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リトルスター〜鄙びた旅館の女将になった私がテッペンを取るまで。  作者: 間宮芽衣


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【第十九話】リードタイムという壁

 

「おー、日菜子!無事帰ったか!」


次の日、お昼まで実家でゆっくりしてから爺ちゃんと婆ちゃんの家に帰った。


「うんっ! ただいま。これ、舟和の芋羊羹」


私が芋羊羹を渡すと、二人とも嬉しそうに笑った。


「うまそうだべなぁ。今お茶入れっから待ってな」


三人で芋羊羹と一緒にお茶を飲みながら、私の不在中何があったのか話した。


「そういえば、他のOTAの営業の人がきてたべな。資料持ってきたからとりあえず貰っといたべよ。まあ、爺ちゃんはよくわかんねぇからさ! 日菜子が判断してくれーい」


そう言われて資料の入った封筒を渡された。


「どうもね。ばって…。正直あんまり増やしすぎるのも管理が面倒なんだけどね。まあ、高単価の人が取れるっていうなら別だけども。


 …ばって、それも、もうラグジュアリー層に強い一休さんも掲載したし。他のサイトはやるとしてももう少し先だべな」


言いながら資料を受け取る。


 ──明日はいよいよ宿のホームページを作る業者さんがデザイン案を見せてくれる予定だ。どんなホームページになるか、地味に楽しみで仕方ない。


(いっぱい賢治の撮ってくれた写真載せてもらおうっと)


爺ちゃんにも同席してもらい、値段やデザインを見てからどれにするか確定させる予定だ。


 あとは、畳を張り替えたり、シャワーを変えることにしたので、いくつかの業者さんに見積もりもお願いした。今すぐは取り掛かれないが、どこにするかも検討しなければならない。


(うーん…まあ、抽選結果も出てないしすぐには無理だけれども。やることがいっぱいだべな。


 出来たらオシャレだし琉球畳にしてぇな)


ちなみに節約のために、畳だけ買って張り替えは自分でする…という話をしたら、賢治と父ちゃんが張り替えてくれるという話になった。


「爺ちゃん、改装の件だけども、予約が入ってない閑散期に、数日間休館して改装しなきゃなんないべな」


「確かになぁ…できたら早いほうがいいけどよ。助成金も貰えるかもわからねぇし。まあ、11月くらいがいいんでねぇかな」


すると、芋羊羹を頬張りながら婆ちゃんがこんな事を言い出した。


「そう言えば、最近あのホタテ丼、結構若い人が写真撮ってくれてるみてぇで。結構SNSっちゅーの?そういうのとかにも上げてくれてるみたいだべ」


「えー、それ、凄くいいんでね?! あ、んだば、SNSに上げてくれた人に何かサービスとか出来ねぇかな…。 桐谷さんも『ウリがねぇとダメ』って言ってたし。他にも沢山『ウリ』を色々作りてぇけど、ホタテ丼もウリの一つでしてぇと思ってて」


私が興奮していうと、爺ちゃんは何か考え込む。


「うーん…んだば、アイスクリームくれぇなら、デザートにつけてもいいかもな…」


「本当?! 投稿してくれたお客様にサービスしようよ。私、食堂に置くポップとか作ってみる」


すると婆ちゃんが何かを思い出したような顔をした。


「へば、OTAさんに載せるようになってから、若ぇ家族連れが増えたような気がする。前は年取った人ばっかりだったんだけども。


 ──もう少し子供用のメニューを増やしてもいいかもしれねぇな」


「あ、他の旅館さんで離乳食とか無料で付けてるとことかあったような…。出来たら家族連れとか、若ぇ人にも、もっときてほしいよね。


 うちでも離乳食とか出来るかな…?


 これから『家族連れに優しい』と『料理』を『のんびりや』のウリにしていけたらいいなぁ…」


なんだか私だけではなく、爺ちゃんと婆ちゃんも生き生きとした顔をしている。


 少しずつだけど、確実に何かが変わってきている。


 ──そんな気がして、私はワクワクしてしまった。


◇◇


「そうですか…。ファミリー客をターゲットにするんですね」


三週間ぶりに桐谷さんが出張で青森に来てくれたので、打ち合わせすることになった。


 相変わらず地味な事務所の中で桐谷さんだけがキラキラしている。


「はい。最近OTAさんを始めてから増えたんです」


「それはお力になれているようで良かったです。でしたら、もう少しファミリーに特化したプランを増やしてみると良いかもしれませんね」


そう言われて私は考え込んでしまう。


「うーん…と言っても…。どんな風に打ち出ししたら見てもらえますかね…」


「子供向けに何か取り組んでいる事などはありますか?」


桐谷さんのその言葉で、結局松本さんが小さな子供向けに、離乳食を無料で提供してくれるようになったこのを思い出した。


「そういえば、ご家族の場合、予約の際に離乳食やお子様用のメニューを選べるようにして提供しているんです」


その言葉に桐谷さんは目を輝かせた。


「──いいじゃないですか!」


その瞬間、ずいっと御尊顔が目の前に出てきたので思わずドキッとしてしまう。


(…わ。ち、近ぇ…!)


そんな私には気づかず、桐谷さんは嬉しそうに続ける。


「離乳食までやっている旅館さんはそこまで多くないです! プラン名に【赤ちゃん歓迎】や【選べる離乳食】などのキーワードを入れるだけでだいぶ変わってくると思います!


 あとは、アメニティやスリッパ、浴衣、ベビーベッドなど実際に子供向けに提供されているサービスをきちんと詳細を書き込むとユーザーさんは安心するかと!」


意気込んで話す桐谷さんを見ていると、最初はドキドキしていたけれど、落ち着くと同時に笑いが込み上げてきた。


「…ふふっ」


すると、桐谷さんが少しキョトンとした顔をした。


「──どうしたんですか?」


「いえ。最初、桐谷さんてエリートだし顔も整ってるので取っ付きづらい方なのかなって思ってたんですけども…。実は熱い人だったんだべなって思ってしまって」


私がそう言うと、目を見開いたあとジワジワと顔を赤くして口元を抑えた。


「…すみません、ついつい…。嬉しくなってしまって」


(うわ…桐谷さんの照れた顔って見るのはじめてだべな)


なんだか素の桐谷さんが見れたようで私も嬉しくなってしまう。


「そういえば、今うちの宿、稼働率が8割くらいなんですけど、これを上げていくのってどうすればいいですかね」


単価は元が安すぎたのですぐ上げる事が出来た。


 けれど、稼働率は元々の7割からさほど変わっていないのだ。


(デイユースも取りたいけど、やっぱりできるだけ、宿泊の稼働そのものを上げていきてぇんだよな)


「そうですね…今『のんびりや』さんはリードタイムが二週間前がピークですよね」


そう言われて私は頷いた。


「はい。そうですね。…遅いですか?」


ちなみに、リードタイムとは、予約から宿泊するまでの日数のピークはどれくらいか…ということだ。


「はい。正直稼働が高い宿は一ヶ月以上前から宿泊客の取り込みに成功していますね。下手したらその頃にはもう7割ほど埋まっているホテルや旅館さんもあります」


「えっ、そんなに早く?!」


思わず変な声が出てしまった。


(うち、そんなに遅れてるんだ…)


ついつい焦りを感じてしまう。


「はい、実は。ですが、勿論早割などにすると、単価は下がってしまいますからね。兼ね合いも大事なのですが…。シンポジウムで説明のあった飛行機付きプランを充実させたり、早割プランのバリエーションを増やしてもいいかもしれませんね。」


「なるほど…。そこは単価との兼ね合いが大事ですね」


私の言葉に桐谷さんは頷いた。


「そうなんですよね。あとは、一年後までお部屋出しをする事が重要だったりします。年末年始などはかなりリードタイムが長いですから。


 ほら、年末年始は本当は奥様達も含め家族全員が何もせずに旅館でゆっくり休みたい、という方達も多いんです。


 そういう方達はもう下手したら半年以上前に予約を入れたりするんですよね。」


「なるほど。確かにおせちの予約のチラシとかも下手したらお盆くらいから出てきたりしますもんね」


よく、デパートに行くと『こんな時期からおせち?!』と思ったりしていたが、年末年始をどうするかについて実は世間の人達はそれくらいから頭を悩ませていたらしい。


「そうなんです。だから、先々へのお部屋出しは是非意識して頂きたいです」


「わかりました。んだば、とりあえず、早割プランの充実や先々へのお部屋出し、けっぱります。


 あ…っていうか、ラックレートでのお部屋出しはすぐできるんで。今やっちゃいますね!」


言いながら私が管理画面を出して、期間を桐谷さんの前で延長すると、彼はニッコリと笑った。


「…本当に、言えばすぐやって下さいますよね。それでこそ、河南さんです」


その言葉になんだか桐谷さんに認めてもらえたような気がして、私は密かに心の中でガッツポーズを取ってしまった。

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― 新着の感想 ―
桐谷さんの言う通り、アドバイスをすぐ取り入れて実践するフットワークの軽さが若女将の良いところですね!
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