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波待ち。  作者: 阿部兄弟
2章 波紋と余温

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22/84

22話 「邂逅」


きっかけなんて、


だいたいこんなものだと思う。


⸻


特別でも、


劇的でもない。


⸻


ただ、


少しだけ日常が変わる瞬間。


⸻


それが、


後から大きな意味を持つこともある。


楓は高校に入学し、


バスケ部に入った。


⸻


小学校から続けてきたそれは、


簡単に手放せるものじゃなかった。


⸻


⸻


「ただいま」


⸻


玄関から聞こえる声も、


どこか明るい。


⸻


⸻


それだけで、


少し救われる気がした。


⸻


⸻


ある日。


⸻


仕事終わり。


⸻


そのまま、楓の高校へ向かう。


⸻


⸻


体育館。


⸻


⸻


扉を開けると、


音が溢れてくる。


⸻


⸻


シューズが床を擦る音。


⸻


ボールが弾む音。


⸻


⸻


「キュッ、キュッ」


⸻


⸻


その中で、


楓が走っている。


⸻


⸻


汗をかきながら、


ドリブルしている。


⸻


⸻


無駄のない動き。


⸻


⸻


「あいつ…」


⸻


⸻


思わず、


小さく笑う。


⸻


⸻


そのとき。


⸻


⸻


「もしかして、楓ちゃんのお兄さんですか?」


⸻


⸻


後ろから声。


⸻


⸻


振り向く。


⸻


⸻


一人の女性。


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⸻


若い。


⸻


多分、同い年くらい。


⸻


⸻


「あぁ、はい」


⸻


⸻


軽く頭を下げる。


⸻


⸻


「妹がお世話になってます」


⸻


⸻


女性が明るく笑う。


⸻


⸻


「こちらこそ!」


⸻


⸻


「私、コーチの山口沙耶香って言います」


⸻


⸻


はっきりした声。


⸻


⸻


どこか、真っ直ぐな印象。


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⸻


「楓さん、すごいですよ!」


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⸻


少し身を乗り出す。


⸻


⸻


「一年生なのに、今度の練習試合スタメンなんです!」


⸻


⸻


「……え?」


⸻


⸻


思わず、楓を見る。


⸻


⸻


知らなかった。


⸻


⸻


そんなに上手かったのか。


⸻


⸻


少しだけ、


口元が緩む。


⸻


⸻


「そうなんですね」


⸻


⸻


照れ隠しのように言う。


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⸻


「小学校からやってるんで」


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⸻


「上手くならなきゃ困りますよね、逆に」


⸻


⸻


少し得意げに。


⸻


⸻


沙耶香が笑う。


⸻


⸻


「私、この高校のOGなんですけど」


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⸻


体育館を見渡す。


⸻


⸻


「ここ、バスケ部だけ結構レベル高いんですよ」


⸻


⸻


少し間。


⸻


⸻


「そこでスタメンって、なかなかないです」


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⸻


その言葉に、


もう一度楓を見る。


⸻


⸻


走っている。


⸻


⸻


必死に。


⸻


⸻


でも、楽しそうに。


⸻


⸻


「……そっすか」


⸻


⸻


短く返す。


⸻


⸻


でも。


⸻


⸻


その声は、


少しだけ柔らかかった。


⸻


⸻


⸻


それが、


山口沙耶香との出会いだった。



このときはまだ、


ただの出会いだった。


⸻


何も特別じゃない、


どこにでもあるような。


⸻


でも、


確実に何かは動き始めていた。


⸻


それに気づくのは、


もう少し後の話。

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