11. 喧嘩を買うのも仕事です
「コーデリア様、大変です! 小説の販売が追いつきません! 他の書店からも問い合わせが来ておりまして……!」
「人形劇もシリーズ化の要望が殺到しています!」
劇と小説の公開後、メディア戦略チームからは嬉しい報告が続々と上がってきて、私は多忙な日々を送っていた。
「小説は増刷しましょう。その後は問い合わせが来ている他書店にも直接卸してちょうだい。作家先生へのお支払いも滞りないように。あとは舞台化の話も進めたいわ。人形劇のほうは第二弾も制作しましょう。プロットはできているから、これを元に詰めていく感じで。グッズ展開の計画もお願いね」
「はい、かしこまりました!」
スタッフが部屋を出ていったあと、私は椅子に腰かけたままグーッと伸びをした。
ロマンス小説も人形劇も大成功だった。
今や墓守り──いや、聖衛士のイメージは一変した。
子供や男性にとっては強くて頼りになる戦士、女性にとっては神秘的でロマンティックな守護者という憧れの存在になっているらしい。
先日、イライアスさんからも手紙が届き、聖衛士になりたいと霊園を訪ねてくる人もちらほら出てきたのだそうだ。
「理想的な展開だわ」
これを一過性のブームで終わらせてはならない。
そのためには、イライアスさんたちだけでなく、他の〈墓守り〉の方々の支援も重要だ。
「小説と舞台、それから人形劇グッズの売り上げを回せないか試算してみないと。本当は他にも財源ができるといいんだけど……」
「コーデリア様、失礼いたします」
「あら、トマス。どうしたの?」
執事のトマスが神妙な顔をしてやって来る。
両手で差し出された銀のトレーの上には、格式のあるデザインの手紙が載っていた。
「コーデリア様宛のお手紙が届いてございます」
「初めて見る封筒ね。あら、この封蝋はもしかして……」
銀色をした特徴的な封蝋。
さっそく開封して中の手紙を読んでみると、まるで脅迫なような内容が馬鹿馬鹿しいほど丁寧な文面で書かれていた。
「コーデリア様、いかがなさいますか……?」
私が思わずイラッとしたのを察したのか、トマスが遠慮がちに尋ねる。
「大丈夫、ちゃんと返事は書くわ。あとで呼ぶから届けてもらえる?」
「かしこまりました」
トマスが出ていったあと、私はもう一度手紙を読み返す。
腹の立つ内容だけれど、いつかこう来るだろうとは思っていた。
「また彼らから奪おうったって、そうはいかないわ。今度はこの私が味方についてるんだから」
私は売られた喧嘩を礼儀正しく買ってあげるために、引き出しから便箋を取り出したのだった。
◇◇◇
例の脅迫状に返信してから数日後。私は王都にいくつかある小神殿のひとつ、アークライト小神殿を訪れていた。
「ご足労いただき感謝申し上げます、コーデリア・ラムゼイ伯爵令嬢」
「こちらこそご招待いただき光栄に存じます、ワイラー司教様」
応接室に遅れてやってきたのは、この小神殿のトップであるワイラー司教。私宛てに手紙を送ってきた張本人だ。
ワイラー司教はやや出っ張ったお腹を押さえながら向かいのソファに座ると、私に向かって糸目をさらに細めてにっこりと微笑んだ。
「さっそくですが、私の手紙は読んでいただけましたかな?」
「ええ、ですからこうして伺ったのではありませんか」
「まあ、そのとおりなのですが……何か手土産があるのではないかと」
ワイラー司教が、私の隣に置いてある包みをチラリと見て咳払いする。私は「ああ!」と声を上げ、包みを膝の上にのせた。
「仰るとおり、本日は特別な贈り物をご用意してきたのです。ワイラー司教様に喜んでいただけるとよいのですが」
「ほほう、一体どのようなものでしょうか。楽しみですな」
「どうぞ、こちらでございます」
「どれどれ、おおこれは……!」
ワイラー司教が前のめりでプレゼントを引ったくる。
しかし、手にしたものをしっかりと目にした途端、その糸目が見開いて、まぶたがピクピクと動いた。
「……これは一体なんですかな?」
さっきまで上機嫌だったワイラー司教の顔がこわばる。
私はそれを気に留めることなく、爽やかに笑い返した。
「あら、もしかしてご存知ありませんでしたか? 『傷心令嬢は一途な聖衛士に溺愛される』。今、王都の貴族女性に大人気のロマンス小説なんですよ。実は私が出版を手がけておりますので、ぜひこの機会に神殿へ寄贈をと思いまして」
包みから同じ本をさらに五冊取り出してテーブルに並べる。
すると、目の前のワイラー司教がプルプルと震え出し、持っていた小説をバーンとテーブルに叩きつけた。
「ふざけるんじゃない! わしに喧嘩を売っているのか!?」
さっきまでニタニタしていた白い顔が、今は怒りで茹でダコのようになっている。
「わしが求めたのは、こんなくだらない本なんぞじゃない! そなたは我々のものを勝手に利用して散々儲けたではないか! その分け前をくれれば目をつぶってやるつもりだったというのに、とんだ愚か者め!」
ワイラー司教の唾が飛んでこないよう、座る位置を少しずらしつつ、私はあごに指を添えて首を傾げた。
「"我々のものを勝手に利用して"? はて、仰る意味が分かりかねるのですが?」




