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その武器に何を思う ~愛の先にあったのは絶望の連鎖だった~  作者: 人鳥迂回


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演者

 守護団の隙間を縫って逃げ出してきたケバルライが入り口へ駆けていた。後ろには守護団の新米騎士が追ってきており、重い鎧もあってか身のこなしが軽いケバルライには追いつくことができない。


 俺の元まで駆け寄ると、ケバルライは俺を盾にして守護団員と向き直る。


「ロージス殿。そちらは貴殿の知り合いか?」


「あ、いや……そう、です」


「共存派に与する者ですのでこちらにお渡し頂けますか?」


 団員が構えている剣からは血が滴っており、中で何が行われていたのかを容易に想像させる。

 団員は俺の背に隠れるケバルライを睨見つけると俺に差し出せと言ってきた。背中から感じるケバルライの身体は震えており、必死の思いで逃げ出してきた先に俺がいたことで安心しているようだった。


「こいつは俺の友達なんだよ。何とか、見逃してくれないか? グランドさんにも黙っていてほしい」


「それはなりません。団長からの命令は殲滅ですのでそちらの逆賊も殺さなければ」


 団員はグランドの指示で行動しているため、共存派は皆殺しをするという一貫した目的があった。

 ケバルライは震えながら、俺に聞こえる声で小さく話しかけてくる。


「なんなんすか……。いきなり逆賊だって、国家転覆を図る犯罪者だって、みんな斬り殺されていたっす……。私達が何をしたっていうんすか……。今日に限ってゾスマさんは居ないし……」


 中で行われていた殺戮はすでに多数の被害を出している。十時からの集会だが、ゾスマはこの場にはおらず逃げ出しているのだろうか。組織のリーダーたるものが、計画を事前に察知して自分だけ逃げたことに怒りが湧いてくる。


「ロージス殿。そちらを差し出せば――」


 震えるケバルライを隠しながらこの場を切り抜ける方法を探っていた俺だったが、最終手段はリーナの力を使ってやり過ごすことだった。守護団員を傷つけるつもりは無いが、ケバルライを逃がすためなら多少の怪我を負ってもらうのも仕方がない。

 ゆっくりと後ろにいるリーナに手を伸ばして、触れ合おうかという時に、プランシーが立ち上がって俺と団員の間に移動した。


「この者は私がどうにかしますので貴方は持ち場に戻りなさい」


「プランシー殿? それでは私の立場が」


「私も守護団員です。私情を挟まず、仕事はします。貴方はこの子を追い込むという仕事をしました。あとは私に任せなさい」


 団長補佐のような役割を果たしているプランシーから命令されれば、団員は素早い足取りで倉庫の中に戻るしかない。団員が今の状況をグランドに報告してしまえば、残されている時間は殆どないのだ。


「なんなんすか? 何が起こってるんすか? なんでロージスさんは守護団の人と一緒に……?」


 様々なことが一気に起こって整理しきれないケバルライは俺の目を赤子のように見つめている。


「俺は守護団で訓練してんだよ」


「え」


 驚いたように目を丸くするケバルライ。


「中で一番偉そうな人が言ってたっす……。『守護団から共存派に入り込んでいる者のおかげで集会の場所も時間もすべて分かっている』って……。もしかして、ロージスさんが……」


 ケバルライの言う一番偉そうな人とはグランドのことだろう。中に入って守護団らしく声を張り上げた内容をケバルライは覚えていた。共存派の中にいる内通者の情報によって、自分たちが殺される運命になったと。

 そしてその内通者が俺だと勘違いしていた。


「違う、ケバルライ。俺じゃない」


「他に誰がいるんすか! ロージスさんが来てからゾスマさんは計画を早めたし、ロージスさんが来る前は今のみんなと活動をしていた。全てロージスさんが来たからおかしくなったじゃないっすか!」


 ケバルライのなかでひとつの筋道が通ってしまった。俺の存在がすべての引き金になっているという妄想。蚊帳の外にいたはずの俺が、いつの間にか主役として演じることになっていた。


「誘ったのはケバルライさんでは?」

 

「ロージスさんが守護団のスパイなんて知っていたら誰も誘わなかったっす! 私と仲良くしていたのも情報を聞き出す為だったんすね……」


 すでに熱せられた鉄のように憤っているケバルライにヘイルの正論は通じない。こちらが何を言っても今のケバルライは聞く耳を持ってはくれず、彼女が落ち着くのを俺たちは待つしかない。

 宥めるように、必死に彼女に優しく声をかけると


「違う。本当に違うんだ、ケバルライ。俺はお前たちを守ろうと……」


「守る? なら何でみんなが殺されている中、外でまってたんすか? みんなが殺されるのを……見もしないし助けないもしないで……」


 力のない平民が、力を持つ守護団に蹂躙される様を見ていたケバルライからすれば、何とかできる力を持っているのにこの場で蹲っていた俺のことがどのように見えているのか。

 守護団の一員として、共存派が殺されるのを自分ら関係ないと見守っている薄情者に見えているのだろう。


「そこまでして守護団っていう国の組織で、成り上がりたいんすか? 逆賊として私たちを報告すればいい評価貰えるっす! 最低な人間………」


「話を聞いてくれ。今は興奮して変に思い込んでるだけなんだよ」


「思い込んでる? 私の前で共存派の人は何人も殺されたっす。助かる見込みのある殺され方じゃなく、一目で死が分かる死に方。流石っす、ロージスさん。自分のせいで沢山の人が死んでるのに、勘違いで済ませて自分の罪じゃなくそうとするなんて」


 俺が必死に弁解をしても火に油を注ぐだけで、凝り固まったケバルライの考えをほぐすことはできない。

 俺のせいとケバルライは言うが、俺だって必死に止めようとしたんだ。ただそれでもグランドが止まらず、守護団入ってしまっただけ。――俺の罪じゃない。


「あはは。一番馬鹿なのは私かもしれないっすね。貴方を信じて共存派という組織に招き入れてしまったんすから。ロージスさんは自分とリーナさんの未来だけが大切で、アーティファクト全体の未来なんて考えてない。人間ともアーティファクトとも共存できない悪魔のような人っす」


「ケバルライは逃げないの?」


 すでにケバルライは俺の側から離れ、一人で立ち上がっていた。この場にいる全員が敵だと思っているのか、敵意を向けた眼差しをしている。学園で感じる忌避の目とは違う、殺意のこもった目。

 結果としてケバルライは倉庫の外に出ることができて、この場にいるのは俺とプランシーだけ。ケバルライにどう思われようとも逃がしてしまえば少しの目的は達成される。プランシーを俺が抑えている間に逃げてもらえれば、あとから弁解のしようがあるのだ。


 ダレンズが倉庫の中にいるのか、はたまた今日は参加していないのかは分からない。だが目の前にいるケバルライは逃げ出してきた。助ける理由は考える必要もない。


 逃げてもらうために、リーナが差し出した手をケバルライは振り払った。


「悪魔の子がなんか言ってるっすね。共存派は皆殺しなんでしょ? それなら逃げた所で殺されて終わりっす。そこにいるお姉さんも守護団ですし、私を殺すのを待っているんじゃないっすか?」


 態と俺達が一番嫌がる言い方をしてまで、ケバルライは気絶する。

 そして殺意の眼差しはその場にいるたった一人の守護団員、プランシーへと向けられた。人を殺すことのできない守護団員である彼女は、守護団の任務で調子を崩すほどの善人だった。守護団の空気に染まりきれないプランシーは、直接向けられる殺意には慣れていない。


「私は……」


 怯みながらも年長者として絞り出した声は、はっきりと震えが感じ取れるほど弱々しいものだった。


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