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波待ち。  作者: 阿部兄弟
3章 交錯と距離

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32/84

32話 「覚醒」


気づくときは、


一瞬だった。


⸻


⸻


理由なんて、


あとからついてくる。



いつも通りの朝。


⸻


工場の音が、


響いている。


⸻


⸻


「おい蒼!」


⸻


肩を組まれる。


⸻


「お前、やっぱり最近なんかいい感じじゃねぇか?」


⸻


「……いやいや、そんなことないっすよ」


⸻


軽く笑って、


持ち場に戻る。


⸻


⸻


その背中を見ながら、


先輩と工場長が顔を見合わせる。


⸻


「なぁ」


⸻


「よっぽどいい女なんだろうなぁ」


⸻


「ですねー」


⸻


「あの蒼があんな風になるんですもんね」


⸻


⸻


スマホが震える。


⸻


——楓


⸻


「……はい」


⸻


『お兄ちゃん今日定時でしょ?』


⸻


「うん」


⸻


『バイト休みだから夜ご飯作るよー』


⸻


「おう」


⸻


⸻


楓は大学生になり、


東京の寮で生活している。


⸻


バイトをしながら、


奨学金で通っている。


⸻


⸻


だから、


こうして帰ってくるのは、


たまにだ。


⸻


⸻


家に帰る。


⸻


⸻


「おかえりー」


⸻


「ただいま」


⸻


⸻


キッチンから、


いい匂いがする。


⸻


⸻


楓がじーっと蒼を見る。



「お兄ちゃんさ」


⸻


「なんか変わった?」


⸻


⸻


「……お前までそんなこと言うなよ」


⸻


ため息混じりに返す。


⸻


⸻


「え、だってなんか顔違うよ?いっつもと」


⸻


「普通だよ普通」


⸻


⸻


「分かった」


⸻


少し間を置いて、


楓がニヤッとする。


⸻


⸻


「彼女できたんでしょ?」


⸻


「ちげーよ、ばーか」


⸻


弁当箱をシンクに置く。


⸻


⸻


「んじゃあ好きな人できたんだ!」


⸻


⸻


その瞬間——


⸻


⸻


「あっっっち!!」


⸻


鍋に触れた手を引っ込める。


⸻


⸻


「ちげーよ!!!んな訳ねーだろ!」


⸻


⸻


「完全に図星じゃん……」


⸻


「引くわー。蛙化」


⸻


⸻


「うるせ!とりあえず風呂入る!」


⸻


⸻


バタン


⸻


⸻


楓は、


少しだけ嬉しそうに笑う。


⸻


⸻


あの頃の兄を、


見てきたから。


⸻


⸻


——良かった。


⸻


⸻


心の中で、


本当にそう思った。


⸻


⸻


⸻


その後。


⸻


⸻


他愛もない話をしながら、


二人で夕飯を食べる。


家族の時間。


過ぎるのは早い。



⸻


⸻


「帰るのか?泊まってけばいいのに」


⸻


「明日1限目からだから早いんだよー」


⸻


「そうか」


⸻


⸻


「次帰ってくるのは来月かな」


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「……あー、もうそんな時期か」


⸻


⸻


「お兄ちゃんも怪我しないで頑張ってね!」


⸻


小指を立てる。


⸻


⸻


「ばか!早く行け!」


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⸻


お互い、


手を振る。


⸻


⸻


「……来月か」


⸻


⸻


ぽつりと呟く。


⸻


⸻


視線が、


仏壇に向く。


⸻


⸻


⸻


数日後。


⸻


⸻


スマホが鳴る。


⸻


——澪


⸻


「もしもし」


⸻


『明日休みなったよ!』


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「よしじゃあ、いつも通り7時な」


⸻


『おっけー』


⸻


『あ、コーヒー買わなくていいからね?w』


⸻


「お前もなw」


⸻


二人で笑う。


⸻


『じゃあおやすみ』


⸻


「おやすみ」


⸻


⸻


通話が切れる。


⸻


⸻


天井を見る。


⸻


⸻


「……なんだ、この感じ」


⸻


⸻


頭の中に、


浮かぶ顔。


⸻


⸻


離れない。


⸻


⸻


「……おかしいな」


⸻


⸻


先輩や工場長、


楓に冷やかされたからか。


⸻


⸻


「……いや」


⸻


⸻


違う。


⸻


⸻


自然に、


そうなってる。


⸻


⸻


⸻


朝。


⸻


⸻


いつも通り起きて、


車を走らせる。


⸻


⸻


⸻


アパートの前に


澪が立っていた。


⸻



笑顔で手を振ってくる



⸻


⸻


その顔を見て、昨晩と同じ感情になる。


_____


_____



「なんだよこれ」


_____


_____



「いや。どっかでは分かってただろ」



心の中で答えが出る。


_____


_____


_____



俺は


______



______好きなんだ澪の事が。




もう、


知らなかった頃には戻れない。


⸻


⸻


それでも、


悪くないと思った。

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