36話 「過去と現在」
同じ場所に立っても、
見えるものは同じじゃない。
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終わらせたから、
始められる。
車は走っている。
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「どこ行くの?」
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「……待ってろって」
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「ふーん」
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外は、
夕陽に染まり始めていた。
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「あ、ここ」
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「そうそう」
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前にも来たことのある、
パーキング。
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車を停める。
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エンジンを切る。
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静かになる。
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二人で降りる。
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蒼はタバコに火をつける。
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火が、
小さく揺れる。
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煙が、
ゆっくりと空に溶けていく。
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澪は柵の方へ歩いていく。
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「なんかさ」
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「充実した一日だったな〜」
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海を見たまま、
そう言う。
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「……そうだな」
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蒼はその背中を見る。
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「前さ」
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「嫌なこととか、辛いことあった時ここ来るって言ったじゃん?」
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「……あぁ」
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「ここ見つけたの、高校の時なんだよね」
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風が吹く。
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「バイト帰りにさ、自転車で来て」
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「なんとなく、止まって」
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「そのまま、ぼーっとしてた」
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その声に、
過去が重なる。
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ざわつく教室。
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視線。
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何も言わずに出た、
校門。
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「その日さ」
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「蒼が学校辞めた日だったんだよね」
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煙が、
一瞬だけ途切れる。
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何も言わない。
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「別にさ」
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「仲良いわけでもなかったし」
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「好きってわけでもなかったけど」
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「なんか、気になって」
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「ここで海見てた」
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「それからかな」
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「そういう時に来るようになったの」
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蒼は、
ゆっくりと煙を吐く。
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火を消す。
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灰皿に押し込む。
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「じゃあ」
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「ここに来る澪は、暗い澪ってことだな」
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「まぁ、そうだねw」
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少しだけ笑う。
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風が、
また吹く。
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夕陽が、
水平線に沈んでいく。
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「……それも、今日で終わらせるか」
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澪が振り返る。
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「え?」
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蒼は、
まっすぐ見る。
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逃げない。
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「俺、澪のこと好きだわ」
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風が抜ける。
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時間が、
少しだけ遅くなる。
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澪が、
笑う。
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「知ってるw」
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目を細める。
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「私も」
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それだけ。
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それだけで、
十分だった。
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あの日、
何も持たずに出ていった。
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でも今は、
違う。
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失ったままじゃない。
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ちゃんと、
掴んでいる。
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夕陽が沈む。
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一日が終わる。
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そして、
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新しく始まる。
第3章 完
あの日のままじゃ、
終わらせない。
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ここからは、
自分達で決める。




