22話 「邂逅」
きっかけなんて、
だいたいこんなものだと思う。
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特別でも、
劇的でもない。
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ただ、
少しだけ日常が変わる瞬間。
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それが、
後から大きな意味を持つこともある。
楓は高校に入学し、
バスケ部に入った。
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小学校から続けてきたそれは、
簡単に手放せるものじゃなかった。
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「ただいま」
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玄関から聞こえる声も、
どこか明るい。
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それだけで、
少し救われる気がした。
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ある日。
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仕事終わり。
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そのまま、楓の高校へ向かう。
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体育館。
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扉を開けると、
音が溢れてくる。
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シューズが床を擦る音。
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ボールが弾む音。
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「キュッ、キュッ」
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その中で、
楓が走っている。
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汗をかきながら、
ドリブルしている。
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無駄のない動き。
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「あいつ…」
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思わず、
小さく笑う。
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そのとき。
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「もしかして、楓ちゃんのお兄さんですか?」
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後ろから声。
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振り向く。
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一人の女性。
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若い。
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多分、同い年くらい。
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「あぁ、はい」
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軽く頭を下げる。
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「妹がお世話になってます」
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女性が明るく笑う。
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「こちらこそ!」
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「私、コーチの山口沙耶香って言います」
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はっきりした声。
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どこか、真っ直ぐな印象。
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「楓さん、すごいですよ!」
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少し身を乗り出す。
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「一年生なのに、今度の練習試合スタメンなんです!」
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「……え?」
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思わず、楓を見る。
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知らなかった。
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そんなに上手かったのか。
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少しだけ、
口元が緩む。
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「そうなんですね」
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照れ隠しのように言う。
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「小学校からやってるんで」
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「上手くならなきゃ困りますよね、逆に」
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少し得意げに。
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沙耶香が笑う。
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「私、この高校のOGなんですけど」
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体育館を見渡す。
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「ここ、バスケ部だけ結構レベル高いんですよ」
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少し間。
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「そこでスタメンって、なかなかないです」
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その言葉に、
もう一度楓を見る。
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走っている。
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必死に。
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でも、楽しそうに。
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「……そっすか」
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短く返す。
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でも。
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その声は、
少しだけ柔らかかった。
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それが、
山口沙耶香との出会いだった。
このときはまだ、
ただの出会いだった。
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何も特別じゃない、
どこにでもあるような。
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でも、
確実に何かは動き始めていた。
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それに気づくのは、
もう少し後の話。




