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服の下を透視する能力を得たら、あなたは何をしますか?  作者: メモ帳パンダ
過去との対峙

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第83話 東京上陸

 俺は新幹線で東京駅に着いた。

 明日開催の全日本剣道選手権に出場するためだ。久しぶりの東京だ。


「うーん、東京はやっぱ大都会だよなぁ」


 俺の住んでいる大阪も都会は都会なのだが、東京とはやっぱ違う。

 たとえるなら、東京は梅田難波レベルの街が何個も連なっている感じだ。車窓の景色が、ずっとその規模で途切れない。


 本当はホテルに前日入りしなきゃいけなかったんだけど、俺も先輩も授業があって無理だった。医学生は忙しいのだ。

 しかも当日も、試合だけしてそのまま帰るスケジュールだ。


 普通は試合後に一泊してから帰るんだけど、俺にはそんな余裕がない。

 問題は、準決勝に勝ってしまうと帰れなくなる、わりと綱渡りの段取りなことだ。

 表彰式と懇親会に出ることになると、新幹線の終電に間に合わなくなる。


 新幹線を降りてから三十分ほど迷い続け、ようやく大会本部指定のホテルに着いた。受付で名乗った。


「すみません、剣道で予約している日野です」


「あ、はい。日野さんですね。荷物をお持ちするのでそのままお待ちください」


 そのまま、大会側が預かっていた剣道用品を受け取った。今回は前日練習には出ず、体を休めるつもりだ。


 夜は、俺が診ているバイオリン奏者の一人、綾辻由梨(ゆり)さんの治療が入っている。

 由梨さんは、俺の恋人・綾辻先輩の従姉妹だ。……とはいえ、俺は由梨さんの住所は知らない。

 というか、LINEも交換していない。なぜか、先輩が由梨さんから来る連絡を全てブロックしているからだ。


 SNS経由で友達申請が来て、俺も少しDMでやりとりをしたけど、なぜか翌日にはバレて、先輩の前でブロックさせられている。

 もしかしたら、俺の全SNSが監視されているのかもしれない。


 そんなことを考えていると、先輩からLINEが来た。


『もうすぐ着くよ! 一時間後に待ち合わせしよ!』


 待ち合わせ場所として書かれているのは大手町駅という、聞き慣れない駅名だった。

 今いるのは東京駅近くのホテルだから、なんとかそこまで移動しなければならない。


 うーむ、難しい。

 このホテルに来るのも結構大変だったんだけどなぁ。

 東京駅は冗談みたいに大きい。このホテルは丸の内口というところの近くにあるが、新幹線の乗り場からはかなり遠かった。迷い続けて、結局三十分もかかった。


 まあ、最悪タクシーでも拾ってお願いすればいいか。

 慣れない東京だし、今から出れば余裕を持って大手町駅まで行けるはずだ。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇


 待ち合わせ時間の一時間前に出発したにも関わらず、大手町駅に着いたのは二十分遅れだった。


 結局、電車を二回乗り換えて、ようやく到着した。

 東京の地下鉄網はなかなか難しいな……。

 改札前で手を振ってくれている先輩に、慌てて駆け寄る。


「先輩、お待たせしました。ちょっと乗り換えに苦戦しちゃって」


「乗り換え……? まぁ、いいや。とりあえず行こっか!」


 先輩はなぜか少し怪訝そうな顔をしていたが、怒ってはいない様子だ。

 二十分待たせても怒らないなんて、人格者だなぁ。

 LINEで『迷ってます』と送り続けてたから状況を把握している、というのもあると思うけど。


 しばらく地下鉄に揺られると、由梨さんが住んでいる最寄駅に着いたらしい。

 地上に上がると、どデカい東京スカイツリーが見えた。

 川で視界が開けているので、かなり鮮明に見える。


「スカイツリーが、めちゃくちゃ近いですね」


「そう、由梨ちゃんはやたらいい場所に住んでるのよ」


 そう言いながら近くのタワマンに入っていく。

 先輩は一階にいるコンシェルジュと少し話した後に、エレベーターに乗り込んだ。

 はへー、豪華なタワマンだなぁ。


 部屋の一つをノックすると、ドアが開いて、由梨さんが顔を出した。


「あ、日野くん。お久しぶり。ずっと会いたかったよ!」


 両手を広げて俺に近づいてくる由梨さん。

 俺が固まった瞬間、素早く先輩が割って入ったので、俺は固まったまま、従姉妹同士のハグを眺めるしかなかった。

 先輩は少し怒っているようだ。


「ヒノくんに接近禁止って言ったでしょ!」


「えー、それじゃ治療できないじゃん」


 二人が仲良さそうでなにより。

 それぞれの顔のパーツはそこまで似てないんだけど、雰囲気はそっくりなんだよな。

 実は結構仲がいいらしい。たまに寝る前に電話で喋っているのを見かける。


 早速、由梨さんに施術着へ着替えてもらって、腕と肩まわりを中心に見ていく。


「うーん、まぁいい感じじゃないですかね」

 

 前に比べると全然マシだ。というか、前は普通に重度の腱鞘炎の炎症が起きていたからな。

 あれで演奏してたのは普通に意味が分からなかった。

 バイオリンなんて何十人もいるんだから、一人くらい休んでも問題ないと思うんだけど。


「あ、本当? たまに日野くんオススメの整骨院に行ってるんだよ」


 俺の親戚が総院長をやってる東京の整骨院を紹介しておいた。

 彼は手技はかなり上手いし、鍼も俺ほどではないが上手い。

 院長本人が担当になるよう、話を通しておいた。


 ちょっと肩凝りがあるくらいで、別に問題はない。

 院長がちゃんとケアしてくれているんだろうな。


 腱鞘炎は完全に治っているようだ。

 だけど、重いバイオリンを常に肩に当てているからか、左肩だけ凝っているな。


「左肩の張りだけ残ってるので、刺していきますね」


 数本刺して終わりだ。

 前の酷い状態を知ってるだけに、かなり安心した。


 由梨さんは施術着のまま、ベッドから起き上がってこっちを向いてきた。

 施術着が少しはだけていて、思ったより肌が見える。

 先輩が慌てて掛け布団を巻きつけて由梨さんの体を隠した。


「そういや、日野くんは明日は剣道の大会あるんだよね」


「はい、日本武道館でやる予定です」


「明日は練習があるから応援に行けないけど、頑張ってね!」


 先輩に巻きつけられた布団を剥がし、施術着のまま俺に近づいてくる由梨さん。

 それを防ごうと飛びついた先輩。


 ベッドの上で揉めている二人から目を逸らし、俺はタワマンの窓の外に広がる大都会の景色を、黙って眺めていた。

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