表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
服の下を透視する能力を得たら、あなたは何をしますか?  作者: メモ帳パンダ
過去との対峙

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

69/91

第69話 時の人

 大学生の剣道大会で優勝してから、俺は鳴り止まない携帯電話に頭を悩ませていた。

 高校時代、専門学校時代、大学の知り合い全員からLINEが来ているんじゃないか。そう思うほど、未読はとんでもないことになっている。


「返信が追いつかない……」


「ニャン……」


 頭を擦り付けてくる回数が増えたファシアちゃん。

 俺がトイレに行くのにもついてくる。部屋の外に出ようとすると鳴き叫ぶ。

 一日家を空けただけなのに、すごい執着ぶりだ。


 ファシアちゃんの情緒不安定は解決しないといけない。だが今、頭が痛いのはテレビだ。

 今は関西ローカルのワイドショーが流れている。


『なんと、医学生が優勝!? 史上初の快挙に関係者から驚きの声』


 剣道の大会がニュースになることは、まずない。


 だが、医学部の学生が優勝した史上初の出来事だ。

 しかも、大阪の大学生。

 そのニュース性はあまりに大きい。


 大学前は、暇な記者で溢れているらしい。

 学生課からは『公欠にするから、今日は来ないで』という電話がかかってきた。


 テレビの中では、笑顔の俺がどでかく映っている。

 北摂医科大という名前が、何度も連呼される。


『医学生が全国大会に出場するのも初めてなのに、優勝するなんて素晴らしい快挙ですね』


 なぜか、その辺を歩いている大学病院の患者に声をかけてインタビューしている。

 本当に、訳がわからない。


『この子はカッコいいですからさぞかしモテるでしょうね』

『高槻市民の誇りですね!』

『こんなお医者さんに診てもらいたいです』


 画面に剣道部の主将の日下部先輩の顔が映った。

 俺の普段の練習態度について、褒め殺してくれている。

 あんた、最近は病院実習が忙しすぎて、練習に全然来てねぇだろ。


 これが、俺のLINEが鳴り止まない理由だ。

 まあ、それだけならいい。時間をかければ返信はなんとかなる。


 一番頭が痛いのは、横の綾辻先輩の視線だ。


「……(ジー)」


 無言で俺に圧をかけ続けている。

 きっかけは、俺の親戚である鍼灸院の院長からの連絡だった。両親が至急連絡したい、という話が来たらしい。


 信じて送り出した息子がいつの間にか医学生になってる、剣道の大会で優勝している。

 ワイドショーのネタになっている。

 両親はびっくりだろう。そりゃそうだ。


 院長の声はかなり真剣だった。


『どうしても会いたいといってるんだけど、連絡先教えていいか?』


 それを断っているところを、先輩に聞かれてしまった。

 両親の連絡先を知らないから、同棲している旨を伝える挨拶ができない。

 そう繰り返してきた嘘がバレた、ということだ。


 先輩の無言の視線が痛い。


「……(ジー)」


 なぜかファシアまで、無言で俺を見上げてくる。

 振動し続ける携帯電話。テレビに映る、満面の笑顔の俺。


「こんなはずじゃなかったのに……」


 俺はガックリと肩を落とした。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇


 中之島を歩く俺と先輩。俺はマスクで顔を隠している。

 横にいる先輩はずっと上機嫌だ。


「ヒノくんのご両親にようやく挨拶できるの嬉しいな!」


「はい……」


 朝からその話を十回ほど聞かされた気がする。

 そう、俺は先輩の無言の圧力に負けて両親との面談をセッティングしてしまったのだ。

 七年ぶりの顔合わせだ。しかも恋人を連れての挨拶だ。


 先輩は少し伝統的な考え方をしているところがある。

 結婚は両親の許可のもとでするもの、って感じだ。

 結婚に一歩近づいたのが嬉しいのだろう。

 ちなみに告白やプロポーズは男からするものだと強く確信しているらしい。


 俺も実は言ってないけど心は決めている。

 ただまだ付き合い始めて一年くらいだし、学生結婚ってのがちょっと外聞が良くないなぁと思ってるだけだ。

 というか、スピード感が激しすぎないだろうか。


「どんな服を着て行こうかなぁ、ねぇ! お土産は何がいいと思う?」


 訪問するのは二週間後なので、そこまで具体的に詰める必要はないのだけど、先輩は遠足前の子供のような状態だ。


「今川焼きでも買って行ったらどうですか? 姫路では聞いたことがなかった和菓子ですし」


 俺たちはJR大阪駅から南に向かっている。

 今日は中之島にクラシックのコンサートを聴きに来た。

 大手新聞社の本社の下にでかいホールが併設されてるんだな。


 あれから一週間、テレビは飽きっぽいもので俺の話題は全くなくなった。

 だけど、大学には裏口から入るほどの状態が続いている。

 そんな状態で、遊びに来てる場合じゃないのは分かってる。

 ただ、チケットを結構前に買ってしまっていたんだな。


 今日は先輩の好きなピアニストが来日しているらしい。

 前のコンサートが気に入ったことを先輩に伝えると次のデート先として提案されたのだ。

 聞いた事がないピアニストだったが、俺はクラシックに理解のある文化人だ。即座に了承した。

 このコンサートはかなりの競争倍率だったらしい。

 なんか先輩がツテを使って取ってきてくれた。


「ショパン国際ピアノコンクールで優勝したときからファンなんだよね! 大阪に来るって聞いてずっと楽しみにしてたの」


 ショパンというのは聞いたことがある気がする。

 俺は合わせるように頷いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ