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波待ち。  作者: 阿部兄弟
2章 波紋と余温

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19話 「自覚」


分かっていなかったわけじゃない。



ただ、


気づかないふりをしていただけ。



波みたいに、


何度も来ていたはずなのに。



それでも、


ちゃんと見ようとしなかっただけ。


「次、波待ちな」



蒼が海の上で言う。



澪は首を傾げる。



「なにそれ?」




蒼は少しだけ考える。



「んー…例えばこれ」




自分のボードを軽く叩く。



「今、俺がやってるやつ」




澪が真似してみる。



「板に跨るってこと?」




「そう」



少し間。



「まぁ足つく場所なら無理にやらなくてもいいけどな」




周りを見る。



横になって待ってるやつ。



しがみつくように待ってるやつ。




「体勢はなんでもいい」




蒼が澪を見る。



「大事なのは、“待つ”ってこと」




少し間。




「次いくか」




「次って言っても」




少しだけ笑う。




「これできれば、もう澪が言ってた“サーファー”だな」




澪の目が少し輝く。




「え、なになに?」




ワクワクした顔。




蒼はボードに乗る。




「テイクオフ」




「今からやるから」




「さっきのお前と何が違うか見てろ」




波を見る。




静かに、構える。




波が、盛り上がる。




その瞬間。




蒼がパドルを始める。




速い。



正確。




波の頂点。




滑り出す。




押されるんじゃない。




乗っている。




波を、使っている。




一瞬の出来事。




でも。




その姿は、はっきり焼きつく。




岸に戻る。




蒼が近づいてくる。




「何が違うか分かった?」




澪は少し考える。




「……乗ってた」




少し間。




「ちゃんと波に乗ってた」




「私のは押される感じだったけど」




「蒼のは…」




言葉を探す。




「波で遊んでる感じ」




蒼が少しだけ笑う。




「鋭いじゃん」




「その通り」




少し間。




「これがテイクオフ」




「よくテレビで見るのは立ってるけど」




「別にそれだけがサーフィンじゃない」




波を見る。




「波で遊べれば、それがサーフィンだよ」




澪はその言葉を、静かに聞いている。




少しだけ、息を吸う。




「……どうやるの?」




蒼が少し近づく。




「さっきのお前さ」




「ただ待ってただけだろ」




澪は少しだけ苦笑い。




「そうじゃなくて」




蒼が波を指さす。




「波ができる瞬間」




「盛り上がるタイミングで」




「波よりちょっと前に入って」




「一気にパドル」




少し間。




「遅いと乗れない」




「早すぎると」




ボードの後ろを指す。




「テールがしゃくられて」




「パーリングする」




澪は真剣な顔で聞いている。




その顔は、


もう最初の頃とは違う。




ただの“興味”じゃない。




ちゃんと、


向き合っている顔。




波の音が、重なる。




蒼の言葉が、


どこかで別の意味を持ち始める。




「タイミングだよ」




ぽつりと。




「早すぎてもダメだし」




「遅すぎてもダメ」




少し間。




「ちゃんと見て」




「自分で行くしかない」





澪は、静かに頷く。




その言葉が、


少しだけ胸に残る。




「自分で決めろ」




その言葉が、頭の中に残る。




さっき言われた言葉。




でも。




今は、違う意味にも聞こえる。




——やってみる




澪は、小さく呟く。




奥から、波が来る。




ゆっくりと、形を作る。




少し構える。




——まだだ




違う。




——それじゃない




視線をずらす。




——あれだ




蒼の声。




澪が見ていた波は、


手前で崩れた。




「……すごい」




なんで分かるの。




次の波が来る。




蒼が言う。




「パドルの準備!」




澪は向きを変える。




波を背にする。




ゆっくり、


パドル。




波の腹が、


盛り上がる。




その瞬間。




蒼と目が合う。




頷く。




——今だ




一気に、漕ぐ。




水が弾ける。




体が、前に押し出される。




「……!」




違う。




前と、全然違う。




速い。




波に、乗っている。




自然の力。




こんなにも。




強い。




岸に近づく。




止まる。




息が少し上がる。




蒼が手を差し出す。




くしゃっと笑う。




「な?」




「やばいだろ?」




澪は笑いながら叫ぶ。




「やばい!!」




「もうなんて言えばいいか分かんない!」




「やばい!!」




蒼が嬉しそうに笑う。




「さっきさ」




少しだけ指をさす。




「テイクオフするとき」




「俺の顔見ただろ?」




澪が少しだけ固まる。




「そのときの顔」




少し間。




「子供みたいだったぞ」




澪が笑う。




でも。




どこか、照れてる。




蒼が少しだけ真面目になる。




「分かんなかったら」




「また教えてやるから」




その言葉。




前にも聞いた気がする。




——怖いときは、俺に言え




あのときの言葉が重なる。




蒼が続ける。




「サーフィンってさ」




少し間。




「人生みてぇだろ?」




波を見る。




「自分で待って」




「見極めて」




「自分で乗る」




少し間。




「さっきの波」




「もう一生来ないぞ」




澪が、静かに聞いている。




「でも」




蒼が少しだけ笑う。




「お前が乗ったんだ」




「すげぇじゃん」





澪は、小さく頷く。




「……ありがとう」




心の中で、言葉が広がる。




——サーフィンって、人生に似てる




ゆっくり顔を上げる。




蒼を見る。




真っ直ぐ。




「蒼が決めてくれた波に乗れて、よかった」




その言葉。




蒼は少しだけ目を細める。




でも、何も言わない。




ただ、


少しだけ笑う。





波の音。



風。



光。




すべてが、


少しだけ優しくなる。




澪の中で、


ひとつの答えが出る。




——私は、この人が好きだ

もう、誤魔化せない。



言葉にしてしまえば、


簡単だった。



でも。



その一言で、


全部が変わってしまう。



それでも。



もう、戻れない。

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