表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
服の下を透視する能力を得たら、あなたは何をしますか?  作者: メモ帳パンダ
右肩に棲むもの

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

58/68

第58話 幸せ

 深夜、すでに日が変わった後、俺はこっそり鍵を開け、音を立てずに玄関のドアを開いた。

 今日は丹下(たんげ)くんとの久々の再会で盛り上がってしまい、二軒目、三軒目まで楽しんでしまったのだ。


 綾辻先輩には9時には帰ると言っていたので、かなり気まずい。

 三軒目の後にスマホを見ると、不在着信が五件も入っていた。

 このままだと、怒られるのは確定だ。


 ゆっくり足音を消したまま、俺の部屋の前にまでたどり着く。

 ここまで来れば大丈夫だ。そう思ってドアを開け、電気をつけた。


「あっ、やべ……」


 キャットタワーから大きな音を立てて飛び降りてきた。愛猫のファシアちゃんだ。


「ニャッ!ニャッ!ニャーン!ニャ!」


 大興奮した様子で、俺の足元にまとわりついてくる。

 俺の帰宅に大喜びだ。

 可愛い声で遠吠えみたいに鳴くのは、この子が本気で喜んでる時だ。

 俺の帰宅を喜んでくれるのは嬉しい。けど、タイミングが悪い。


「ちょっとファシアちゃん、しずかにできるかな?」


「ニャッ!ニャッ!」


 止まる様子はない。

 お尻をポンポンして、マッサージして、撫でまくって――ようやく落ち着いてきた。


「ニャン!」


 ファシアちゃんは小さく鳴いた後、俺の腕をペロペロ舐めてる。

 夕方、家を出る前にいっぱい遊んであげたのに、数年ぶりに会ったみたいに大喜びするファシアが、たまらなく愛おしい。


「いやぁ、なんとかバレずに済んだかな。よし、セーフ……」


 ファシアちゃんをマッサージしながら、ホッと息を吐く俺。

 そんな俺に後ろから声がかかった。

 俺はびくりとして、体が大きく震えてしまう。


「それは良かったね!お帰り、ヒノくん!」


 ドアを開けてニコニコしている先輩。

 いつの間に……武道の達人である俺が、全く気づかないだと……。


「あっ……、えっ……。すみません」


「もうっ、怒ってないから大丈夫だよ。心配したんだからね! 電話、折り返してね」


 本当に、この人は優しいなぁ。

「お茶入れてるから一緒に飲もう」と言われ、俺はリビングについていく。


「丹下くんはどうだったの? 楽しく飲めた?」


「はい、彼は警察官になっても全然変わらなかったです」


 なんか、もっと街中で見かけるようなキビキビした感じになってると思っていたが、前と変わらない飄々とした感じだった。


「丹下くんって一つ下の代だけど、凄い迫力だったよね。私は話しかけられなかったなぁ」


「顔は怖いかもしれないですけど、根はいい奴ですよ」


 実は彼は顔がかなり怖いらしい。

 まぁ、高校時代の俺からしたら同じ筋肉人間だし、何も思わなかったけども。


「ニャッ!」

 

 先輩の足にくっついていたファシアが俺の手の中にやってきた。

 再会を喜ぶかのように、ずっと腕に擦り付けてくる。

 そんなに寂しかったんだろうか。

 撫で撫でしながら、先輩に改めて謝る。


「すみません、スマホ全然見てなくて着信に気づかなかったんです」


 気づいた時には深夜でもう寝てるかと思って折り返さなかったのだ。


「いいよ、いいよ。気にしないでね、ヒノくんは絶対に浮気しないから心配してないし!」


 ホントかなぁ……。絶対、疑ってたと思うんだけど。

 先輩には何百個もいいところがある。でも、何個か欠点があることも知ってる。

 そのうちの一つが、嫉妬深いところだ。

 そういうところも可愛いんだけど。


 前のバイト先の美女の矢野さんと二人で飲んでたことがバレた時は結構ヤバかった……。

 いや、女の人と二人で飲みに行った俺が悪いんだけど。

 あの時に硬いリビングの床で正座させられた足がまだ痺れている気がする。


 あれ以来、飲み会中にビデオ通話をかけてきて参加者を確認しようとするのが困る。やめてほしい。

 ちなみにその様子を丹下くんは爆笑していた。「尻に敷かれてんなぁ……」だそうだ。


「そういや、なんでファシアは俺の部屋にいたんですか?」


「いや、この子、夜なのにヒノ君が帰ってきてないからずっとメソメソしててね」


 ずっと俺の部屋で帰りを待っていたようだ。

 愛らしい奴だなぁ。ほんとに。

 今は偉そうに俺の膝で仁王立ちしているが、可愛いところもあるもんだな。


 明日は久々の休みだ。徹底的に可愛がってやろう。

 撫で撫でしていると先輩が思い出したように言ってきた。


「そういや、関西大会優勝おめでとう!ごめんね、今回は観戦に行けなくて」


 医学科の五年生は忙しい。土曜日も病院は稼働しているため、実習が入ることも多いのだ。

 本当は来てくれる予定だったんだけど、仕方がない。

 学生といえども患者さん相手だ。


「いえいえ、気にしないでください、阪大と北摂医大の部員はたくさん応援してくれましたし!」


 俺たちは忙しい。学生とは思えないほどだ。

 でも、綾辻先輩、ファシア。

 家に帰れば幸せが待ってるから、我慢できる。

 

「ニャ……」


「あ、ファシアちゃんがオヤツを強請ってるみたいです。ちょっと取ってきますね」


「はーい」


 俺は幸せだなぁ。

 喜びを噛み締めながら、愛猫にチュールをあげた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ