24話 「予感と決意」
気づかないまま、
過ぎていくものがある。
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大事にしているつもりで、
ちゃんと見れていなかったもの。
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失いかけて、
ようやく分かる。
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これは、
その“少し手前”の話。
「割と大事なもん、
大事に出来てないし」
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俺は澪に、そう言った。
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あのときは、
ただの言葉だった。
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深く考えたわけでもない。
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でも本当は、違う。
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その言葉が、
今やけにチラつく。
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仕事は相変わらず忙しかった。
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朝から夕方まで鉄工場。
帰る頃には、体に残るのは疲れだけだった。
夜勤はなくなったはずなのに、
楽になった実感はあまりない。
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「ただいま」
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リビングの電気はついている。
沙耶香が顔を出す。
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「おかえり。今日も遅いね」
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「まぁな」
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短く返す。
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「最近、多くない?」
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「そうか?」
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少しだけ間が空く。
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「……うん、なんか」
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それ以上は続かなかった。
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テーブルの上には料理。
少し冷めている。
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「温める?」
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「いい、そのままで」
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席に座る。
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一口食べる。
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「……うまい」
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「でしょ」
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沙耶香が、少しだけ笑う。
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味は変わっていない。
それなのに、
どこか違う気がした。
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休みの日。
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すだけいから連絡が来る。
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『波いいぞ』
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迷いはなかった。
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気づけば準備していた。
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玄関で靴を履く。
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「今日、出かけるの?」
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「あぁ」
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「またサーフィン?」
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少しだけ、間。
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「……悪い?」
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自分でも、
言い方が強いと思った。
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沙耶香は一瞬だけ目を伏せて、
小さく首を振る。
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「別に」
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それ以上は、何も言わない。
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海は変わらない。
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何も考えなくていい。
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それが、
楽だった。
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帰ると、部屋は静かだった。
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「ただいま」
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返事はない。
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リビングに入る。
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電気だけがついている。
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テーブルの上。
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スマホが置いてある。
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画面が点く。
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通知。
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知らない名前。
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——今日、来れる?
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「……」
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視線を逸らす。
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見なかったことにする。
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玄関の音。
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「ただいま」
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「おう」
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その夜。
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ベッドに横になりながら、
天井を見ていた。
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隣に、沙耶香がいる。
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「ねぇ」
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不意に声がする。
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「ん?」
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少しだけ、間。
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「……まだ分かんないけどさ」
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そこで、一度言葉が止まる。
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「もしかしたら」
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「できたかも」
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空気が、静かに止まる。
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「……は?」
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間抜けな声が出る。
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沙耶香は、天井を見たまま続ける。
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「まだ分かんないよ?」
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「でも、ちょっと遅れてて」
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それだけ。
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それ以上は言わない。
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蒼は、何も言えなかった。
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頭の中で、
色んなものが一気に動く。
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仕事。
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生活。
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サーフィン。
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そして、
さっき見た通知。
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全部が、
混ざる。
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「……」
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小さく息を吐く。
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逃げてたのは、自分だ。
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向き合わなかったのも。
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「……そっか」
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それだけ、口にする。
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沙耶香は何も言わない。
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でも。
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決めた。
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このままじゃ、終わる。
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だったら。
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やり直す。
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ちゃんと向き合う。
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逃げない。
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——そう決めた。
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第2章 完
やり直すと決めた。
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それだけで、
全部が戻るわけじゃない。
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それでも、
向き合うしかない。
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ここから先は、
もう“逃げられない”。
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——次は、再起。




