5. 〈ケガレ者〉のはじまり
「それは、平民の身分では〈聖騎士〉になれなくなってしまったからです」
「……!」
イライアスさんの言葉に、私はハッとした。
そういえば、私が知っている聖騎士はすべて貴族出身の人たちだ。
「墓守りはかつて聖騎士団に優先的に入団できる資格を持っていました。そこで修行を積み、力量を認められることで、聖騎士の称号を授かれたのです。それは墓所の守護者たる資格であり、平民にとってはこの上ないステータスでした。ですが、いつからか平民は聖騎士の称号を名乗れなくなりました。それどころか、聖騎士団に入ることすら許されなくなったのです」
「そんな、どうして……」
「おそらくは貴族の反発によるものでしょう。その結果、墓守りは聖なる騎士ではなく、単なる墓の掃除人と見なされるようになりました。魔を浄化する術も持たず、死者の穢れに侵されていく不浄の人間。そんなイメージが広がるようになってしまったのです」
「だから、〈ケガレ者〉だなんて……」
〈聖騎士〉という称号の有無で、まさに天地の差だ。
しかも貴族の我儘によるものだなんて身勝手すぎる。
こんな理不尽な仕事、いっそのこと辞めてしまえばいいのにと思ってしまうが、色々なしがらみでそれも難しいのかもしれない。
何とも言い難い気分のまま黙り込んでいると、イライアスさんが自分のマグカップを掲げた。
「ハーブティー、冷めてしまいますよ」
「あ……そうですね、いただきます」
レモングラスのリラックス効果のおかげか、お茶を飲んだら少し気分が落ち着いた。すると、エディがしんみりした顔をしているのも目に入ってきた。
「エディ、嫌な気持ちにさせちゃったわね。ごめんなさい」
「い、いえ! 僕も勉強になりました。でも……いろいろ分かったら悔しくなっちゃいました。イライアスお兄ちゃんだったら、きっと立派な聖騎士になれるのに。毎日あんなに剣の訓練をしてるんだもの」
「まあ、もしかして独学で剣を?」
「いえ、父から教わっています。聖騎士団に入れなくなってからは、墓守りの中だけで代々剣術を受け継いでいるんです。でも、独学とあまり変わらないかもしれませんね。この剣術で通用するのか不安なところはあります。ですが騎士との訓練は無理なので……」
イライアスさんが残念そうに肩をすくめる。
本来許されていたはずの権利を奪われ、〈ケガレ者〉という偏見の檻に押し込められ、閉ざされた世界でひっそりと生きていかなければならない人生。
イライアスさんの微かなため息に、そのやるせなさと諦念が透けて見えたような気がした。
「……諦めないでください」
「え?」
「自分の人生の可能性を諦めないでください」
「えっと、それはどういう──」
「イライアスさんは、〈ケガレ者〉の偏見を受け入れてしまっていますよね」
「それは……だってどうしようもないことですから」
「いいえ。これまではそうだったかもしれませんが、今は違います」
「今は違う……?」
イライアスさんが目をぱちぱちと瞬く。
そんな彼の前で、私は胸を張って答えた。
「私という優秀なコンサルがいます」
「こ、こんさる??」
イライアスさんがさっきよりも疑問が深まったような顔をしているが、今は説明している暇はない。それに、実際に見せながら説明したほうが早いだろう。
「すみません、本日はこの辺で失礼いたします。後日またこちらに伺いますので、その際に色々お話しさせていただけますか? 日時など追ってご連絡いたします」
「は、はあ……」
「素敵なおもてなしと興味深いお話をありがとうございました。ではまた」
「は、はい、また……」
私は礼儀正しくお辞儀をすると、エディとイライアスさんの家を後にした。急いで馬車に乗り込み、思いついたばかりの内容をさらさらと手帳にメモする。
「よし、今世のコンサル初案件は彼らに決めたわ。やることが山積みで腕が鳴るわね!」
もちろん彼らにコンサル料を請求するつもりはない。
他の方法で利益は充分得られるはずだから。
私はこれからの計画を頭に思い描きながら、にんまりと笑った。




