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波待ち。  作者: 阿部兄弟
3章 交錯と距離

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31話 「波路」


変わるきっかけは、


大したことじゃない。




ただ、


自分で決めるだけだ。


車が走っている。



夕焼けが、


少しずつ落ちていく。




「はぁー!!疲れたー!」



澪が大きく背伸びをする。



「明日仕事かぁー!!」



「嫌だなー」



「……そうだな」



蒼は短く返す。




「でも今日気持ちよかったなぁ、テイクオフ」



「だろ?」



「蒼の言う通り、あれ感じたらやめられないよねー」



「次は立てるかな?」



「最初はキツいと思うぞ」



「俺でも、ただ立つだけで1ヶ月とかかかったし」



「えー!」



「まぁそうだよねー、そんな簡単にはいかないよね」



「逃げんなよ?」



蒼が、


少し笑いながら言う。




「逃げません!!」




澪も笑う。




蒼の顔を見て、


心の中で思う。



——良かった。



少しは、


吹っ切れてくれたかな。




車は、


あっという間にアパートに着く。




「ありがとー」



「……あ、てかさ」



「どうせ次の休みも行くんだし、私の板積みっぱでもいい?」



「いいよ」



「よしー、んじゃウエットだけ降ろすねー」




助手席のドアが閉まる。



トランクが開く。




取り出して、


閉める。




手を振って、


帰ろうとしたとき——




コンコン




窓を叩く音。




蒼が窓を開ける。




「自分の人生、大事にしろよー!!」




そう言って、


笑いながら去っていく。





「……」




蒼は、


しばらく動かなかった。




頭の中に、


浮かぶ。




親父。



楓。



沙耶香。



そして——


蓮。




「……俺の人生」




小さく、


呟く。




「俺の人生って、なんだ?」





——サーフィンって、人生に似てるだろ?




昼間、


澪に言った言葉がよぎる。




俺にしか乗れない波。



俺でしか見極められない波。




人生も、


同じか。





そして、


思い出す。




今日一日、


ずっとそばにいた存在。




「忘れなくていい過去もあるよ」



「気が向いたら、子供のこと話してよ」




「……」




「情けねぇな」




後悔して、


気遣わせて。




「何がコーチだよ」





「……そんなんじゃ」




「いい波に乗れねぇよな」





小さく、


笑う。





「……やめだ」





後悔するのは、


もうやめだ。





蒼の中で、


何かが切り替わる。





気づけば、


スマホを手に取っていた。




——発信




「もしもし?なに?忘れ物?」




「……もしもし、澪」



「なに?」




「ありがとな」




「怖いんだけど急にw」




「色々、吹っ切れたわ」




「……そっか」



「良かったね」




優しく、


返す。




「吹っ切れた事だし、来週からも厳しくいくからな」




「はい!お願いしますコーチ!」




「じゃあな」



「バイバイ」




通話が切れる。





エンジンをかける。




車を発進させる。





バックミラー越し。




並んだ、


二枚のサーフボード。





蒼は、


それを見て——




少しだけ、


笑った。


少しだけ、


前を向いた。




それだけで、


景色は変わり始める。

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