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その武器に何を思う ~愛の先にあったのは絶望の連鎖だった~  作者: 人鳥迂回


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客席から見ていた


「どうしてもですか?」


 俺はグランドに対して頭を地面と平行になるように下げた。二度目の懇願もグランドには拒否される。

 グランドに反抗するつもりは一切ないが素直にケバルライを殺されるつもりもなかった。


「なあグランドさん」


 その時、グランドを呼ぶローレンスの声が聴こえた。俺は頭を上げてローレンスの顔を見ると、何かを思いついたのか厭らしい笑みを浮かべている。


「グランドさんが殺すのを良しとしないんだ。強行してグランドさんが処理をしたら遺恨が残るだろ? それならさ――ロージスくんにそこの子を殺させれば良いんじゃないか?」


 ローレンスの提案は俺にケバルライを殺させることだった。

 守ろうとしている相手を殺すなんていう馬鹿馬鹿しい提案を俺が受けるわけがない。目の前の大男に怒りがこみ上げる。

 グランドに対して攻撃することはできなくても、ローレンスとは関わりが薄く、リーナと共に戦闘になっても罪悪感は浮かばない。


「いえ、それは……」


「友人だって言ってただろ? 他の誰かに殺されるくらいなら自分の手で殺させたほうが良いんじゃないか?」


 俺はリーナに合図を送って近くに呼び寄せる。小走りで俺のもとに近寄ってきたリーナと手を合わせて、何時でも武器ができるようにローレンスのことを観察していた。

 背後にいるケバルライからの冷めた視線を感じながらも、自分の意志を突き通すためにケバルライを守るのだ。ケバルライが殺されるかもしれない未来を少しでも変えるために。


 グランドはケバルライを殺す選択を変えるつもりはないみたいだが、俺の目の前で殺すことには躊躇しているようだった。人間性の問題ではなく、今後守護団で働く俺のメンタルに響くと思っているからだろう。グランドは団員には優しく接しており、仕事に影響が出るからケバルライを俺の前で殺さない。


「それではロージスくんが可哀想ではないですか?」


「グランドさんが殺すほうが可哀想だろ。また友人を亡くすなんてさ」


「確か、前の友人は人知れず亡くなっていたんでしたか……。そう言われるとロージスくんの手でケリをつけたほうがいいかもしれませんね」


 二人の会話は確かに俺の耳はと届いていた。

 だが、俺の知らない事を二人が知っている様子で話し合っている。俺の友人が亡くなった? 俺には友人と呼べる存在はおらず、学園内にいるのはケバルライだけ。

 亡くなっている友人などおらず、会話の意味が分からなかった。


「待ってください。亡くなっている友人なんていませんよ」


 現状を打破することよりも、自分のことが気になってしまった。

 ケバルライの死が近付いていることで、俺の身近な人の死について敏感になってしまっているのだ。


「待って、ロージス。それは――」


 二人の会話を聞かせないように、リーナは武器化して俺の心に語りかけてくる。小さな炎が巻き上がって武器化したリーナだったが、その音のすき間を縫うようにグランドの声が俺の耳に届いた。


「ん? シルキー・ヒーレンはロージスくんの友人ではなかったのですか? 確か事件当日に宿屋で首を吊って亡くなっていたところを主人に見つかったと報告を受けていますが……」


 シルキー。

 シルキー?


「ソロンくんから伝えられていなかったのですか? プランシーも知っていたはずですが、ロージスくんに教えなかったのですね」


 待て、何を言っている。

 シルキーは遠いところに旅立っていったはず。

 遠いところに、出会うことはないって言い残して。


 遠いところ? 出会うことはない?


「あ、ああ……」


 俺は気付いてしまった。

 去りゆくシルキーの覚悟を決めた表情。今のケバルライと同じように自分が死ぬことを受け入れた顔。

 いつか時間が経って、許されなくてもいいから謝ろうとしていた相手。


 彼女は俺が手を伸ばしても届くことのない遠いところへ、既に行っていたのだ。


「あああああああああ!」


 俺は手に握ったリーナをその場に落として蹲る。

 俺に聞かせないように武器化したってことはリーナも知っていた。ヘイルだって恐らく知っていた。

 目の前にいるグランドも、ローレンスも、プランシーも。

 みんな、シルキーが既に死んでいることを知っていながら俺を見ていたんだ。


 俺だけがみんなと同じ舞台に立てず、一人孤独に客席から真実も知らずに眺めていたんだ。


「なんで、何で言わなかった!」


 俺は蹲ったまま、大声で叫び上げる。

 誰も俺には教えてくれなかった。その時じゃなくても伝えてくれるタイミングはあったはずだ。シルキーの死を知りながら、俺がシルキーのことを語る様子を見ていたのだ。

 俺はどんな風に映っていた。

 クリスだけじゃなく、シルキーすらも守りきれなかった俺のことをどう見ていたんだ。


「そんなのは簡単です」


 俺の叫び声に応えたのは、意外にもヘイルだった。


「ロージスくんは弱いでしょう? 本当のことを知ったら簡単に折れてしまいますから」


 ヘイルの一言によって、俺の心は完全に冷めきってしまった。


 強くありたいと願って修行した。

 強くなりたいと思って守護団に入った。

 リーナと共に生きていくために、ヘイルを殺さないために。

 救えなかったクリスの為に自分の甘い考えを見直して、いつかシルキーに謝る為に。


 結局いくら修行をして力をつけても、俺の心は弱いままだった。

 何が俺ができることを精一杯やる、だ。俺に出来ることなんて何一つ存在しない。


「ロージス、ごめん。伝えられなくて。伝えたらロージスがショックを受けると思って」


 いつの間にか人型に戻っていたリーナが俺を優しく抱きしめながら囁いた。

 やっぱりリーナもシルキーの件を俺に伝えたら耐えられないと思って黙っていたらしい。それが対等な関係なのか? 俺の精神状態を伺いながら、何を伝えるのか取捨選択する関係が、アーティファクトと契約者の正しい距離なのか?


「何で、その時に教えてくれなかったんだよ!」


「ですから、ロージスさんが耐えられないと思いまして」


「耐えられるわけねえだろ! 耐えられねえけど、この場で知ることはなかった!」



 どうして、この状況で知らなければならなかったのだ。リーナやヘイルという当事者からではなく、グランドという関係ない第三者の口から。

 甘えと分かっていても、彼女たちから伝えられたら慰めてもらい共に進むことができたかもしれない。


 今の俺が感じているのは孤独だけだった。

 助けようとしていたケバルライには敵視され、他の人たちは俺のことを弱くて守るべき対象としてしか見ていない。

 廻り廻って、全ての原因は俺が弱いことに起因していた。


「叫んだり後悔したりはあとで良いんだが、まずはそこの女の子殺さないと任務が終わらない。ロージスくん。その友人を君が殺すんだ」


 この状況で、一番関係のないローレンスが空気を読まずに発言した。



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