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その武器に何を思う ~愛の先にあったのは絶望の連鎖だった~  作者: 人鳥迂回


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燃えて紅、昂ぶれば炎


 真っ赤に燃えるような色をした一振りの剣。

 それが武器化したリーナだった。

 だが、今俺の手に握られているのは赤すらも飲み込んだ白磁のような色をした真っ白な剣。白銀の世界を思わせるほど色味の褪せた剣はリーナの姿だとは思えなかった。


「(ロージス、これ結構まずい。私の意思が効かないまま武器化しちゃってるから力の制御が――)」


「もう、何でもいいよ。あいつらがいるからみんな死ぬんだ。俺がやる」


 守護団は人を殺す事でしか解決へとみちびけない組織だった。アーティファクトが幸せに笑って過ごせる世界など、望むことすら罪となってしまう王国では俺の理想は叶えられない。


「理想は買いますが、それをしたら貴方は犯罪者。死刑になりますよ」


 うるさい声が後ろから聞こえる。ヘイルの凍てつく氷のような声は俺の耳へと届くが、そんな事は百も承知だった。シルキーも死んで、ケバルライも殺された。俺と関わった人間がどんどん死んでいく。


「ロージスくんのお友達は分かっていますね。私に剣を向ければそれだけで守護団への反逆と見なされて罪になります。国を守る組織に歯向かうということは国に対して歯向かうということ。擁護はできません」


 国のために動く組織は人のために動くことはない。


「しかし、ロージスくんのお友達を殺すように指示を出したのも私です。少しばかり罪悪感もないわけではありませんし、ロージスくんは私と剣を合わせたがっているように見える」


 目の前の男は心にもないことを言っていた。殺すように指示を出したことに罪悪感がある? それならば嬉々として人を殺したり、任務のあとに打ち上げを計画するはずなどない。

 国の命令という免罪符で人殺しをしている集団は人の心を失っている。


「お前は……人を殺すことをどう思ってんだ」


「出来るならば人を殺すようなことはしたくありません。ですが任務は任務。守護団の団長としてやるべき責務は全うしなければなりません。それが仕事ですから」


「事務的な感情でケバルライを殺させたのかよ」


 剣を握る力も強くなる。リーナが心に呼びかけてくるがもはや俺の心は震えない。

 激情に駆られているはずの心はグランドの言葉一つ一つが薪になり、温度を高めていく。冷静で有るべきだと脳では分かっていても、心がすべての出来事を怒りに変えてしまう。


「ロージスくんの友人を殺してしまったのは申し訳ないですが、国への反逆者集団の一人ですから仕方のないことです。ロージスくんも反逆者と手を切ることが出来て良かったではないですか。守護団として働く以上、反逆者との繋がりなどあってはならないものですからね」


 ――よかった? 何がよかったんだ。

 ケバルライが死んで関係性が無くなったことをグランドは良かったと言ったのか。


 そうか。


「ふざけんじゃねえよ……! この人殺し野郎が!」


 心に突き動かされるまま俺はその場から駆け出した。普段よりも重くなったリーナを両手で構え、グランドへと向かっていく。

 グランドは小さくため息を付きながら腰に拵えた剣へと手を伸ばた。


「ふむ、それでは団員の訓練といきましょうか」


 グランドの間合いに入った俺は剣を勢いよく振り上げて、グランドを殺す明確な意思を持ったまま振り下ろす。リーナの性質は切ったものを燃やす剣。絣さえすればそこから燃やし尽くすことができる。

 アーティファクトの情報を知っているグランドはリーナには一切触れることなく、身を翻して剣を避けた。


「報告にあった赤い剣とは別の白い剣。別の能力と見るべきなのでしょうが、本人があの状態では使いこなせているとは言えないでしょう」


 未だに剣を抜かないグランド。俺からの殺意を受け取っているにも関わらず、交戦をする意思がないようにも見える。


「(止まって、ロージス。あの人と戦っても勝てないよ)」


 勝てない戦いでも、今挑まなければケバルライの死が意味のないものになってしまう気がした。彼女が何のために生きて、何のために死んだのか分からなくなる。

 彼女が死ぬことを望んでいた人間など一人もいない。ただケバルライ個人としてではなく、共存派の一人として殺されたのだ。そこにケバルライという人間である必要はない。


 それを指揮したのは紛れもないグランドであり、戦わなければ己の意見すらも通すことができない。


「うるせえ! 俺は俺の意思を突き通すためにアイツと戦わなきゃいけねえんだ!」


「(意味のないことはやめよう。あの人と戦ってもロージスの未来が不利になるだけ。私たちはケバルライを助けることができなかった。それで終わりなの)」


「……リーナもケバルライが死んで仕方がないと思ってんのか?」


「(違うの。ちゃんと悲しいし、グランドに怒ってもいる。でもこの場で戦うのが違うことも分かってる。守護団との決別をするなら戦いじゃなくてもいい。正式に守護団を辞めるべき)」


 リーナの言わんとすることは理解できた。グランドと戦ったところで死んだケバルライは戻ってこない。首と身体が分かれてしまっては生きているかもしれないという可能性すらないのだ。

 グランドと剣を合わせても何も変わらない。それじゃ、どうして俺がグランドに剣を向けるのか。


 偏に、俺自身の不甲斐なさを見つめないためだった。


 そこから何度もグランドへと攻め立てるが、剣を鞘から抜かせることすらも出来ず、重い白磁の剣を振り回すことによる疲労感だけが俺の身体へと蓄積していった。


「攻め手が雑すぎます。ロージスくんの剣は攻めるものではなく守るものだと報告が来ていましたが、これほどまでに杜撰な攻めだとは思いませんでした」


「うるせえ」


「吠えることは簡単ですが、実力は見合っていませんね。アーティファクトを使ってシェラタンを殺した報告を受けた時には有望株かと思っていましたが見誤りましたかね」


 俺の剣戟をのらりくらりと交わしながら物思いに耽るグランド。意識が俺に向いていないにも関わらず、俺の剣はかすることもなかった。

 振り上げ、振り下ろし、横に薙ぎ。

 何をしても間合いを完璧に把握しているグランドには通用しない。詠唱を試みたが、リーナが協力してくれないためただ剣を振るうことしか出来なかった。段々と俺を見るグランドの目が失望へと変わっていくのを見ながら、息を切らしながら剣を振るった。



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