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波待ち。  作者: 阿部兄弟
2章 波紋と余温

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14話 「余熱」

一緒にいる時間よりも、


離れたあとに残るものの方が、


はっきりすることがある。



何気ない一日。


何気ない会話。



でも。



その余韻だけが、


少しだけ長く残る。


スマホが重なる。



「よし、これでオッケー」



澪が満足そうに笑う。



「あとでなんか送っとくわ!」



蒼は軽く頷く。



「あぁ」




外は、もう夜だった。



等間隔に並んだ街灯が、


道路を淡く照らしている。



窓を少し開けると、


初夏の風が流れ込んでくる。




「なんかさ」



澪が伸びをする。



「今日一日めっちゃ充実したかも」



少し笑う。



「でもサーフィン疲れたぁ」




蒼が小さく笑う。



「初日はやばいよな」



「朝も言ったけど、明日筋肉痛だぞ」




「最悪〜」



すぐに返す。



「あ、でも明日休みでよかった〜」



少し間。



「てかさ、蒼って仕事なにしてんの?」




「鉄工場」



短く答える。



「鉄切ったり、溶接したり」



「まぁそんな感じ」




「え、あっつそう」



素直な反応。



「私はアパレル!」



少し誇らしげに。



「高校卒業してからずっと同じ会社」




少し間。



「もう10年だよ?」




蒼が軽く目を細める。



「それはすごいな」




少しだけ笑う。



「サーフィンも続くといいな」




「どうせ続かないと思ってるでしょ〜?」



澪が笑う。




「一年もすれば蒼追い越すから」




「無理だろ」



即答。




「なにそれ〜!」




二人で笑う。




その時間は、


軽くて、あっという間だった。




「…あ、ここでいい」



澪が前を指さす。



自販機の前。




ブレーキを踏む。




現実に戻るみたいに、


空気が少し変わる。




澪の表情が、


ほんの少しだけ曇る。




「今日はさ」



シートベルトを外しながら。



「ほんとにありがとね」




少し笑う。



「楽しかった」




蒼も頷く。



「俺も」



少し間。



「久しぶりに充実したかも」




澪がドアを開ける。



「また専属コーチよろしくね〜」




振り返って。



「バイバイ」




外に出る。



ボードと荷物を下ろす。




蒼は軽く手を上げる。




澪は、小さく手を振る。




ドアが閉まる。




車が、ゆっくり走り出す。




ミラーに、


澪の姿が映る。




だんだん小さくなっていく。




さっきまで隣にいたのに。




もう、いない。




エンジン音。



タイヤの音。




それだけが、残る。




——なんだこれ




少しだけ、


空っぽな感覚。




そのとき。




ピロン。




スマホが鳴る。




画面を見る。




LINE。




澪。




開く。




"「いぇーいゲットー」"




その一文。




思わず、少し笑う。




さっきまでの空気が、


少しだけ戻る。




車は、夜の中を走っていく。




玄関のドアを閉める。



カチッ、と音がする。



その瞬間。



静寂。




さっきまでの音が、


全部消える。




靴を脱ぐ。



バッグを置く。




何も考えずに、


そのままソファに座る。




ふぅ、と息を吐く。




「……疲れた」




小さく呟く。




体の疲れじゃない。




どこか、奥の方。





少しだけ、


天井を見る。




今日のことが、


ゆっくり頭の中を流れる。




海。



笑った時間。



夕焼け。




そして。




蒼。




「……なんなんだろ」




ぽつりと出る。




スマホを手に取る。




LINE。




さっき送ったやつ。




「いぇーいゲットー」




既読がついてる。




少しだけ、


安心する。




でも。




それと同時に、


少し怖くなる。




——また、同じになったらどうしよう




無意識に、


考えてしまう。




誰かと関わるとき。




どこかで、


終わりを考えてしまう。




「……やだな」




スマホを置く。




目を閉じる。




蒼の言葉が浮かぶ。




『自分で決めろ』




『それでも答え出ねぇなら、それが答えだ』




少しだけ、


笑う。




「なにそれ…」




でも。




不思議と、


嫌じゃなかった。





ゆっくり立ち上がる。




窓を開ける。




夜の風。



少しひんやりしてる。




遠くで、車の音。




静かな街。




「……もうちょっと」




小さく呟く。




「ちゃんと生きてみよっかな」





その言葉は、


誰に向けたわけでもない。




でも。




確かに、


自分に向けたものだった。





スマホが、もう一度光る。




蒼から。




短い一言。




「今日はありがとな」





澪は少しだけ笑う。




さっきより、


少しだけ自然に。




画面を見たまま。




指が動く。




「こちらこそ」




少しだけ間を置いて。




「またね、コーチ」




送信。




夜が、少しだけやわらぐ

終わったはずの一日なのに、


どこかでまだ続いている。



言葉も、空気も、


全部が少しだけ残っている。



それはきっと、


もう戻れない過去じゃなくて。



これからに繋がっていくもの。



静かに、


でも確実に、


何かが変わり始めている。


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