34話 「寄道」
帰るだけの日に、
しなかった。
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少しだけ、
遠回りした。
海から上がる。
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濡れたまま、
並んで歩く。
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手は、
繋いだまま。
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何も言わない。
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でも、
離さない。
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足音と、
波の音だけが響く。
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「……腹減った」
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「分かる」
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少しだけ、
笑う。
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「またコーヒーでも行くか?」
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「いいね」
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車に向かう。
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その途中で、
ふっと手が離れる。
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どっちからでもなく、
自然に。
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「……」
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少しだけ、
物足りない。
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でも、
何も言わない。
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駐車場。
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シャワーを浴びる。
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水が、
体を流れていく。
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さっきの感触も、
一緒に流れていくはずなのに。
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「……」
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なぜか、
残っていた。
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着替えて外に出る。
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澪が待っている。
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「おそーい」
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「お前が早ぇんだよ」
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「ちゃんと洗った?」
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「ガキか」
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軽く笑う。
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目が合う。
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ほんの一瞬、
間ができる。
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「……行くか」
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「うん」
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車に乗る。
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エンジンがかかる。
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「どこ行く?」
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「この先にいいとこある」
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「へぇ」
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車が走り出す。
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窓の外に、
海が流れる。
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「さっきさ」
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「ん?」
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「びっくりした」
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「何が」
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「一緒に乗ったやつ」
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「普段はやらねぇって言ったやつな」
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「でもさ」
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少しだけ間。
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「楽しかった」
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「……そっか」
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それだけ返す。
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信号待ち。
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ふと、
横を見る。
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澪が、
外を見ている。
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髪が、
少し揺れる。
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「……」
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少しだけ、
見てしまう。
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「なに?」
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「……別に」
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すぐに視線を戻す。
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カフェに着く。
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店内。
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「にが」
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澪が顔をしかめる。
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「ブラック飲めねぇのかよ」
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「飲めるよ!」
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「顔に出てる」
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「うるさいなー」
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砂糖を入れる。
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「それブラックじゃねぇだろ」
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「気分はブラックなの!」
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笑う。
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少しだけ、
静かになる。
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「ねぇ」
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「ん?」
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「今日さ」
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少しだけ、
考えるように。
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「なんかいい日だね」
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「……そうだな」
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コーヒーを飲む。
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静かな時間。
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でも、
気まずくはない。
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むしろ、
落ち着く。
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「……」
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ふと、
思う。
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これ、
普通じゃないな。
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「ねぇ」
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「ん?」
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少しだけ身を乗り出す。
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「このあとさ」
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一瞬、
間。
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「買い物付き合ってよ!」
終わらせなければ、
続いていく。
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その時間が、
心地よかった。




