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波待ち。  作者: 阿部兄弟
2章 波紋と余温

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24/84

24話 「予感と決意」

気づかないまま、


過ぎていくものがある。


⸻


大事にしているつもりで、


ちゃんと見れていなかったもの。


⸻


⸻


失いかけて、


ようやく分かる。


⸻


⸻


これは、


その“少し手前”の話。


「割と大事なもん、


大事に出来てないし」


⸻


俺は澪に、そう言った。


⸻


あのときは、


ただの言葉だった。


⸻


深く考えたわけでもない。


⸻


⸻


でも本当は、違う。


⸻


⸻


その言葉が、


今やけにチラつく。


⸻


⸻


⸻


⸻


仕事は相変わらず忙しかった。


⸻


朝から夕方まで鉄工場。

帰る頃には、体に残るのは疲れだけだった。


夜勤はなくなったはずなのに、

楽になった実感はあまりない。


⸻


「ただいま」


⸻


リビングの電気はついている。


沙耶香が顔を出す。


⸻


「おかえり。今日も遅いね」


⸻


「まぁな」


⸻


短く返す。


⸻


「最近、多くない?」


⸻


「そうか?」


⸻


少しだけ間が空く。


⸻


「……うん、なんか」


⸻


それ以上は続かなかった。


⸻


テーブルの上には料理。


少し冷めている。


⸻


「温める?」


⸻


「いい、そのままで」


⸻


席に座る。


⸻


一口食べる。


⸻


「……うまい」


⸻


「でしょ」


⸻


沙耶香が、少しだけ笑う。


⸻


味は変わっていない。


それなのに、


どこか違う気がした。


⸻


⸻


休みの日。


⸻


すだけいから連絡が来る。


⸻


『波いいぞ』


⸻


迷いはなかった。


⸻


気づけば準備していた。


⸻


玄関で靴を履く。


⸻


「今日、出かけるの?」


⸻


「あぁ」


⸻


「またサーフィン?」


⸻


少しだけ、間。


⸻


「……悪い?」


⸻


自分でも、


言い方が強いと思った。


⸻


沙耶香は一瞬だけ目を伏せて、


小さく首を振る。


⸻


「別に」


⸻


それ以上は、何も言わない。


⸻


⸻


海は変わらない。


⸻


何も考えなくていい。


⸻


それが、


楽だった。


⸻


⸻


帰ると、部屋は静かだった。


⸻


「ただいま」


⸻


返事はない。


⸻


リビングに入る。


⸻


電気だけがついている。


⸻


テーブルの上。


⸻


スマホが置いてある。


⸻


画面が点く。


⸻


通知。


⸻


知らない名前。


⸻


——今日、来れる?


⸻


⸻


「……」


⸻


視線を逸らす。


⸻


見なかったことにする。


⸻


⸻


玄関の音。


⸻


「ただいま」


⸻


「おう」


⸻


⸻


その夜。


⸻


ベッドに横になりながら、


天井を見ていた。


⸻


隣に、沙耶香がいる。


⸻


⸻


「ねぇ」


⸻


⸻


不意に声がする。


⸻


「ん?」


⸻


少しだけ、間。


⸻


「……まだ分かんないけどさ」


⸻


⸻


そこで、一度言葉が止まる。


⸻


⸻


「もしかしたら」


⸻


⸻


「できたかも」


⸻


⸻


空気が、静かに止まる。


⸻


⸻


「……は?」


⸻


⸻


間抜けな声が出る。


⸻


⸻


沙耶香は、天井を見たまま続ける。


⸻


「まだ分かんないよ?」


⸻


「でも、ちょっと遅れてて」


⸻


⸻


それだけ。


⸻


⸻


それ以上は言わない。


⸻


⸻


⸻


蒼は、何も言えなかった。


⸻


⸻


頭の中で、


色んなものが一気に動く。


⸻


⸻


仕事。


⸻


生活。


⸻


サーフィン。


⸻


そして、


さっき見た通知。


⸻


⸻


全部が、


混ざる。


⸻


⸻


「……」


⸻


⸻


小さく息を吐く。


⸻


⸻


逃げてたのは、自分だ。


⸻


⸻


向き合わなかったのも。


⸻


⸻


⸻


「……そっか」


⸻


⸻


それだけ、口にする。


⸻


⸻


沙耶香は何も言わない。


⸻


⸻


⸻


でも。


⸻


⸻


決めた。


⸻


⸻


このままじゃ、終わる。


⸻


⸻


だったら。


⸻


⸻


⸻


やり直す。


⸻


⸻


ちゃんと向き合う。


⸻


⸻


逃げない。


⸻


⸻


⸻


——そう決めた。


⸻


第2章  完


やり直すと決めた。


⸻


それだけで、


全部が戻るわけじゃない。


⸻


それでも、


向き合うしかない。


⸻


⸻


ここから先は、


もう“逃げられない”。


⸻


⸻


——次は、再起。

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