ!?」
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「今どき一緒に自撮りとかすんじゃねーのか!?」
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「いやもう30すよ」
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「写真ぐらい持ってないとダメだろー!」
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「男として恥ずかしいぞ!」
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「……そうなんすかね」
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蒼は少し考える。
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携帯を開く。
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「澪、顔写真送って」
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「なにそれww」
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すぐに、
何枚か送られてくる。
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蒼が見る。
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その横に、
先輩と工場長が顔を寄せる。
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「おいおいおい!」
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「めっちゃ可愛いじゃねーかよお前!」
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「どこで出会った!?」
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「高校の同級生で」
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「ちょっと前に海で再会して」
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「って感じです」
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「いいねぇ〜!」
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「俺もサーフィンやろっかな〜」
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笑いが起きる。
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その時、
またLINEが鳴る。
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「蒼の写真も送ってよ」
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一方その頃。
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「ねぇ澪〜」
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「この冬服なんだけどさ」
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「見てよ〜」
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同僚が、
バックヤードに入ってくる。
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目が合う。
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「……なにニヤけてんの?w」
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「え?」
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「ニヤけてないよ?」
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「ニヤけてたよ!」
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「めちゃくちゃ!」
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「あー!彼氏できたんでしょー?」
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「この間の人?」
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「付き合ったの!?」
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「……うん」
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「きゃー!!」
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「おめでとう!!」
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「いいなー」
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「なんかキラキラしてるわー」
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「そんなことないよー」
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「でもいいじゃん」
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「大人の恋って感じでさ」
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少しだけ、
間。
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「……そういえばさ」
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「浦部さんとはもう連絡取ってないよね?」
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「……うん」
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「この間さ」
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「店の近くで見たって店長が言ってて」
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「え……」
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「別れてから担当変えてもらったじゃん?」
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「それから来てないと思ったらさ」
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「そんな話聞いて」
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「……そうなんだ」
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「でも、たまたまじゃない?」
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「だよね!?」
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「もし来てもさ」
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「愛しの彼氏がなんとかしてくれるよ!」
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「もうやめてよ〜」
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笑いながら、
流す。
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でも、
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少しだけ、
引っかかった。
変わらない日々の中に、
ちゃんと残るものがある。
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それを、
見逃さないでいたい。




