その武器に何を思う〜ケバルライ・サビク3〜
ロージスさんが共存派を殺すために守護団を手引きしたんだと思いました。言葉足らずな返答は私を見てしまったから罪悪感を抱いたのだと。
中にいた守護団員が全てを知っているのは手引きしたものがいると言っていたことを思い出します。
ロージスさんは必死に自分ではないと否定しますが、信じられるわけがありません。
「他に誰がいるんすか! ロージスさんが来てからゾスマさんは計画を早めたし、ロージスさんが来る前は今のみんなと活動をしていた。全てロージスさんが来たからおかしくなったじゃないっすか!」
仲良く出来ていたと思っていたのに。
「ロージスさんが守護団のスパイなんて知っていたら誰も誘わなかったっす! 私と仲良くしていたのも情報を聞き出す為だったんすね……」
思いつく限りの罵詈雑言をぶつけました。ゾスマさんの理想に泥を塗るロージスさんのことが急に親の敵のごとく許せない存在に思えたからです。
ロージスさんは青い顔をしながら必死に否定しますが、どこまで自分で責任を取りたくないのだろうと白けてしまいます。
ロージスさんに裏切られたことで、逃げ場が無くなってしまった私は、すでに逃げることを諦めてしまいました。ゾスマさんに事実を伝えようにも、私は逃げ出すことができない。
プランシーと呼ばれた女性が私を追ってきた団員を中へと帰しましたが、程なくして偉そうな男とローレンスさんが倉庫の中から出てきました。
皆殺しにされていた共存派の中で一番偉いはずのローレンスさんが無傷で倉庫から出てきました。それも拘束されている様子はなく、共存派と仲睦まじげな様子で。
「お初にお目にかかる。ローレンス・カティア。守護団所属の団長付きだ」
ロージスさんが共存派に入るよりも遥か前、私が参加するよりも前からローレンスさんは共存派の中でスパイを行っていました。ロージスさんの存在が新しい風をもたらして破滅へと向かっていたのではなく、共存派という組織は始めから終わりが決まっていた組織だったとこの時に理解しました。
この事をゾスマさんが知っているかどうかが気がかりです。遅れているだけのゾスマさんが変なタイミングで来ないことを祈るばかり。彼が生きてさえいれば、共存派の思想は受け継がれていつか花開くことが来るでしょう。
その糧となるのなら私の命程度は微々たるものです。どうせこの場から逃げることが敵わないのなら、最後は共存派として潔く見ることにしましょう。
皆さんが何かの会話を終えた時、プランシーさんが抜剣をしながら私の元へと近づいてきました。すでに逃げる意思など何処かへ捨て去った私はゾスマさんの今後を祈って命を散らすだけです。
プランシーさんの剣が天高く振り上げられた時、私は自分がもうすぐ死ぬということを心で認識しました。
その瞬間です。
今まで、ゾスマさんを路地で見かけた瞬間から私の脳を覆っていたガラスが粉々に砕け散ったような感覚に陥りました。目の前を見ていた世界はゾスマさんを中心とした世界だったものが、一瞬にして変化し、プランシーさんの振り上げた剣が自分を殺すものだと正しく認識をします。
走馬灯のように記憶が思い起こされました。
「もしも共存派が国に目をつけられるようなことがあれば、アーティファクト自体が危険ということになります。共存を選ぶことが不利益になるからです。そして国王は人間、排他するのはアーティファクトか人間か。楽しみですね」
ゾスマが呟いていたこと。
気が付いてしまえば最初からおかしかったんです。私は共存派なんて言うものに興味を抱くような人間ではありませんでした。ゾスマの行動も不審な点が多かったにも関わらず、盲信していた私はそれすらも意味のある行動だと曲解した。
いまだだってそうです。ゾスマは始めからここで共存派が襲われることを知っていて来なかった。
ゾスマは始めから共存派と言うものを使って、アーティファクトを無くそうとしていたのかも知れません。思い返すと共にいるスブラちゃんと目を合わせては居なかったですし、初めて出会った時もスブラちゃんの顔には殴られた跡がありました。
ゾスマと目が合った瞬間、盲目的に進行していた感情は、自分が死ぬと理解した瞬間に霧散し、これまで自分のやっていた行動がどれほどおかしいことだったのか理解できました。
「(あ、私、ゾスマに洗脳されてたんだ)」
どうして共存派のメンバーが階級問わず同じようにゾスマを慕っていたのか。
どうしてゾズマの言葉が共存派を奮い立たせていたのか。
どうして共存派の人たちが死ぬ間際にゾスマへの恨み節を言っていたのか。
私は自分の番になって初めて気が付きました。
「(ゾスマに洗脳されて、ロージスさんの友人を殺すことに加担して、今は死ぬことになっている。私は一体何のために生まれて、何のために死ぬんすか? 神様……)」
死ぬと分かった時、最初に浮かんだ感情は死にたくないということでした。
全ては遅く、私の魔法を買ってくれていた両親の顔が浮かびました。今更になって、私は愛されていたことを何となくわかります。会えなくなるからこそ、実感してしまったのです。
最後の最後に後悔の感情を。
さようならを誰にも言えずに。
「案外現実っていうのは残酷みたいっす。……死にたくないなあ……。お母さん……お父さ」




