その武器に何を思う〜ケバルライ・サビク〜
その人に何を思う―ケバルライ・サビク―
私は何の変哲もない村の、何の変哲もない両親のもとに生まれた普通の子供でした。
ひとつだけ村のなかで違ったのは魔法が使えるということ。他にも魔法が使える大人は居たけど生活魔法程度で戦闘に使えるような魔力を持っている人は居ません。両親は魔法が使えないのに、私だけが使える。そのことに疑問を持ったことはありましたが、この世界ではよくあることです。
「神様の祝福だな」
「神様の祝福ね」
魔法を使えることは神様から授けられた祝福だと口々に言っていました。私は神様を見たことが無かったので、祝福と言われてもピンときません。大人たちがそういうのだからそうなのだろうと自分のなかで納得させます。
十四才になると村長から学園に向かうように指示されます。サンドラ王国にある国立学園。名前を聞いただけで自分には無縁だと思っていましたが、気がつけば当事者の私抜きで話は進み、出発の準備も整っていて断れる雰囲気ではありませんでした。
「魔法が使えたら使えたで、皆から仲間外れになるんだ」
村にいる時、いじめられることは一切ありませんでしたが『魔法を使える奴は違うな!』と期待を込めた眼差しで見られることが多かったのです。皆が出来ないことが出来れば魔法が使えるおかげだと、私を褒めているのに私の中にある魔法を褒めていることに両親でも気が付きませんでした。
旅立ってしまえば故郷への哀愁を覚えながらも、目的地であるサンドラ王国に期待が膨らんでいきました。
学園に入ってからは寮に入り、普通に生活をしていました。国立学園というのだからどれ程厳しいのかと思っていましたが、蓋を開けてみれば同年代の子供達が勉強しているだけ。
唯一違うのは魔法を使える人が多く、使えないものは剣術などの一芸に秀でているということ。
村で期待されていた私の魔法は、学園に入ってしまえば有象無象と同じ程度で特出することもありませんでした。
「ケバルライ・サビクっす」
普通のなかで埋もれていくことに焦りを覚えた私は、本来の性格を隠して元気一杯、天真爛漫な性格を演じることにしました。次第に庶民から学園に通っている人たちは私の事を友達と思ってくれたのか、話す人が多くなっていきました。
結局、魔法というものが無くても人と人との関わりは不変であることを知ります。
ある日のことでした。
学園に外出許可を取り、日用品を王都へ買い出しに行っている時。商店と商店の間にある小さな路地に一人の男性と小さな女の子がいるのを見つけました。女の子は座り込んでおり、男性は女の子を見下ろすようにして動きません。
周りの人は見えていないのか、はたまた見ないようにしているのか、誰も彼らに近寄ろうとはしませんでした。
私が路地を見つめ、民衆と同じように立ち去ろうとした時、仁王立ちしていた男性の顔が私の方へと向き、目が合ってしまいました。
その瞬間、私は感じてしまったのです。
「あの人を助けてあげなきゃ」
と。
*
彼らの元へと向かった私は座り込んでいる女の子に声をかけると、休憩をしていただけらしくすぐに立ち上がりました。何故この場所にいたのかを問うと、共存派という組織の活動中に疲れてしまったようでした。
「――といったように共存派はアーティファクトと民衆を繋げ、差別をなくすように動いているのです」
人間の特性ともいえる差別を無くそうと動いている男――ゾスマさんが段々と素晴らしい人物に思えてきました。神様を見たことがなかった私も、目の前で現実と戦う男こそが神の使いなのではないかと勘違いしてしまうほどに。
それから私は共存派に浸かっていきました。周りには貴族も庶民も関係なく、一つの思想のもと集まっており、魔法も差別も何もありませんでした。皆平等で同じ人間だと言うことが私に浸透していきます。
共存派で過ごして一ヶ月経った頃、幹部だというシェラタンさんに声を掛けられました。ゾスマさんからの紹介だったため、全面的に信用することにしました。
「貴方がケバルライさんですね?」
「は、はい。そうっす」
「そんなに緊張なさらないでください。緊張しないというのも無理な話だとは思いますが、過度な緊張は思考を鈍らせて判断を歪ませてしまいます。私は共存派の幹部ですからあなたの敵ではない。私が貴方に話しかけたのはお願いがあるからなのです」
「お願いっすか?」
「貴方の通う学園にロージス・グレンバードという男、そしてそのアーティファクトがいるでしょう?」
入学初日から話題になっていた人の名前だった。悪魔の子と噂されて皆から避けられている女の子とその契約者。生徒会長と戦って負け、生徒会長の管轄になったから皆が直接的な手を出さなくなった異端のもの。
私は悪魔の子と呼ばれるアーティファクトが怖かったけど、自ら関わらなければ何もないと思って接触することはなかった。
「いるっすね。関係性は何もないからよく知らないっすけど」
「その二人のことを調べてほしいんですよ。これは貴方にしか頼めません」
学園内にいる私だから頼まれたことだった。他にも学園に通っている共存派の生徒は居たけど、何故か白羽の矢が立ったのは私だけ。貴族にお願いをすることは難しいのは分かるが、平民でも私が選ばれた理由が分からない。
「私っすか? その、申し訳ないですけど諜報活動ができるような魔法もなければ技術もないっす」
「自分の評価を正しくできている貴方は素晴らしい。しかし、卑下することはありません。諜報活動と言うものではなく、私たち共存派が彼らをスカウトできるかどうか見極めてほしいのです。アーティファクトの特性や行動パターンなどを教えてくれればそれだけで良いのですよ」
それができたら苦労しない。私はロージス・グレンバードと関わったこともなければ顔も知らない。どうやって情報を得るのか分からず、シェラタンに断りを入れようとした。
「その、申し訳ないっすけど私には重い役割に思えるっす。他にもっと適材な人がいると思うっす」
「ゾスマさんから貴方がいいと推薦を貰っているんですがねえ」
ゾスマさんの名前が出た瞬間、私のなかでひとつの使命感が生まれてしまった。無理やり生まされた使命感は、ゾズマのお願いを断って活動の邪魔をしてはいけないというもの。
「それならばやるっす。ロージスさんとアーティファクトの情報を集めて伝えるだけでいいんすよね?」
気がつけば先ほどまでの葛藤を押しのけて、素直に了承の返事をしていました。




