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波待ち。  作者: 阿部兄弟
3章 交錯と距離

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36/84

36話 「過去と現在」


同じ場所に立っても、


見えるものは同じじゃない。


⸻


⸻


終わらせたから、


始められる。


車は走っている。


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「どこ行くの?」


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「……待ってろって」


⸻


⸻


「ふーん」


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⸻


外は、


夕陽に染まり始めていた。


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⸻


「あ、ここ」


⸻


⸻


「そうそう」


⸻


⸻


前にも来たことのある、


パーキング。


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⸻


車を停める。


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エンジンを切る。


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静かになる。


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二人で降りる。


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蒼はタバコに火をつける。


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火が、


小さく揺れる。


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煙が、


ゆっくりと空に溶けていく。


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⸻


澪は柵の方へ歩いていく。


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⸻


「なんかさ」


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「充実した一日だったな〜」


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海を見たまま、


そう言う。


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⸻


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「……そうだな」


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蒼はその背中を見る。


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「前さ」


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「嫌なこととか、辛いことあった時ここ来るって言ったじゃん?」


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「……あぁ」


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「ここ見つけたの、高校の時なんだよね」


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⸻


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風が吹く。


⸻


⸻


⸻


「バイト帰りにさ、自転車で来て」


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「なんとなく、止まって」


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「そのまま、ぼーっとしてた」


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⸻


⸻


その声に、


過去が重なる。


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⸻


ざわつく教室。


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視線。


⸻


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何も言わずに出た、


校門。


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「その日さ」


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「蒼が学校辞めた日だったんだよね」


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⸻


⸻


煙が、


一瞬だけ途切れる。


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⸻


何も言わない。


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⸻


「別にさ」


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「仲良いわけでもなかったし」


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「好きってわけでもなかったけど」


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⸻


「なんか、気になって」


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「ここで海見てた」


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「それからかな」


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「そういう時に来るようになったの」


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⸻


⸻


蒼は、


ゆっくりと煙を吐く。


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⸻


⸻


火を消す。


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灰皿に押し込む。


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「じゃあ」


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⸻


「ここに来る澪は、暗い澪ってことだな」


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「まぁ、そうだねw」


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⸻


少しだけ笑う。


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⸻


⸻


風が、


また吹く。


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⸻


⸻


夕陽が、


水平線に沈んでいく。


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⸻


⸻


「……それも、今日で終わらせるか」


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⸻


澪が振り返る。


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「え?」


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⸻


蒼は、


まっすぐ見る。


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⸻


⸻


逃げない。


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⸻


⸻


「俺、澪のこと好きだわ」


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風が抜ける。


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⸻


時間が、


少しだけ遅くなる。


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⸻


⸻


澪が、


笑う。


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「知ってるw」


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⸻


目を細める。


⸻


⸻


⸻


「私も」


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⸻


それだけ。


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⸻


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それだけで、


十分だった。


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⸻


⸻


あの日、


何も持たずに出ていった。


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⸻


⸻


でも今は、


違う。


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⸻


⸻


失ったままじゃない。


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⸻


ちゃんと、


掴んでいる。


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⸻


⸻


夕陽が沈む。


⸻


⸻


⸻


一日が終わる。


⸻


⸻


⸻


そして、


⸻


⸻


新しく始まる。




第3章  完



あの日のままじゃ、


終わらせない。


⸻


⸻


ここからは、


自分達で決める。

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