33話 「同調」
合うときは、
理由なんていらない。
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ただ、
揃うだけでいい。
朝。
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車が止まる。
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澪がウエットスーツを持って、
乗り込んでくる。
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「おはよう」
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蒼が、
先に言った。
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澪が、
一瞬だけ止まる。
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「……おはよ」
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少しだけ、
不思議そうに返す。
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(なんだ今の)
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自分で言っておいて、
むず痒くなる。
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(なんで普通に言えねぇんだよ)
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視線を前に戻す。
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「今日、波いい感じだね」
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「そうだな」
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「今日から立つ練習したい」
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「いいよ」
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「手本見せてね?」
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——ドクン
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「……あぁ」
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心臓が、
変にうるさい。
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海に着く。
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波待ち。
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「いいか」
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「立つ時は3ステップだ」
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「1で板を掴む」
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「2で腕に力入れて一気に立つ」
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「3で体勢整える」
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「位置間違えたらすぐ落ちるからな」
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「とりあえずやってみるわ」
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波が来る。
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「あ!きたよ!」
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パドルする。
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その瞬間、
澪と目が合う。
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「……!?」
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バランスを崩す。
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落ちる。
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「えー大丈夫!?」
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「どうしたの?今日なんかおかしいねー」
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「……」
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「気散るから顔見るな」
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「板と足の位置見とけ」
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「ひどー」
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「分かりましたー」
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次の波。
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「よし」
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パドル。
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今度は、
しっかり立つ。
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滑る。
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その顔を見て、
澪が少し微笑む。
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(やっぱり吹っ切れたんだね)
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(ちょっとぎこちないけど)
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波を抜ける。
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「こんな感じ」
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「見てた?足の位置」
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「あ、うん!」
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「絶対見てねーだろ」
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「見てたよ!ちゃんと!」
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「んじゃやってみろ」
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波が来る。
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パドル。
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「今だ……!」
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1、2、3。
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立つ。
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——が、
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バランスを崩す。
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落ちる。
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「むずー!!」
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「悔しい!」
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「まぁそんなもんだ」
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「今のは重心後ろすぎ」
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「足じゃなくて腰で調整しろ」
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「腰ね……分かった!」
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気づけば、
一時間経っていた。
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「来たぞ!」
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(結構でかいな……大丈夫か)
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パドルする。
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澪が乗る。
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立つ。
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——揺れる。
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「……っ」
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崩れかける。
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その瞬間、
蒼が手を掴む。
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並んで、
波に乗る。
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時間が、
止まったみたいだった。
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澪が、
蒼を見る。
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「こういう時のためのコーチだろ?」
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少年みたいな笑顔。
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波が落ち着く。
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着水。
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「えーすごい!」
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「こんなことも出来んの!?」
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「たまたまだ」
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「人多いときは危ないからやらないけど」
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「でも乗れた!!」
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「蒼がいたからだけどね」
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「すげーじゃん」
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「意味分かったか?」
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「うん!なんとなく!」
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「良かった。
んじゃ上がるか」
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並んで歩く。
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さっきの手の感触が、
残っている。
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向こうから、
家族連れが来る。
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蒼が、
それを見る。
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その瞬間、
澪が手を掴む。
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「ねぇ」
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太陽みたいに笑う。
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「今日はこのあと何する?」
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蒼は、
少しだけ目を細める。
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「なんでもいいぞ」
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「またラーメンか?」
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「んー今日は違う気分!」
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笑いながら、
歩く。
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並んで。
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手を、
繋いだまま。
触れたのは、
ほんの一瞬。
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それでも、
同じ波にいた。




