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波待ち。  作者: 阿部兄弟
3章 交錯と距離

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25/84

25話 「再起」


タイミングは、


来ていたのかもしれない。


⸻


ただ、


踏み出す理由も、


踏み出せない理由も、


どっちもあっただけで。


⸻


⸻


これは、


その“間”にいる話。

⸻


車は、ゆっくりと走っていた。


⸻


海から離れているのに、


アクセルは踏み切られない。


⸻


流れる景色だけが、


同じ速さで過ぎていく。


⸻


⸻


「波待ち」


⸻


「は?」


⸻


「波待ち!!!」


⸻


澪が身を乗り出す。


⸻


「ずっと波待ちしてる感じなの!!」


⸻


⸻


蒼は何も言わない。


⸻


ただ、


ハンドルを握る手に、


わずかに力が入る。


⸻


⸻


「人生ってさ」


⸻


澪が続ける。


⸻


「サーフィンに似てるんじゃないのー!!??」


⸻


⸻


「……は?」


⸻


⸻


「波来てるのに、ずっと待ってるだけみたいな」


⸻


「そんなんじゃ、良い波に乗れないよー??」


⸻


⸻


「うるせぇなぁ」


⸻


「うるさくない」


⸻


⸻


軽い言い合い。


⸻


でも。


⸻


⸻


その言葉が、


やけに残る。


⸻


⸻


⸻


——「沙耶香さん妊娠中なんだろ」


⸻


——「そんな中途半端なら海来んな」


⸻


——「やるなら、ちゃんとやれ」


⸻


⸻


すだけいの声。


⸻


⸻


一瞬、


空気が重なる。


⸻


⸻


「……」


⸻


⸻


あのとき、


蒼は何も言えなかった。


⸻


⸻


⸻


それから。


⸻


⸻


少しだけ、


変えた。


⸻


⸻


帰る時間を早くしたり。


⸻


朝、ちゃんと起きたり。


⸻


⸻


当たり前のことを、


ちゃんとやるようにした。


⸻


⸻


⸻


ある日。


⸻


⸻


「これ、どう思う?」


⸻


⸻


店の中で、


沙耶香が小さな服を持っている。


⸻


⸻


「ちっちゃ」


⸻


思わず、笑う。


⸻


⸻


「でしょ?」


⸻


⸻


少しだけ、


楽しそうな顔。


⸻


⸻


「まだ早いかな」


⸻


「いや、いいんじゃねぇの」


⸻


⸻


カゴに入れる。


⸻


⸻


⸻


「名前、どうする?」


⸻


⸻


帰り道、


沙耶香がぽつりと言う。


⸻


⸻


「まだ早ぇだろ」


⸻


⸻


「でもさ」


⸻


⸻


少しだけ笑う。


⸻


⸻


「考えるの、楽しいじゃん」


⸻


⸻


「……まぁな」


⸻


⸻


⸻


ポケットの中で、


音が鳴る。


⸻


⸻


沙耶香のスマホ。


⸻


⸻


一瞬だけ、


視線が落ちる。


⸻


⸻


でも。


⸻


⸻


「ごめん、ちょっと」


⸻


⸻


そう言って、


少しだけ距離を取る。


⸻


⸻


蒼は、


気にしない。


⸻


⸻


⸻


ちゃんとやっていれば、


大丈夫だと思っていた。


⸻


⸻


向き合えば、


伝わると思っていた。


⸻


⸻


そうすれば、


あいつも——


⸻


⸻


やめてくれると、


信じていた。


⸻


⸻


⸻


「……」


⸻


⸻


現在に戻る。


⸻


⸻


車は、


まだ走っている。


⸻


⸻


澪は何も言わない。


⸻


⸻


ただ、


前を見ている。


⸻


⸻


⸻


蒼も、


何も言わない。


⸻


⸻


⸻


波は、


来ている。


⸻


⸻


⸻


それでも。


⸻


⸻


⸻


アクセルは、


踏み切られないままだった。


⸻

分かっているのに、


動けない。


⸻


それでも、


時間は止まらない。


⸻


⸻


波は、


また来る。


⸻


⸻


——次は、どうする。

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