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波待ち。  作者: 阿部兄弟
3章 交錯と距離

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32話 「覚醒」


気づくときは、


一瞬だった。




理由なんて、


あとからついてくる。



いつも通りの朝。



工場の音が、


響いている。




「おい蒼!」



肩を組まれる。



「お前、やっぱり最近なんかいい感じじゃねぇか?」



「……いやいや、そんなことないっすよ」



軽く笑って、


持ち場に戻る。




その背中を見ながら、


先輩と工場長が顔を見合わせる。



「なぁ」



「よっぽどいい女なんだろうなぁ」



「ですねー」



「あの蒼があんな風になるんですもんね」




スマホが震える。



——楓



「……はい」



『お兄ちゃん今日定時でしょ?』



「うん」



『バイト休みだから夜ご飯作るよー』



「おう」




楓は大学生になり、


東京の寮で生活している。



バイトをしながら、


奨学金で通っている。




だから、


こうして帰ってくるのは、


たまにだ。




家に帰る。




「おかえりー」



「ただいま」




キッチンから、


いい匂いがする。




楓がじーっと蒼を見る。



「お兄ちゃんさ」



「なんか変わった?」




「……お前までそんなこと言うなよ」



ため息混じりに返す。




「え、だってなんか顔違うよ?いっつもと」



「普通だよ普通」




「分かった」



少し間を置いて、


楓がニヤッとする。




「彼女できたんでしょ?」



「ちげーよ、ばーか」



弁当箱をシンクに置く。




「んじゃあ好きな人できたんだ!」




その瞬間——




「あっっっち!!」



鍋に触れた手を引っ込める。




「ちげーよ!!!んな訳ねーだろ!」




「完全に図星じゃん……」



「引くわー。蛙化」




「うるせ!とりあえず風呂入る!」




バタン




楓は、


少しだけ嬉しそうに笑う。




あの頃の兄を、


見てきたから。




——良かった。




心の中で、


本当にそう思った。





その後。




他愛もない話をしながら、


二人で夕飯を食べる。


家族の時間。


過ぎるのは早い。





「帰るのか?泊まってけばいいのに」



「明日1限目からだから早いんだよー」



「そうか」




「次帰ってくるのは来月かな」



「……あー、もうそんな時期か」




「お兄ちゃんも怪我しないで頑張ってね!」



小指を立てる。




「ばか!早く行け!」




お互い、


手を振る。




「……来月か」




ぽつりと呟く。




視線が、


仏壇に向く。





数日後。




スマホが鳴る。



——澪



「もしもし」



『明日休みなったよ!』



「よしじゃあ、いつも通り7時な」



『おっけー』



『あ、コーヒー買わなくていいからね?w』



「お前もなw」



二人で笑う。



『じゃあおやすみ』



「おやすみ」




通話が切れる。




天井を見る。




「……なんだ、この感じ」




頭の中に、


浮かぶ顔。




離れない。




「……おかしいな」




先輩や工場長、


楓に冷やかされたからか。




「……いや」




違う。




自然に、


そうなってる。





朝。




いつも通り起きて、


車を走らせる。





アパートの前に


澪が立っていた。




笑顔で手を振ってくる





その顔を見て、昨晩と同じ感情になる。


_____


_____



「なんだよこれ」


_____


_____



「いや。どっかでは分かってただろ」



心の中で答えが出る。


_____


_____


_____



俺は


______



______好きなんだ澪の事が。




もう、


知らなかった頃には戻れない。




それでも、


悪くないと思った。

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