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服の下を透視する能力を得たら、あなたは何をしますか?  作者: メモ帳パンダ
過去との対峙

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第71話 HMD男爆誕

 真顔の綾辻先輩は、ちょっと怖い。見慣れていないのもあるし、整った顔立ちが余計にそれを強める。

 そんな俺の考えが伝わったのか、少し黙っていると、先輩は人が変わったみたいに、いつも通りニコニコし始めた。

 だが俺には分かる。これは演技だ。


 とりあえず、軽く嘘をついた。


「え、あ……いや、その……足の色の違い、ですかね!」


「へぇ、私には全然分からなかったなぁ!」


 まあ、色なんてほとんど同じだったからな。

 我ながら、かなり無理のある説明だと思った。


「まあ、詳しいことは家で聞くね」


 家に帰るまでの間、俺はずっと言い訳を考えていた。

 でもそのうち、隠さなくていいんじゃないか、という気もしてきた。

 信じてもらえないと思って、この目のことは今まで誰にも話してこなかった。

 

 最初に閉鎖病棟へ入院したとき、先生や看護師にだけは打ち明けた。だが、誰にも信じてもらえなかった。

 その経験が、今も俺の足を引っ張っている。


 信じてくれないかもしれない。

 けど、先輩なら信用してもいいんじゃないかと思った。


「ただいまー」


「ニャッ!」


 家に帰ると、玄関でファシアちゃんが大歓迎してくれた。

 愛猫を抱き上げ、リビングのソファに腰を下ろした。


「信じてもらえないかもしれないんですけど……」


 そう前置きして、先輩に話し始めた。


「俺は普段から、筋肉や血管が見えてる世界で生きてるんですよ。」


「……?」


 先輩は首を傾げた。まあ、そうだろうな。

 突然言われても、意味が分からないだろう。


 俺は、見えている世界をできるだけ丁寧に説明することにした。

 数分かけて、膝の上のファシアちゃんを題材に説明した。筋肉の位置、皮下組織、血管。全部見える、ということ。


「まあ、人体模型が歩いてるみたいなもんです。信じてもらえるかは分からないですけど」


 俺はファシアちゃんのお尻を少し強めに揉みながら、ぽつりと呟いた。

 綾辻先輩は俺の正面に回り、肩にそっと手を置いた。


「信じるよ。だってヒノくんの観察眼、そうでもないと説明できないもん」


 先輩はそう言って、笑いかけてきた。


「それに、嘘ついてるようにも見えないしね」


 やっぱ、この人は良い人だなぁ。


「実は、先輩と出会った頃は能力が制御できなくて、人の顔が全然分からなかったんですよ」


「それでだったのね。ヒノくんが人の顔を覚えられないの、剣道部はみんな知ってたよ。」


「えっ、そうなんですか……」


 話を聞いてみると、『日野は人の顔を全然覚えられないから、自分から話しかけろ』ってルールが、クラスや剣道部にあったらしい。

 へぇ、知らなかった。


「実は、能力を制御できるようになったのはファシアちゃんのおかげなんですよ」


「へー、そうなの?」


 専門学校に進んで、ファシアを飼い始めた。

 毎朝、目の前に来て起こしてくれる。

 能力発現以降、初めての共同生活だった。


 寝起きにファシアを見ると、日によって見える深度が微妙に違うことに気づいた。

 それから数ヶ月、ファシア相手にマッサージしながら練習して、ようやく制御できるようになった。

 初めて、愛猫の艶やかな灰色の毛並みをちゃんと見られたときは感動した。

 写真で外見は知ってたけど……それでも感動した。


「だから、ファシアちゃんは俺の恩人……いや、恩猫なんです」


「そうなんだねぇ。高校の頃は大変な生活を送ってたんだ。言ってくれたらよかったのに」


「うーん。当時は今より人間不信でしたからね……」


 話しているうちに、膝の上でファシアがぐずり始めた。


「ニャ……」


 そろそろ、おやつの時間みたいだ。


「じゃあ、僕はファシアちゃんにおやつ、あげてきますね」


「はーい、いってらっしゃい」


 いやぁ、一時はどうなるかと思ったけど、結果的に老婦人も助けられたし、俺の秘密も共有できた。悪くない一日だった。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇


 部屋でファシアとプロレスごっこをしていると、先輩が呼びに来た。


「ヒノくん、晩ごはんできたよ〜」


 ん。笑顔が少しぎこちない。何か引っかかってる顔だ。


「今日はヒノくんが好きなハンバーグだよ!」


 声はいつも通りなのに、表情だけ固いのが気になる。

 食べ終わって少し落ち着いた頃、先輩が切り出した。


「そういえばさ、透視能力ってことは、街を歩いてても女の子の裸とか見えたりするの?」


「そんなことはないですよ! この能力、あんまり調整できないんです」


 嘘だけど。

 本当は、調整できるようになってからは、やろうと思えばできる。

 いや、やるメリットを一つも感じないから、やったことはないけどね。


 俺の『スマートな返事』を聞いた瞬間、先輩の目つきが変わった。


「へぇ、そうなんだ。じゃあこれから外にいるときは、ヒノくんの目線にずっと注意しないとね」


 どうやら、一瞬で嘘がバレたらしい。

 先輩いわく、俺は嘘をつくときに分かりやすい癖があるらしい。


 『メガネは?』『サングラスは?』『鏡越しは?』と追及されて、少し面倒だった。

 ちなみに、どれもなぜか発動する。俺の目の力は謎だ。


 スマホのカメラ越しだと問題ない、と話したら、最後には『外ではカメラ付きのヘッドマウントディスプレイを付けたら?』とまで言い出した。

 そんな生活は嫌だ……完全に不審者じゃないか。

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