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波待ち。  作者: 阿部兄弟
2章 波紋と余温

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24話 「予感と決意」

気づかないまま、


過ぎていくものがある。



大事にしているつもりで、


ちゃんと見れていなかったもの。




失いかけて、


ようやく分かる。




これは、


その“少し手前”の話。


「割と大事なもん、


大事に出来てないし」



俺は澪に、そう言った。



あのときは、


ただの言葉だった。



深く考えたわけでもない。




でも本当は、違う。




その言葉が、


今やけにチラつく。






仕事は相変わらず忙しかった。



朝から夕方まで鉄工場。

帰る頃には、体に残るのは疲れだけだった。


夜勤はなくなったはずなのに、

楽になった実感はあまりない。



「ただいま」



リビングの電気はついている。


沙耶香が顔を出す。



「おかえり。今日も遅いね」



「まぁな」



短く返す。



「最近、多くない?」



「そうか?」



少しだけ間が空く。



「……うん、なんか」



それ以上は続かなかった。



テーブルの上には料理。


少し冷めている。



「温める?」



「いい、そのままで」



席に座る。



一口食べる。



「……うまい」



「でしょ」



沙耶香が、少しだけ笑う。



味は変わっていない。


それなのに、


どこか違う気がした。




休みの日。



すだけいから連絡が来る。



『波いいぞ』



迷いはなかった。



気づけば準備していた。



玄関で靴を履く。



「今日、出かけるの?」



「あぁ」



「またサーフィン?」



少しだけ、間。



「……悪い?」



自分でも、


言い方が強いと思った。



沙耶香は一瞬だけ目を伏せて、


小さく首を振る。



「別に」



それ以上は、何も言わない。




海は変わらない。



何も考えなくていい。



それが、


楽だった。




帰ると、部屋は静かだった。



「ただいま」



返事はない。



リビングに入る。



電気だけがついている。



テーブルの上。



スマホが置いてある。



画面が点く。



通知。



知らない名前。



——今日、来れる?




「……」



視線を逸らす。



見なかったことにする。




玄関の音。



「ただいま」



「おう」




その夜。



ベッドに横になりながら、


天井を見ていた。



隣に、沙耶香がいる。




「ねぇ」




不意に声がする。



「ん?」



少しだけ、間。



「……まだ分かんないけどさ」




そこで、一度言葉が止まる。




「もしかしたら」




「できたかも」




空気が、静かに止まる。




「……は?」




間抜けな声が出る。




沙耶香は、天井を見たまま続ける。



「まだ分かんないよ?」



「でも、ちょっと遅れてて」




それだけ。




それ以上は言わない。





蒼は、何も言えなかった。




頭の中で、


色んなものが一気に動く。




仕事。



生活。



サーフィン。



そして、


さっき見た通知。




全部が、


混ざる。




「……」




小さく息を吐く。




逃げてたのは、自分だ。




向き合わなかったのも。





「……そっか」




それだけ、口にする。




沙耶香は何も言わない。





でも。




決めた。




このままじゃ、終わる。




だったら。





やり直す。




ちゃんと向き合う。




逃げない。





——そう決めた。



第2章  完


やり直すと決めた。



それだけで、


全部が戻るわけじゃない。



それでも、


向き合うしかない。




ここから先は、


もう“逃げられない”。




——次は、再起。

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