13話 「心解」
交わらなかった2人。
時間が経って、
形が変わって、
距離ができても。
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どこかで、
また重なってしまうものがある。
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それを偶然と呼ぶのか、
それとも——
夕焼けの余韻が、まだ少し残っている。
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車の中。
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さっきまでの空気が、
静かに続いている。
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「蒼?」
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助手席からの声。
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「んー?」
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気の抜けた返事。
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澪が少しだけ笑う。
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「ありがとうね」
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少し間。
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「なんか、ちょっと楽になったわ」
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蒼は前を見たまま答える。
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「そりゃよかった」
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軽く息を吐く。
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「あの澪が暗いと、こっちが調子狂うしな」
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一瞬、間。
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それから。
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二人で笑う。
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その笑いは、
さっきまでとは少し違う。
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少しだけ、軽い。
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澪は窓の外を見る。
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流れる景色。
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夕焼けが、少しずつ夜に変わっていく。
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私の中に、
何重にも巻き付いていたもの。
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気づかないうちに、
当たり前になっていたもの。
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それが。
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一本ずつ、
ほどけていくような感覚。
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切れていく。
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静かに。
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確実に。
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それをやってるのは——
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蒼。
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あなたなんだよ。
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蒼が言う。
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「家どこ?」
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少し間。
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「そのまま送る」
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澪は少しだけ顔を上げる。
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さっきよりも、少しだけ軽い声。
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「あー、案内するね」
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少し間。
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ふっと思い出したように。
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「ていうかさ」
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蒼
「ん?」
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澪が笑う。
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「私の専属コーチなのにさ」
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少しだけ身を乗り出す。
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「連絡先知らないのおかしくない?」
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蒼は一瞬だけ澪を見る。
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さっきまでの顔じゃない。
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ちゃんと戻ってる。
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その確認みたいに、
少しだけ笑う。
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「あー、確かに」
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ポケットからスマホを出す。
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「いいよ」
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澪もスマホを出す。
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二人の手が、近づく。
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画面が、重なる。
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一瞬。
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その感覚に、
少しだけ引っかかる。
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——これ
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どこかで。
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似たようなことがあった気がする。
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教室。
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昼休み前の、少しざわついた空気。
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蒼は席に座って、スマホを見ていた。
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特に何をするでもなく。
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ただ、時間を潰してるだけ。
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「なぁ」
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横から声が飛んでくる。
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顔を上げる。
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そこにいたのは、同じクラスのやつ。
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少し軽そうな雰囲気。
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「お前さ、この前」
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笑いながら。
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「入学式終わってすぐ、髪型と眉毛で居残りさせられてたよな?」
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蒼は少しだけ考える。
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「あぁ、あのときか」
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少し間。
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「お前もいたっけ」
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そいつが笑う。
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「いたいた!」
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「お前いてちょっと安心したわ」
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「まさか入学式からツーブロックのロン毛いるとは思わなくてさ」
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蒼が軽く笑う。
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「お前こそ眉毛なかっただろ」
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「赤髪だったし」
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そいつは胸を張る。
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「俺、須田圭介」
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「“すだけい”って呼ばれてる」
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少しだけ身を乗り出す。
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「萩原だよな?」
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蒼が頷く。
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「LINE交換しね?」
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蒼はスマホを持ち上げる。
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「あぁ、いいよ」
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画面を出す。
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QRコード。
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その瞬間。
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横から、もう一つのスマホが入り込む。
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"「いぇーい。ゲットー」"
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明るい声。
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澪だった。
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すだけいが少し驚く。
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「おいおい、割り込むなよ」
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澪は気にせず笑う。
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「いいじゃん別に」
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蒼を見る。
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「クラスメイトなんだしさ」
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少しだけ間。
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「仲良くしよ?」
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その言い方。
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軽い。
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でも。
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どこか、まっすぐだった。
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蒼は一瞬だけ澪を見る。
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——なんなんだ、こいつ
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でも、拒む理由もない。
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「…まぁいいけど」
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そう言って、スマホを少し傾ける。
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澪が素早く読み取る。
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「はい、完了〜」
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満足そうに笑う。
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すだけいが横でツッコむ。
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「いや俺が先だろ!」
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教室に、少しだけ笑いが広がる。
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その中心にいるのは、
やっぱり澪だった。
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でも。
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蒼はまだ知らない。
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これはただの偶然じゃないってことを。
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澪は、最初から気づいていた。
あの頃から変わったものもあれば
変わらないものもある。
似たような景色、同じ人。
変わっていたのは自分だけだったのかもしれない。




