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その武器に何を思う ~愛の先にあったのは絶望の連鎖だった~  作者: 人鳥迂回


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幕間は訪れない


 震えたまま次の言葉を吐き出すことができないプランシー。普段の毅然とした態度からは想像ができない程、目線は揺れ動きケバルライを視界に収めない。


「私のことを殺すんすか? 殺さないんすか? 人殺し集団の一員で、さっきの人から敬われていたなら、お姉さんも私のことを殺すっすよね? 良いっすよ。好きに殺してもらっても」


 挑発的な笑みを浮かべながらケバルライはプランシーに詰め寄っていく。近付くケバルライの歩幅よりも、半歩小さい歩幅でプランシーは後ずさる。やがて、ケバルライとプランシーは向き合うように視線を交わし合った。

 

 二人の身長差はプランシーのほうがやや大きいが、そこまで変わらない。

 失うものが無くなったようにケバルライはプランシーの前に立つ。


「ねえ、ヘイル」


「何ですか? リーナさん」


「ケバルライってあんな性格だった? 自分に死が迫ってるときに、敢えて立ち向かえるような性格だったとは思えない」


「私も思えませんよ。死の恐怖によって意識に変化が訪れたんじゃないんですかね? 現にプランシーさんの前に立っていますし。私からしたら守護団でありながら、あの程度の雰囲気に押されているプランシーさんの立場が不思議でなりません」


 俺が出会った頃のケバルライは元気が取り柄のお人好しだった。だが目の前にいるケバルライは元気とは懸け離れた覚悟の決まった雰囲気を醸し出している。死の雰囲気が漂う場所に臆している俺とプランシーとは違い、ケバルライは立ち上がって対抗しているのだ。

 俺はまだ地面から立ち上がることすらもできていない。


「お姉さん――プランシーさんと呼びましょうか」


「は、はい」


「私をどうにかするとさっきは言ってたっすよね。もしかしてこの場から逃がしてくれるんすか?」


「いえ、守護団として貴方を逃がすわけにはいきません」


「なら私を捕らえるんすか? どうせ他の団員さんが来たら私は殺される。私が死ぬまでの時間を稼いで、死の恐怖を味合わせようとしているんすか?」


 ケバルライに逃げ出す意思はない。既に自分が死ぬ意思を固めており、この場で留まるつもりだった。プランシーがこの場でケバルライを処罰しないのなら、ケバルライが死ぬでの時間が長引くだけなのだ。

 グランドでなくとも、ほかの団員がこの場にすればケバルライは殺されてしまう。俺としてはケバルライに恨まれてでも生き延びてほしい。本人がそれを望まず、俺には人一人動かす力を持ち合わせていない。


「ロ、ロージスくん。彼女は貴方の友人でしょう? どうにか――」


「逃げるんすか? 倉庫の中にいた共存派は貴方の仲間に殺された。逃げる道もないままに殺されたっていうのに、貴方は逃げる選択肢を取る。ロージスさんもプランシーさんも薄汚い人間の屑じゃないっすか」


 ケバルライの語調が荒くなり、比例するようにプランシーの存在が小さくなっていく。

 プランシーの仕事は武力で制圧することではなく、守護団としてあり続けることだった。グランドが動きやすいように日程を調整したり、相手の情報を収集したりと雑用のようなことも熟していた。その理由は一重に人を殺さなくても守護団に居続けるため。

 田舎から夢を持って飛び出してきたプランシーは現実を知り、堅実に守護団へ入った。その地位を失わないために、守護団であり続けているのだ。


 そんなプランシーに突きつけられた人を殺す選択。

 未だに人を殺したことのないプランシーが、剣に手をかけることなどできず、弱々しい目を俺に向けている。

 俺もケバルライを切ることなど出来ない。殺される覚悟を決めた者と殺す覚悟が出来ていない者たちで膠着状態が続いていた。


 そのような時間が長く続く訳もなく、倉庫の中から二人の男が出てきた。


「おや? そちらは報告にあった倉庫から逃げ出した子ですか。プランシーとロージスくんでは処理できないでしょう」


 倉庫から出てきたのは剣先から血を滴らせ、鎧に返り血を浴びたグランド。そして――。


「ローレンス? グランドさんはローレンスを捕らえて出てきたのか?」


 俺のつぶやきはもう一人の大男の耳に届いていた。


「やあ、ロージス。話すのは始めてかな?」


 ゾスマと共にいた大男であるローレンスが初めて口を開いた。ゾスマといる時には口を開かず、ボディーガードのように振る舞っていたローレンスの声は低く、空気が震えるような重低音だった。


「ローレンス、あんた何で逃げ出せてんだ……。共存派はやられたってケバルライが……」


「お初にお目にかかる。ローレンス・カティア。守護団所属の団長付きだ」


「守護団所属? もしかして共存派の情報を流してたのって」


「俺だよ。どこでバレたのかゾスマは今日来なかったから殺せなかったが、団長からの指示で内部に入り込んでいたんだ。ロージスくんが守護団所属だって団長から聞かされていたから共存派に来た時には驚いたよ」


 ローレンスが共存派の情報を流したのなら、こいつが今日の殺戮を生み出した張本人じゃないか。守護団の任務として共存派に潜入し、団員たちが集まる集会の日時と場所を報告した。その結果、守護団が攻め込むことになった。


「ローレンスッ! あんたのせいで沢山の人が死んだんだぞっ!」


 俺が集会に参加する前から共存派として活動していたローレンスに情はなかったのか。スパイだとしても、ひとつの思想のもと活動する彼らに感じるものは無かったのか。少ない時を過ごした俺ですら彼らの考えに思うところがあったのだ。


「まあ、逆賊だからな。国が主導しているアーティファクトの保護を取りやめて自由にするなんて。国に逆らっているのと同義だろ」


 ローレンスは団長であるグランドの付き人。同じ思想で行動していてもおかしくなかった。


「お話は程々に。ローレンスも任務が終わったわけですし、そこにいる子を片付けたらいくらでも話してください」


 グランドは剣を手に持ちながらケバルライに近寄っていく。

 力強い眼差しでグランドを睨見つけるケバルライ。

 ローレンスが守護団員だったという衝撃で、余計な思考が俺の頭から抜け去り、後悔を飲み込んで身体が動くようになった。重い足取りだったが、グランドとケバルライの間に入り込む。


「ロージスくん……」


 未だに動けないプランシーが俺の名前を呟いた。


「もしかしてその子がロージスくんの友人ですか?」


「そうです」


「ふむ、困りましたね。出来るならロージスくんの見えないところで殺してあげたかったのですが……」


 グランドは俺のことを気遣っている。雰囲気から挑発しているようには見えず、本気で俺のいない所でケバルライを殺しておけばよかったと思っているのだ。

 守護団にとって共存派は敵であり、守るべき存在ではない。鬱陶しい虫を殺す程度の感覚で市民でも殺してしまうのだ。


「グランドさんと剣を構えるつもりはありません。お願いします。ケバルライを見逃してください」


「それは出来ません」



 

中では沢山死んでいます。

描写はしていませんが……

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