37話 「青春」
遅かったんじゃない。
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全部ここに来るための、
時間だった。
第4章 始まる。
車は走っている。
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夕陽はもう沈みかけていた。
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オレンジの残りが、
フロントガラスにうっすら映る。
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「ねぇ」
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「ん?」
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「さっきのさ」
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少しだけ間。
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「ちゃんと覚えとくね」
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「……おう」
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それだけで、
ちゃんと残る。
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「ねぇねぇ」
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「お互い色々あって、再会したじゃん?」
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「……あぁ」
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「なんかさ、意味あったのかもね」
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澪は、
窓の外を見ながら続ける。
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「私さ、海で蒼見つけた時」
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「話しかけなきゃ、一生後悔するって思って」
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「私の中ではさ」
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「蒼って、あの時退学したままだったから」
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「もう二度と会わないって思ってたの」
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「だから、話しかけた」
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「……だったらさ」
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「なんで普通に話しかけてこなかったんだよ」
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少しだけ笑う。
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「最初はね?」
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「そうしようと思ったんだけど」
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「顔が怖くてw」
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「失礼なやつだな」
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「俺もさ」
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「話しかけられた時、すぐ分かったよ」
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「あ、この顔、あいつだって」
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「そうだよね」
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「すぐ聞いてきたもんね」
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「嬉しかった」
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「覚えてくれてたの」
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「逆にさ」
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「あのクラスでお前のこと覚えてないやついないだろ」
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「まぁ確かにw」
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「目立ってはいたよね」
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「目立ちすぎだろ」
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二人で笑う。
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「ねぇ」
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「ん?」
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「私たちってさ」
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少しだけ、
言葉を選ぶ。
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「今日から付き合ってるでいいんだよね?」
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「……まぁ、そうだな」
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「ふふっ」
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「なんか変な感じ」
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「確かに」
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「もう大人だしね」
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「28だからな」
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「大人の青春ってやつだね」
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「……あぁ」
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「なんかいいな、それ」
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また、
笑う。
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澪の家に着く。
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「よし」
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「んじゃあ、ありがとうね」
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「おう」
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ドアを開ける。
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「あ、ちょっと待って」
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「後ろ車来てる、ハザードつけて」
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蒼がスイッチに手を伸ばす。
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その瞬間。
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頬に、
触れる。
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——チュッ
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「……っ!?」
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クラクションが鳴る。
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「おい!何やってんだよ!」
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「えー?w」
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「蒼ってさ」
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「そんな見た目してて結構シャイだよね〜」
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「急にやるからだろ!」
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澪が笑いながら降りる。
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荷物を下ろす。
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蒼が窓を開ける。
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「じゃあな」
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「またねー」
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少しだけ、
間。
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「大好きだよー」
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蒼は、
鼻で笑う。
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でも、
表情が少しだけ崩れる。
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車を出す。
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サイドミラー越しに、
手を振る澪が見える。
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少しだけ、
口元が緩む。
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LINEが鳴る。
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「これからもよろしくね、蒼」
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蒼は、
珍しくオーディオをつける。
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流れてきたのは、
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懐かしい
ロックンロール。
特別じゃない日々が、
ちゃんと嬉しい。
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それが、
今の答えだった。




