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服の下を透視する能力を得たら、あなたは何をしますか?  作者: メモ帳パンダ
過去との対峙

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第78話 キャンプ

 プロ野球のクライマックスシリーズが今日で終わり、俺はようやく解放された。

 ウチの球団は早川選手の終盤の活躍もあって、今年はなんとか3位に滑り込めた。

 いや、この崩壊ローテで、なぜ3位に残れたのか正直よく分からない。

 打撃が強いチームでもないのに。ほんと謎だ。


 残念ながらファイナルステージで、ウチの球団は負けてしまった。

 ……俺にとっては、負けてよかったのかもしれない。これ以上続いたら、俺の体がもたない。


「あぁ、この二ヶ月くらいは本当にしんどかった」


「ニャン!」


 俺の鳩尾あたりで跳ね回る、迷惑な遊びをしている愛猫ファシアちゃんも同意してくれた。


 ファイナルステージもいいところまで行ったんだけど、裏ローテの先発が打たれて、そのまま押し切られた。

 ローテの投手の差が酷すぎる。


 それだけに、一軍復帰後に鬼神のように働き始めた早川選手は球団上層部にとって本当にありがたかったんだろう。

 上層部の期待は、そのまま俺の激務にもつながった。

 彼と俺は、運命共同体みたいなもんだからな。

 一回5万円で受けていた球団への出張オプションを鬼みたいに使われ、早川選手のケアを続けた。


 契約だから仕方なく出動していたけど、最初の契約に回数の上限を書いておけばよかったな。

 北海道、千葉、福岡……遠征先まで追いかけ回した。

 出張のたびに毎回何十万円というボーナスをくれるから、今シーズンだけで結局800万くらいの報酬が入ってしまった。


 とにかく球団が負けたおかげで、俺は週三の治療から解放されたわけだ。

 日本シリーズまで行くことになったら11月の頭にある剣道の全国大会までマトモに稽古できないところだった。


 とにかく今日この瞬間、俺は激務から解放された。

 俺はファシアを抱き上げて、顔の前まで持ち上げた。


 今日の敗北で、俺はようやく胸の奥に溜めていた欲望を口にした。


「ようやくキャンプに行けるね!ファシアちゃん!」


「ニャッ♪」


 同意してくれている可愛い愛猫の顔に、キスをする。

 そう、キャンプ。ずっと行きたかった。

 キャンプにぴったりな、オフロードっぽいバイクを買ったし、用具も揃えていたのに忙しすぎてキャンプに行けなかった。


「どうしたの、ヒノくん」


 俺の声を聞きつけて、少し離れた場所で本を読んでいた綾辻先輩が近くに寄ってきた。

 先輩が俺の額に手を当ててくる。

 チームの敗退が決まった瞬間に大喜びしている俺を見て、忙しさのあまり錯乱していると思われたらしい。


「先輩、キャンプ。この土日、行きましょう」


 俺の突然の提案に目をパチパチさせる先輩。


「えぇ……。確かに今週末は日本シリーズのために予定は空けてあるけど……」


 そう言いながら先輩がスマホをいじりはじめる。

 すると、俺のスマホ予定表にあった『日本シリーズ(仮押さえ)』という予定が消えた。

 どういう仕組みで俺のスマホをいじってるのかはよく分からない。ハッキングだろうか。

 最近はスケジュール管理してくれているので楽でいいなと思ってる。


 先輩は自分のスマホのカレンダーを眺めながら、俺に言う。


「剣道の全国大会が終わってからじゃダメなの?」


「もう冬になってしまいますからね。今週末なら、まだそこまで寒くない予報ですよ」


 実を言うと、俺は全国大会にあまり力を入れていなかった。入れられてなかった、っていうのが正しいのかもしれない。


「それに、今回の大会は偵察みたいなもんですし」


 丹下くんにたまに付き合ってもらってるから大学生って括りが外れた瞬間、通用しなくなるのが分かってる。

 大阪府大会だって三つある出場枠の最後にギリギリ滑り込めただけだしな。

 まぁ、所詮俺は不意打ち専門だ。


 最近は練習が全然できなかったし、今さら二日だけ稽古しても、って感じだ。

 そんなふうに自己正当化を済ませた俺はキャンプ場を探し始めた。


 実を言うとキャンプ道具は完全に揃えてある。

 犬飼コーチのせいで、使う機会がなかっただけ。


「じゃあ、キャンプ場探しときますね!」


「ヒノくんが行きたいなら、付き合うけど……」


 そこまで乗り気ではない様子の先輩。

 その様子を横目に俺はウキウキと準備に取りかかった。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇


 強風吹き荒れる明石海峡大橋。

 車体の大きい俺のバイクは横からの風に少し弱い。

 身を屈めて風をいなす。


 この橋を渡った先が俺たちの目的地だ。

 淡路島。古来からの兵庫県の領土だ。

 俺はバイクで、先輩と愛猫のファシアちゃんは車で別々に来ていた。


「先輩、キャンプ場はここの脇道に入ったところです。ついてきてくださいね!」


『はーい。あ、信号が赤になったから、先行っといてね』


 ヘルメットにつけたインカムから聞こえる先輩の声。

 俺たちはハンズフリー通話しながら移動を楽しんでいた。

 俺がどうしてもバイクで行きたかったから仕方がない。


 川沿いのオートキャンプ場は秋のハイシーズンで賑わっている。

 そのキャンプ場の一角へ俺はバイクを停車した。

 あとから黄色い軽自動車が追いついてくる。


 先輩が『見た目が可愛い』って理由だけで買った黄色い軽は、恐ろしくキャンプ場で浮きまくってる。


「へぇー、キャンプ場って結構人が多いのね」


「淡路島はまだ暖かいからキャンプ難民が集まってるんじゃないですかね」


 関西では割と標高の高いところにキャンプ場があることが多い。

 比較的暖かい海沿いで張れるから、みんな集まってるんだと思う。

 軽自動車からはハーネスを付けられたファシアが降りてきた。

 真っ先に俺のところへ来て、顔を舐めてくれる。

 かわいい。


「ふぅ、やっぱのんびりするのがいいよなぁ」


「ニャッ!」


 俺は先輩の車に積んできた大きなテントを、数十分かけて組み立てた。


 現場監督のファシアちゃんはテントの仕上がりが気に入らないらしい。

 地面に敷いたグランドシートの上に座り込んだり、ペグを抜こうと奮闘したり、俺の作業に付き合ってくれている。

 ファシアちゃんの手伝い(?)のおかげで初めてのテントを建てることができた。


 先輩は火を使って料理をしているので、ファシアちゃんは近づけない。

 なので俺は愛猫を独占できる。

 テントの中で、俺だけのイチャイチャタイムだ。

 今はマッサージをしてやっている。


「ファシアちゃん、気持ちいい?」


「ニャッ!」


 愛猫は気持ちよさそうに喉をゴロゴロさせている。


 そんなとき、外から大きな物音と、荒い声が聞こえた。


 ドンッ。


 鈍い音だ。

 なんだろう。誰かが車で木にでもぶつけたんじゃないか。

 俺も手が空いてれば駆けつけたんだけどな……。

 今は猫を撫でるので忙しい。


 しばらくそのままでいると、急にテントの入口が開いた。

 テントの入口から光が差し込んできて、眩しい。


「大変、ヒノくん。隣のテントの男の子が転んじゃったみたい。診てあげてくれない?」


 先輩は片手に包帯を持ってる。

 ということは応急処置はしてくれたんだろう。

 彼女は車に救急箱を常備してるからな。


 先輩は俺より医学の知識がある。

 その上で診ろってのは、俺の能力を使ったほうがいい場面、ってことか。


 ファシアを預けて、俺はテントの外へ向かった。

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