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波待ち。  作者: 阿部兄弟
2章 波紋と余温

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18話 「共振」


同じ朝でも、


少しだけ違う温度で始まる日がある。



理由は分からない。


でも、


どこかで同じ方向を向いている。



そんな小さなズレが、


少しずつ重なっていく。

静かな朝。



遠くで波の音がする。




車の音がするたびに、


澪は顔を上げる。




「……違うか」




また一台、通り過ぎる。




落ち着かない。




ウォーキングしてる人。



ランニングしてる人。




その中で、


一人だけ立ち止まってる。




ちらっと見られる。




「……やだな」




小さく呟く。




「あ、そうだ」




ふと思いつく。




ボードと荷物をその場に置く。




近くの自販機まで歩く。




コーヒーを二本。




「蒼の分も」




少しだけ、得意げに。




家の前に戻る。




その瞬間。




「あ」




車が止まっている。




ブルーグレーの車体。




そして。




置いていたはずのボードが、


もう無い。




「……積んでるし」




小さく笑う。




走る。




助手席の窓の前まで。




コーヒーを掲げる。




「どうだ!」




みたいな顔。




運転席。




蒼が頭を抱えて笑う。




同じように、


コーヒーを持ち上げる。




「……は?」




一瞬。




それから。




二人とも笑う。




「同じことしてるし…」




澪が笑いながら言う。




ドアを開ける。




助手席に乗り込む。




「おはよー!」




シートベルトをしながら。




「てかさ、すごくない!?」




コーヒーを見せる。




蒼が肩をすくめる。




「思ったより早く着きそうだったから」




「コンビニ寄ったついでにな」




澪が笑う。




「私も〜!」




「早く出すぎてさ、買いに行ったの!」




少し間。




「よろしくね、コーチ」




軽く。




蒼の肩を、ポンと叩く。




その一瞬。




空気が、少しだけ変わる。




でも。




蒼は何も言わない。




ただ。




少しだけ、口元が緩む。




車が、ゆっくり動き出す。




朝の光の中へ。




ちゃんと予習してきたか?」



波の音の中で、


蒼が言う。




澪は軽く胸を張る。



「したよ」



少し間。



「今日の波もちょうど良いし」




蒼が少しだけ驚く。



「波情報まで調べるようになったのか」




澪が髪をかき上げる。



「まぁ、サーファーなんで?」




蒼が鼻で笑う。



「“丘”サーファーにならなきゃいいけどな」




澪が顔をしかめる。



「なにそれ感じ悪!」




二人で少し笑う。




海に着く。




波の音。



風。




前よりも、少しだけ強い。




「よし、着替えよう」




それぞれ更衣室へ。




少しして。




蒼が先に出る。




腕を回しながら、


海を見る。




少し遅れて、


澪が出てくる。




「よし、行くか」




「うん」




二人で歩き出す。




前回より、


少しだけ波が高い。




澪の足が、


ほんの少しだけ止まる。




「まずストレッチな」



蒼が言う。




「怪我するから」



少し間。



「緊張もほぐれるし」




澪は小さく頷く。




——やっぱり




分かってるんだ、この人。




何も言わなくても。




「……大丈夫かな」




小さな声。




蒼は横目で見る。




そのまま、何も言わない。




ただ。




少しだけ近くに立つ。




「前よりは出来てる」




短く。




それだけ。




でも。




その一言で、


少しだけ呼吸が楽になる。




海へ入る。




冷たい水。




体が一瞬、強張る。




「焦んなよ」




後ろから声。




「波は逃げねぇから」




澪は少しだけ笑う。




「うん」




ボードに乗る。




前回の感覚を思い出す。




パドル。




波を見る。




タイミング。




「来るぞ」




蒼の声。




澪の心臓が強く鳴る。




「いける」




自分に言い聞かせる。




波が来る。




パドル。




体が前に押される。




「そのまま!」




蒼の声。




澪は前を見る。




ただ、前だけ。




波に乗る。




一瞬。




世界が、変わる。




押される感覚。




風。




音。




「……!」




岸に近づく。




止まる。




立ち上がる。




振り返る。




蒼が見ている。




澪は、


少しだけ笑う。




前回より、


静かな笑顔。




でも。




確実に、進んでいる。

特別なことは、何も起きていない。



ただ、


同じタイミングで笑って、


同じ方向に進んでいる。



それだけなのに、


距離は確実に変わっていく。



気づかないまま、


少しずつ。

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