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波待ち。  作者: 阿部兄弟
3章 交錯と距離

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29話 「時化」


荒れるときは、


一気に来る。




止めようとしても、


もう遅い。




これは、


全部が崩れる日の話。


夕方。


リビングには、


静かな時間が流れていた。



テレビの音。


蓮の小さな寝息。



楓がソファに座っている。


沙耶香はキッチン。



蒼は、


その二人を見ていた。



「楓」



「ん?」



「悪いけど、ちょっと買い物行ってきてくれねぇ?」



「え?今?」



「すぐ終わるやつでいいから」




楓は一瞬だけ、


蒼の目を見る。



「……分かった」



立ち上がる。




——バタン




ドアが閉まる。




静かになる。




「……で」



蒼が口を開く。



「大事な話あるんだけど、大体分かってるよな?」



沙耶香は振り向かない。



「知らないふりか?」




空気が変わる。




「……何のことか分かんないんだけど」



「そうか」




蒼は一歩だけ近づく。



「じゃあ聞くけどさ」



「なんで最近、スマホ隠すんだよ」



「別に隠してないけど」



「視線も合わないし」



「気のせいじゃない?」



「色々、変わった」




一つずつ、


静かに詰めていく。




「……」




沙耶香の手が止まる。




「……何が言いたいの」



「言わせんなよ」




沈黙。




「……違う」




小さく漏れる。




「……違わねぇだろ」




その一言で、


何かが崩れる。




「……ごめん」




「……認めんのか」



「……うん」




空気が、


変わる。




「……なんでだよ」




「寂しかった...」




「は?」




「蒼、全然変わんないじゃん!」



「クールで、ぶっきらぼうで」



「優しいのは分かるけど」



「それってさ、分かる人にしか分かんない優しさじゃん!」




涙が落ちる。




「もっとちゃんと出してほしかった」



「新婚なのに、全然キラキラしてなかった」




「周りの友達はさ」



「ちゃんと“好き”って言われてて」



「ちゃんと見られてて」




「私だけ、置いてかれてる気がした」




「それに……」



「楓との方が距離も近いじゃん」





「兄妹なのは分かってるんだけどさ…」



——プツン




「……ふざけんなよ」




声が落ちる。




「お前のそのくだらないエゴに」



「周りを巻き込むなよ!!」



「ふざけんなよ!!」




初めて、


声を荒げた。




「寂しい?」



「キラキラしてない?」




「だからって浮気していい理由になるかよ」




呼吸が荒れる。




「楓まで巻き込んで」



「何やってんだよお前……!」




——でも。




その言葉が、


自分に返ってくる。




蓮が生まれた日。



守ると決めた瞬間。




そこから、


やっと頑張ろうとした自分。




全部、


遅い。




いつかこうなると、分かっていた。


見ないふりをしていただけ。



「……は」




力が抜ける。




「……俺か」




「……全部、俺が原因か」




怒りが、


冷めていく。




「……でも」




顔を上げる。




「蓮は関係ねぇだろ」




「どーすんだよ」





沈黙。




「……離婚しよ」




あまりにも、


あっさりと。




蒼は何も言わない。



ただ、


横目で見る。





数日後。




部屋は少しずつ、


片付いていく。




電話が鳴る。



——沙耶香の母



「……はい」



「蒼君、本当にごめんなさいね」



「今回のことは、うちの娘が全部悪い」



「それは分かってるの」




「蒼君が悪くないのも、分かってる」




「……でもね」




空気が変わる。




「親権のことなんだけど」




「やっぱり母親の方が強いのよ」




「それに蒼くん……」



「中卒だし」



「ご両親も……ほら」




言葉を濁す。




「裁判になったら、厳しいと思うの」




「蓮くんのためにもね」





通話が切れる。





何もかも、


持っていかれる気がした。





まるで、


全部さらわれるみたいに。





時化みたいに。


守るつもりだった。



全部、


守れると思っていた。




——でも、


何も残らなかった。

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