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波待ち。  作者: 阿部兄弟
2章 波紋と余温

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13話 「心解」

交わらなかった2人。


時間が経って、


形が変わって、


距離ができても。


⸻


どこかで、


また重なってしまうものがある。


⸻


それを偶然と呼ぶのか、


それとも——




夕焼けの余韻が、まだ少し残っている。


⸻


車の中。


⸻


さっきまでの空気が、


静かに続いている。


⸻


「蒼?」


⸻


助手席からの声。


⸻


「んー?」


⸻


気の抜けた返事。


⸻


⸻


澪が少しだけ笑う。


⸻


「ありがとうね」


⸻


少し間。


⸻


「なんか、ちょっと楽になったわ」


⸻


⸻


蒼は前を見たまま答える。


⸻


「そりゃよかった」


⸻


軽く息を吐く。


⸻


「あの澪が暗いと、こっちが調子狂うしな」


⸻


⸻


一瞬、間。


⸻


それから。


⸻


二人で笑う。


⸻


⸻


その笑いは、


さっきまでとは少し違う。


⸻


少しだけ、軽い。


⸻


⸻


澪は窓の外を見る。


⸻


流れる景色。


⸻


夕焼けが、少しずつ夜に変わっていく。


⸻


⸻


私の中に、


何重にも巻き付いていたもの。


⸻


⸻


気づかないうちに、


当たり前になっていたもの。


⸻


⸻


それが。


⸻


一本ずつ、


ほどけていくような感覚。


⸻


⸻


切れていく。


⸻


静かに。


⸻


確実に。


⸻


⸻


それをやってるのは——


⸻


⸻


蒼。


⸻


⸻


あなたなんだよ。


⸻


⸻


――――――――――


――――――――――


⸻


蒼が言う。


⸻


「家どこ?」


⸻


少し間。


⸻


「そのまま送る」


⸻


⸻


澪は少しだけ顔を上げる。


⸻


さっきよりも、少しだけ軽い声。


⸻


「あー、案内するね」


⸻


少し間。


⸻


ふっと思い出したように。


⸻


「ていうかさ」


⸻


蒼

「ん?」


⸻


澪が笑う。


⸻


「私の専属コーチなのにさ」


⸻


少しだけ身を乗り出す。


⸻


「連絡先知らないのおかしくない?」


⸻


⸻


蒼は一瞬だけ澪を見る。


⸻


さっきまでの顔じゃない。


⸻


⸻


ちゃんと戻ってる。


⸻


⸻


その確認みたいに、


少しだけ笑う。


⸻


「あー、確かに」


⸻


ポケットからスマホを出す。


⸻


「いいよ」


⸻


⸻


澪もスマホを出す。


⸻


⸻


二人の手が、近づく。


⸻


⸻


画面が、重なる。


⸻


⸻


一瞬。


⸻


⸻


その感覚に、


少しだけ引っかかる。


⸻


⸻


——これ


⸻


⸻


どこかで。


⸻


⸻


似たようなことがあった気がする。


⸻


⸻


教室。


⸻


昼休み前の、少しざわついた空気。


⸻


蒼は席に座って、スマホを見ていた。


⸻


特に何をするでもなく。


⸻


ただ、時間を潰してるだけ。


⸻


「なぁ」


⸻


横から声が飛んでくる。


⸻


顔を上げる。


⸻


そこにいたのは、同じクラスのやつ。


⸻


少し軽そうな雰囲気。


⸻


「お前さ、この前」


⸻


笑いながら。


⸻


「入学式終わってすぐ、髪型と眉毛で居残りさせられてたよな?」


⸻


蒼は少しだけ考える。


⸻


「あぁ、あのときか」


⸻


少し間。


⸻


「お前もいたっけ」


⸻


そいつが笑う。


⸻


「いたいた!」


⸻


「お前いてちょっと安心したわ」


⸻


「まさか入学式からツーブロックのロン毛いるとは思わなくてさ」


⸻


蒼が軽く笑う。


⸻


「お前こそ眉毛なかっただろ」


⸻


「赤髪だったし」


⸻


⸻


そいつは胸を張る。


⸻


「俺、須田圭介」


⸻


「“すだけい”って呼ばれてる」


⸻


少しだけ身を乗り出す。


⸻


「萩原だよな?」


⸻


蒼が頷く。


⸻


⸻


「LINE交換しね?」


⸻


⸻


蒼はスマホを持ち上げる。


⸻


「あぁ、いいよ」


⸻


⸻


画面を出す。


⸻


QRコード。


⸻


⸻


その瞬間。


⸻


⸻


横から、もう一つのスマホが入り込む。


⸻


⸻


"「いぇーい。ゲットー」"


⸻


⸻


明るい声。


⸻


⸻


澪だった。


⸻


⸻


すだけいが少し驚く。


⸻


「おいおい、割り込むなよ」


⸻


⸻


澪は気にせず笑う。


⸻


⸻


「いいじゃん別に」


⸻


蒼を見る。


⸻


「クラスメイトなんだしさ」


⸻


⸻


少しだけ間。


⸻


⸻


「仲良くしよ?」


⸻


⸻


その言い方。


⸻


軽い。


⸻


でも。


⸻


どこか、まっすぐだった。


⸻


⸻


蒼は一瞬だけ澪を見る。


⸻


⸻


——なんなんだ、こいつ


⸻


⸻


でも、拒む理由もない。


⸻


⸻


「…まぁいいけど」


⸻


⸻


そう言って、スマホを少し傾ける。


⸻


⸻


澪が素早く読み取る。


⸻


⸻


「はい、完了〜」


⸻


⸻


満足そうに笑う。


⸻


⸻


すだけいが横でツッコむ。


⸻


「いや俺が先だろ!」


⸻


⸻


教室に、少しだけ笑いが広がる。


⸻


⸻


その中心にいるのは、


やっぱり澪だった。


⸻


⸻


でも。


⸻


⸻


蒼はまだ知らない。


⸻


⸻


これはただの偶然じゃないってことを。


⸻


⸻


澪は、最初から気づいていた。




あの頃から変わったものもあれば


変わらないものもある。


似たような景色、同じ人。


変わっていたのは自分だけだったのかもしれない。

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