↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
波待ち。  作者: 阿部兄弟
3章 交錯と距離

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
28/84

28話 「予兆」


壊れるときは、


だいたい分かっている。


⸻


⸻


見ないふりをしているだけで。


⸻


⸻


これは、


その“前触れ”の話。


違和感は、ずっとあった。


⸻


小さな変化の積み重ね。


化粧、香水、スマホ。


⸻


私も、もうそういうのは分かる歳だ。


でも兄には言えない。



⸻


「楓?」


呼ばれて顔を上げる。


⸻


「どうした?具合悪いのか?」


「……別に」


⸻


自然に返したつもりだった。


でも、自分でも分かる。


声が少しだけ硬い。


⸻


蓮が泣く。


⸻


「俺やる」


蒼が抱き上げる。


⸻


その手は慣れていて、


優しくて、


ちゃんと父親をしている。


⸻


だから、言えなかった。


こんな顔してる兄に、


これ以上何か言うなんて。


⸻


「……楓」


少しだけ声の温度が変わる。


⸻


「お前、なんか隠してねぇ?」


⸻


心臓が跳ねる。


⸻


「……隠してないよ」


「嘘つけ」


⸻


視線が外せない。


逃げたら終わる。


⸻


「なんでもないって」


「なんでもない顔じゃねぇだろ」


⸻


一歩、詰められる。


空気が近い。


⸻


「……気にしすぎだよ」


⸻


そう言って、目を逸らす。


それで終わると思った。


⸻


でも、


終わらなかった。


⸻


「楓」


短く呼ばれる。


⸻


それだけで、分かる。


引かない。


逃がさない。


⸻


「……」


言わなきゃ。


でも、


言ったら終わる。


⸻


全部壊れる。


それでも、


このままの方が、きつい。


⸻


「……お兄ちゃんさ」


声がうまく出ない。


喉が引っかかる。


⸻


「ちゃんと、見た方がいいよ」


⸻


やっと、それだけ出た。


⸻


蒼はすぐには返さない。


少しだけ間があって、


「……何を」


⸻


低い声。


逃げ場はない。


⸻


「……」


言葉が出てこない。


頭の中では分かってるのに、


口が動かない。


⸻


「楓」


名前を呼ばれる。


それだけで、


背中を押される。


⸻


「……違う」


自分でも分からない言葉が出る。


⸻


でも、


止まらなかった。


⸻


「……見たの」


⸻


それだけ。


それ以上は言えなかった。


⸻


言葉にしたら、


全部壊れる気がしたから。


⸻


でも、


それで十分だった。


⸻


蒼は動かない。


何も言わない。


⸻


でも、


分かる。


⸻


全部、繋がってる。


⸻


スマホ。


間。


視線。


⸻


気づいていた。


ずっと前から。


⸻


ただ、


見ないようにしていただけだ。


⸻


「……は」


小さく息が漏れる。


⸻


笑ったような音。


でも、全然笑ってない。


⸻


「……何やってんだろうな、俺」


⸻


視線を落とす。


⸻


「楓にまで、こんな顔させて」


⸻


自分に向けた言葉。


⸻


「……頑張ってるつもりで」


「全部見えてなかったとか」


⸻


少しだけ間があって、


⸻


「……アホだな」


⸻


楓は何も言えない。


言葉が見つからない。


⸻


蓮がまた泣く。


⸻


その声だけがやけに大きく響く。


⸻


蒼は一瞬だけそっちを見る。


⸻


小さな体。


守ると決めた存在。


⸻


それなのに。


⸻


「……」


⸻


ゆっくりと顔を上げる。


⸻


さっきまでとは違う目。


⸻


逃げていない。


揺れてもいない。


⸻


「……タバコ吸いに行くわ」


⸻


短く、それだけ。


⸻


その一言で、


空気が変わる。


⸻


止まっていたものが、


静かに動き出す。


⸻


でもまだ、


全部は壊れていない。


⸻


嵐の前みたいに。


まだ、


何も終わっていない。


⸻


⸻


でも、


もう戻れないところまで来ていた。


⸻


⸻


——次は、荒れる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。