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その武器に何を思う ~愛の先にあったのは絶望の連鎖だった~  作者: 人鳥迂回


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拍手喝采

 俺は目の前の現実を受け入れられない。

 助けを求めるために、駆け出した俺を見守っているリーナへと目を向けた。グランドの言葉が聞こえていたのか、普段の無表情とは違い、唇を噛み締めている。


「そちらのアーティファクトを使って、力付くで私たちを止めますか?」


 俺が目を向けた先にいるのが、アーティファクトだと知っているグランドは俺に問いかける。正しさと信念を力によって突き通している守護団にとって、己の意志を伝えるのは力しかないとグランドは思っているのだ。

 反撃の意思など全くないことを分かった上で、俺が攻撃することを示唆したのだ。その言葉が俺の行動に釘を差した。


「その場合は守護団として罰を与えるだけで済めばいいですが。最悪の場合、国に反旗を翻したとしてロージスくんを殺さなければなりません」


 既に守護団は決められた道を歩み始めている。俺が何をしても、グランドの意思も守護団の行動も変化することはないだろう。俺にできることは何かを必死に考えても、何一つ思い浮かばない。

 この場で守護団に対して反旗を翻しても、共存派を守ることなどできるとは思えないし、守護団のやることをただ見ているだけでは共存派は全員殺されてしまう。


 昨日までの俺は何かに浮かれていたのだ。自分なら二つの組織に関わるものとして橋渡しができると。

 自惚れだった。

 今だって俺はグランドに何も言い返すことが出来ず、拳を固く握りしめて必死に考えているだけ。


「ロージス。抑えて」


 駆け寄ってきたリーナは、俺の手を握ってから囁く。暴力を振るうことを抑えろと言っている訳ではなく、感情のままに動くことを抑えろとリーナは言っていた。


「抑えられるわけねえだろ。このままいけばケバルライが、兄貴が……」


「だから言ったではありませんか。悪い予感がするって」


「黙ってろ!」


 リーナと共に俺の側へとやってきたヘイルは何時もの薄ら笑いを浮かべた表情ではなく、何の感情も伺えない無表情で俺の責任と問うてきた。悪い予感がするからといって立ち止まることもできなかったが、今更何を思いついても遅いのだ。


「やるんですか? やらないのですか? 今ならまだ不問にしますが……。私も団長として指揮を取らねばならず、暇ではないのです。既に十時を回っているため、早く突撃したいですから。団員には昼ご飯をご馳走することになっていて、店の予約もしているのでね」


 グランドは淡々と業務をこなそうとする。

 俺達が関わりのある人間に感じている感情も、グランドにとっては国から任された業務の一環でしかない。国の命令でやっているから免罪符もあり、彼らには人を殺す罪悪感など微塵も存在しないのだ。

 日頃行っている訓練のような気持ちのまま、共存派という組織を皆殺しにして、普段通りの日常に戻っていく。流れるような作業のなかに人殺しが含まれていた。


「ぐっ……。どうしても、ダメですか?」


「ダメですね。国からの命令なので。ロージスくんに参加させるつもりはありませんので、見学をしていてください。幸運なことにプランシーも人を殺す事はできませんのでこちらで待機となります。私たちの仕事を見たいのでしたら止めませんが、知人が殺されていく様を見たくはないでしょう?」


 グランドは中にいる俺の知り合いを逃すつもりはなかった。

 今日はケバルライが中に居ないでくれ。ダレンズも居ないでくれ。怪我でも病気でも何でもいいから、今日だけは……。


「ほら、プランシー。あなたの弟子がその調子です。見てあげなさい」


「……はい」


 膝から崩れ落ちて地面を見つめるしかない俺のそばに、地を歩く足音が聞こえた。どうしようもならない現実と、最悪の想像から冷や汗が止まらず、真下の地面にはぽつりぽつりと髪を滴った汗が跡を作り出している。


「ロージスくん……」


「さて、少し遅れてしまいましたが守護団の騎士たちよ! 今から共存派という逆賊のアジトへと攻め込みます! 私に続きなさい!」


 グランドの号令に雄たけびを上げる守護団員たち。地面を見ている俺とは反対に、腕を上げてグランドに付き従っていた。その号令を合図に守護団は倉庫の中に入っていった。


 俺の側で鎧の音を鳴らしながらしゃがみ込んだプランシーはグランドの号令に参加することはなく、俺の背を撫でながら名前を呼んでくる。


「ロージスくん。この場を離れましょう。ここにいては貴方の精神が持ちません」


 プランシーの声は優しく、そして俺に諦めを促すようにその場から立ち去ることを提案した。

 すでに倉庫からは守護団の大きな声が聞こえてくる。


「プランシー……。俺がここに来たのは間違いだったのか? お前の言うことを聞いて今日は来ないほうが良かったのかよ」


「……ここに来ることを決めたのは貴方でしょう」


「俺が来ても来なくても、何も変わらなかった。俺は自分の周りで傷つく人が居ないように強くなりたかったのに……。これじゃ何も変わらないし変えられねえ」


「これから、頑張っていきましょう」


「これからって何だよ! 倉庫の中に友達や兄貴がいたらおしまいなんだぞ! これからも何もねえ! この場が全てだろ!」


 意味もなくプランシーを怒鳴りつけてしまう。この場で怒声を浴びせても何も意味もない。普段なら俺を叱りつけるであろうプランシーも、今だけは俺の言葉に何も返さず、只管背を撫でるだけだった。

 口だけ達者で何もできない子ども一人を宥めて甘やかす。自分では何もできない非力な子どもということを思い知らされるようで不快だった。


「ねえ、ロージス。中から悲鳴が聞こえてきた」


 倉庫の中からは女の叫ぶ声が聞こえてきた。守護団は始めから共存派を捉えるつもりはなく、皆殺しにするつもりで倉庫に入っていった。女の悲鳴がなにに対して発せられたのか、外にいる俺たちからは分からないが碌でもないことは確定している。


「クソっ! 俺には何もできねえ……」


 立ち上がって守護団と剣を交える? 無理だ。俺にはそんな事ができない。この場で共存派の人たちが殺されていくのを黙って待ち、すべてが終わった時に誰が死んだかを知らされる? それも嫌だ。

 どちらを選んでも俺にとっては最悪の結果になり、逃げた所で過去となり襲いかかってくる。


「ふむ。ここが分岐点のようですね」


 ポツリとヘイルが言葉を漏らした。


「ロージスさん。よく聞いてください」


 ヘイルは乱暴に俺の髪を掴むと、上に持ち上げる。俺の顔は必然的に持ち上がり、ヘイルと顔を合わせることになった。


「中にいる人が死んでいく様を待つだけで良いのですか? 貴方が強くなりたいと言った理由は、簡単に諦めていいものなのですか? リーナさんと共に生きていくために、誰も傷つかない為に強くなりたいとロージスさんは言ったでしょう? それならば立ちなさい。立って歩かなければ、守りたい物は一生守れません」


「動いたって守れねえだろ……」


「先が違います。動いて守れないのと、動かずに守れなかったことを知ること。私とリーナさんが貴方と契約をしたことを後悔させないでください。クリスさんのように、手遅れになっても良いのですか?」


 シルキーのアーティファクトであるクリスは、俺達がシェラタンの元へ辿り着いたときには手遅れで、既に破壊されていた。今も倉庫の中は喧騒に包まれており、守護団が暴れているのだろう。

 ヘイルの言う事はわかる。何もしなければクリスのときと同じように誰かが死んで後悔するのだ。手遅れになる前に意地でも動けと彼女は言っている。


「でも――」


 俺が負け犬の言葉を発しようとしたとき。


「ロージスさんっ! 助けてくださいっす!」

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