4. 墓守りのイライアス
「エディ、これは一体どういうことだ?」
困惑した表情でこちらを見ているのは、どうやらエディのお兄さんらしい。彼もちょうど外出から帰ってきたところのようだった。私は彼──イライアスさんに笑顔を向け、丁寧な態度で挨拶した。
「はじめまして。エディの友人のコーデリア・ラムゼイと申します」
「エディの友人……ですか?」
「はい、街で知り合ってお友達になったんです」
「僕が街の子たちに嫌がらせされているところをコーデリア様が助けてくれたの。その後もお買い物を手伝ってくれたり、デザートをご馳走になったりして……。あ、これみんなへのお土産のクッキー!」
エディから説明されたイライアスさんがぽかんと口を開ける。しかしすぐに我に返ると、こちらへ向かって深々と頭を下げた。
「弟が大変お世話になったようでありがとうございます。しかも、このような過分なお気遣いまでいただいて……。ぜひお礼がしたいので、よろしければ我が家に寄っていってください」
「まあ、ありがとうございます。ぜひお邪魔させてください」
それから私たちは、買い出しの荷物を家に運び入れたあと、そのまま居間らしき部屋に案内された。
「コーデリア様はこの椅子に座ってください。ここが一番クッションがふかふかなんです」
「ありがとう、エディ」
エディの気遣いに嬉しくなっていると、イライアスさんが申し訳なさそうに眉を寄せる。
「こんな場所にお通しして申し訳ありません。我が家は客間がなくて……」
「いえいえ、お構いなく。よく片付いていて居心地がいいです」
決して広い部屋ではないけれど、突然の訪問だったにもかかわらず、物が散らかっている様子もない。普段から整理整頓が行き届いているのだろう。
壁には手作りのタペストリーや子供たちが描いたであろう絵が飾られていて、温かな雰囲気が感じられた。
「ありがとうございます。あまり物を買う余裕がないだけとも言いますが……。ああ、今お茶を淹れますのでお待ちください。エディ、手伝ってくれるかい?」
「はあい!」
イライアスさんとエディが奥の台所で手際よくお茶の用意をする。貴族が使うようなティーカップではなく、シンプルなマグカップで出されたお茶は、紅茶とは違う独特の香りがした。
「こんなものしかお出しできなくてすみません。庭で採れたハーブで淹れたお茶なのですが……」
「まあ、ハーブティーですね! この香りはレモングラスかしら。うん、爽やかで美味しいです」
ひとくち飲んで感想を伝えると、イライアスさんもエディもホッとしたような笑顔を見せた。
「お口に合ったようでよかったです。我が家では定番なのですが、あまり好まれない方もいらっしゃいますので」
「私は好きです。実は自分でもたまに淹れるんですよ。でもイライアスさんのほうが淹れるのがお上手なようです」
「そんな……」
イライアスさんがはにかんだように頬を染める。
少し褒めたくらいで照れてしまうなんて、けっこうシャイなタイプなのかもしれない。
「そういえば、他のご家族の方はお出かけ中ですか? 姿が見えないようですが」
「あ……そうですね。さっき畑に出かけてしまって」
「まあ、畑もお持ちなんですね。結構いろんな種類を育てられているんですか?」
「ええ。と言っても、全部少量ずつなうえ、土が悪くてあまり育ってくれないのですが」
「それは大変ですね」
「はい。それでも街に買いに行くよりはマシなので…」
イライアスさんが寂しそうに微笑む。
彼が何を言わんとしているかは、エディが受けた仕打ちを考えれば明らかだ。
私はあの時の不快な光景を思い出しながら、イライアスさんに尋ねた。
「あなたたちは、いつも街の人からあんなひどい目に遭わされているのですか?」
「いつもというわけではありませんが、そういう人に出くわしてしまった時はまあ……。私たちはケガレ者なので」
「その〈ケガレ者〉って何なんですか? 墓守りの人たちが蔑まれる理由が分かりません。古い伝承にも墓守りは死者の安寧を守る尊い仕事だと書かれているのに……」
墓守りはその名の通り、死者が眠る墓地を守る番人だ。
広い墓地の清掃や管理はもちろん、夜間に現れる墓荒らしや魔の物からの警戒も担っており、決して楽な仕事ではない。
今は亡き大切な人たちの平穏を守る立派な職業だ。
……と、書物にはそう記されていたのに、現実に目にしたのは、〈ケガレ者〉と蔑まれ暴力を振るわれる現実だった。
書物に書かれていたことは単なる綺麗事だったのだろうか。
なんとなく嫌な気持ちになっていると、イライアスさんが諭すような穏やかな表情を浮かべて私を見た。
「伝承の墓守りと違いすぎて戸惑われますよね」
「……はい」
「ですが、伝承が嘘をついているわけではないのです。数代前までは墓守りは尊敬される職業でした」
「え? ではどうして……」
「それは、平民の身分では〈聖騎士〉になれなくなってしまったからです」




