6. プロジェクト開始
一週間後、私は二人の同行者を引き連れて、再びエディの家を訪れた。今回はエディとイライアスさんの他に、彼らのご両親も揃っていた。
「よ、ようこそ我が家へ」
エディのお父様であるクレイグ・ハーシェルさんが緊張した面持ちで私たちを出迎える。
「先日は多大なるご厚情をいただき、誠にありがとうございました。家族一同、コーデリア様には大変感謝しておりまして……」
「クレイグさんったら、お礼は手紙でも十分していただきましたからもう結構ですよ。それに、あまり堅苦しいのは苦手なので、気楽に接していただけると嬉しいです」
「か、かしこまり……いえ、分かりました」
戸惑いながらも、さっそく言われたとおりに改めてくれている。そんな柔軟性のあるクレイグさんを私はまじまじと見つめた。
「……さすが、エディとイライアスさんのお父様ですね」
「はい?」
「原石をもうひとつ見つけたということです。……マリア、ベル、追加でクレイグさんもお願いするわ」
「かしこまりました、コーデリア様」
マリアとベルが仕事人の目つきに変わる。そしてクレイグさん、イライアスさん、エディを舐めるように見回した。
「これはこれは……やりがいがありますわね」
「完成が楽しみですわ」
二人の圧に負けたのか、クレイグさんが後ずさりしてこちらを見る。
「あの、コーデリア様、俺たちこれから何をされるんですか……?」
「悪いことはしないから大丈夫ですよ。奥様にもあらかじめ許可はいただいていますし。ねえ、シンシアさん」
「はい、ぜひお願いいたします!」
「シ、シンシア?」
「さあさあお三方、さっそくこちらへお願いします。パパッと終わらせますので」
「あっ……」
マリアとベル、そしてシンシアさんに追い立てられ、エディたちは怯えた顔で別室へと移動していったのだった。
◇◇◇
それから小一時間後。ひと仕事終えたマリアとベルが私のもとへと報告にやって来た。
「コーデリア様! 任務完了いたしました!」
「過去一の出来でございます!」
二人ともものすごく満足そうな顔をしている。こんな表情を見るのは初めてかもしれない。高まる期待に胸を膨らませていると、マリアが「さあ、お三方ともお入りください!」と満面の笑顔で部屋の扉を開けた。
「し、失礼いたします……」
クレイグさん、イライアスさん、エディが揃って部屋に入ってくる。そして横並びで目の前に立った姿を見て、私は驚きに目を見開いた。
「こ、これは……期待以上だわ!!」
三人とも、一時間前の姿からは想像もつかないほどの大変身を遂げていた。
伸びっぱなしで、ややもっさりしていた髪はすっきりとカットされ、それぞれに似合う髪型に整えられている。
クレイグさんは癖毛を活かしたヘアスタイルで、前髪をラフに後ろに撫でつけているのが大人の色気を感じる。さらに顎ひげもツルツルに剃り上げられていて、一回りは若返って見える。髪型に合わせてコーディネートしたダークカラーのセットアップも大人の渋みを醸し出していい感じだ。
イライアスさんは、うっすら青みがかった銀髪がやや長めにカットされており、元々の中性的な雰囲気にさらに磨きがかかっている。このスタイルであの穏やかな微笑みを浮かべられたら、大抵の女性はコロッといってしまうだろう。ブルー系でまとめた普段着ファッションも爽やかさと親しみが感じられて好印象だ。
そして最後はエディ。跳ねていた毛先をカットし、高級トリートメントと丹念なブラッシングのおかげで、天使の輪が浮かぶツヤサラヘアになっている。まるで今まで正体を隠していた天使が本来の姿を現したかのようだ。ニットベストとチェック柄パンツの優等生風ファッションがよく似合っている。
「素晴らしいわ! さすが超一流のスタイリストね! マリアもベルも本当にありがとう!」
「いえ、とにかく素材が良すぎました」
「イケオジにイケメン兄弟に……まさに大豊作祭りですね!」
「ああ、夫と息子たちのこんな姿が見られるなんて……。皆様に心から感謝いたします……!」
女性四人で顔を見合わせてうなずき合っていると、イライアスさんが遠慮がちに話しかけてきた。
「あの、コーデリア様、これは一体……」
「ああ、これはですね──『墓守り地位向上プロジェクト』のプランのひとつです」
「墓守り地位向上プロジェクト……?」
ハーシェル父子が揃って首を傾げる。
「はい。先日、墓守りである皆さんが不当な扱いを受けていることを教えていただきました。お恥ずかしながら、そのようなことになっていたのを初めて知り、本当に腹立たしく、申し訳ないと思いました。そして、何か私にできることはないかと思ったんです」
「それで私たちの髪を……??」
「ええ。一番簡単に実行できて効果も高く、今後のプランの土台にもなることですから」
すると、マリアとベルが得意げな顔で追加の報告をしてきた。
「全員の採寸も行いましたので、衣裳のほうもお任せください。店に戻り次第、製作に取りかかります」
「ありがとう、よろしくね」
「えっ、衣装? 今着ているもので十分ですが……」
クレイグさんが恐る恐る返事する。
「いえ、それは普段用で、もうひとつ別口のが必要なので。ちなみに普段着はそれ以外にも山ほど持ってきているので、今日から新しい服を着るようにしてください。イメージ作りには身だしなみが大切ですからね。あ、ちなみにお金のことは心配しなくて大丈夫ですから」
「いやでも……」
「本当に気にしないでください。巡りめぐって違うところから儲けられるはずなので」
「ええ……?」
混乱するクレイグさんの横で、シンシアさんが深々とお辞儀をする。
「本当にありがとうございます。コーデリア様のご指示どおり、頂いたスタイリングブックをしっかり読んで勉強いたします」
「ええ、今はそれが一番大事です。では、私たちは次の作業がありますので、そろそろ失礼させていただきます」
私とマリア、ベルはハーシェル一家に別れを告げると、プロジェクトの次のステップに進むため、急いで帰途に着いたのだった。




