20話「覚悟」
好きだと気づいた、その先で。
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初めて、
誰かのことを考える自分に気づく。
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でも。
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それは、
優しさだけじゃ足りない場所だった。
胸の奥に落ちたままの想いが、
まだ、静かに揺れている。
「波も減ってきたし、そろそろ上がるか」
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二人は海から上がる。
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濡れた足で砂を踏みながら、並んで歩く。
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蒼がふと、笑う。
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「あれ感じたら、サーフィンやめれなくなるんだよな」
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その顔は、
どこか子供みたいだった。
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澪が思わず吹き出す。
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「なんだよ」
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「いやさ、さっき私のこと“子供みたいな顔”って言ってたけど」
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少しだけ笑いながら。
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「蒼も今、子供みたいだったよ?」
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「うるせーな」
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二人で笑う。
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少しだけ、間。
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蒼が前を見たまま続ける。
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「俺もさ」
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「初めてテイクオフできたとき」
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「時間止まったみたいな感覚になって」
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「なんか、不思議な気持ちになったんだよな」
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澪が頷く。
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「波待ちも重要だよね」
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「乗る波、ちゃんと見極めないといけないし」
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「そうだな」
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短く返す。
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防波堤の階段を降りる。
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コンクリートに残る水が、光を反射する。
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二人はそれぞれ、
男女のシャワー室へと分かれていく。
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澪が先に上がる。
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髪を軽く拭きながら、辺りを見渡す。
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「あれ?蒼いないな…」
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少し歩く。
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「あっ、いたいた」
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少し離れた場所。
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蒼が、タバコを吸っている。
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後ろから近づく。
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少しだけ笑って。
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驚かせようとした、そのとき。
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蒼の視線の先に気づく。
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父。
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母。
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子供。
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三人で笑っている。
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その光景を、
蒼はただ見ていた。
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その顔は。
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虚しくて。
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痛くて。
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哀しかった。
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澪は、動きを止める。
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驚かすのをやめる。
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何も知らないふりをして、
自然に隣へ歩く。
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「おまたせー」
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「おう」
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「いこっか」
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「あぁ」
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二人は歩き出す。
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澪が、少しだけ視線を横に流す。
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さっきの三人。
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まだ笑っている。
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——そうだよね
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蒼だって、
そういうの、あるよね。
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私を、
過去から救おうとしてくれてる蒼。
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でも。
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——あなたは?
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誰が、
救ってくれるの。
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少しだけ、
息を吸う。
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答えは、
もう出ている気がした。
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——それは、私しかいない。
踏み込めば、
何かが変わる。
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でも。
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踏み込まなければ、
何も変わらない。
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その間で、
まだ、立ち止まっている。




