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9. メディアミックス作戦

 イベント会場の広場は、告知の甲斐あって大勢のお客さんで賑わっている。

 

「イベントって、もしかしてアレのことですか?」


 エディが広場の一画を指差す。そこには、凝った装飾が施された人形劇の舞台が鎮座していた。劇場を模した立派なセットの上部に、今回の劇のタイトルが書かれている。


「題名は……『聖衛士と悪魔ダンタリオン』?」

「ええ、そうよ。大人も子供も楽しめる娯楽活劇をプロデュースしてみたの」


 これがプラン4『メディアミックス作戦』だ。

 聖衛士を主人公にした作品で、〈聖衛士〉という新たな名前を広めるとともに、その職務を理解し、感情移入してもらう。


 今までの悪いイメージを覆すための最後の一押しとなる重要な作戦だった。


「あ、今から始まるみたいよ!」


 広場にラッパの音が鳴り響き、人形劇の舞台の幕が開く。

 すると、エディが「あれ?」と怪訝な様子で呟いた。


「あの人形、なんとなく誰かに似ているような……」

「あら、そう?」


 ……と素知らぬ顔で返事をしたが、エディの勘は当たっている。


 なぜなら、あのキャラクターらクレイグさんがモデルだからだ。その名も聖衛士グレッグ。この物語の主人公で、シンシアさんをモデルにした妻シンディと平和な日常を送っている設定だ。


 ……でも、キャラクターモデルが両親だと知ったら物語に集中できなくなりそうなので、ひとまず今は黙っておく。


 幸い、エディはグレッグとシンディのモデルが自分の両親であると気づくことなく、人形劇を夢中で楽しんでいる。


『あの紋章は……まさか悪魔大公爵ダンタリオン!?』

『フハハハ、この娘の魂は吾輩が頂く!』

『シンディ! 今助ける!』

『馬鹿め、人間ごときが吾輩に敵うはず……』

『滅せよ! 聖剣技ディヴァイン・スラッシュ!!』

『ぐわあぁぁあ!!』

『グレッグ!』

『シンディ!』

『ありがとう……愛しているわ、グレッグ』

『シンディ、君は俺が一生守る』

〈fin〉


 抱きしめ合う二人のシーンで幕が閉じると、広場に大歓声が響いた。


「面白かったわね!」

「聖衛士、かっこいいー!!」

「オレも悪魔をやっつけるヒーローになりたい!」

「強いのに、花のお世話もできちゃうギャップにときめいたわ〜」


 老若男女の好意的な感想が飛び交い、狙いどおりとはいえ、思わず頬がゆるむ。


「僕もすっごく面白かったです! イライアスお兄ちゃん、僕も早く剣を習いたい!」

「まあ、あれを観たらそうなるだろうね。分かった、少しずつ練習を始めていこうか」

「やったあ! ありがとう、お兄ちゃん!」


 嬉しそうに飛び跳ねるエディの頭をポンポンと撫でたあと、イライアスさんが私のほうをじっと見つめた。


「コーデリア様は本当にすごいですね。人形劇でイメージアップを図るなんて、まったく予想外でした。しかも実際にここまで効果があるなんて」

「大勢が理解しやすい形で表現したり、感情に訴えたりする方法は非常に効果的なんです。でも、これも前段階のプランをイライアスさんたちがしっかりこなしてくださったおかげです。ありがとうございます」

「いえ、お礼を言うのは私たちですよ。家族全員、コーデリア様には心から感謝しています」


 イライアスさんの真剣な言葉に、私の胸が熱くなる。

 一生懸命に考えたプランが上手くいったときも嬉しいけれど、こうしてクライアントから感謝を伝えられたときは舞い上がりそうになるくらい、体中が喜びでいっぱいになる。


「皆さんにご満足いただけて何よりです。人形劇のほうは、これから二週間にわたって公演する予定なので、引き続き宣伝に努めてまいりますね」

「ありがとうございます。では、|我が家のグレッグとシンディ《・・・・・・・・・・・・・》にも観に来るよう伝えておきますね」

「あっ……」


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