第9章:待っていた
フミスケ
「うっ……!?」
フミスケの喉から、短い濁った声が漏れる。
次の瞬間、首筋を押さえたまま、力が抜けるように椅子から崩れ落ちる。
床に転がり、荒く浅い呼吸を繰り返す。
セキミは、その様子を見下ろしている。
驚きも悲鳴もない。
ただ、平坦な視線。
セキミ
「……わたし、これを依頼してたから。ここで座って待ってただけなんだあ」
感情の凹凸がない声。
セキミ
「なんで今になったのかは、わたしにもよくわかんないけど……」
フミスケ、床で苦しみながら掠れた声を絞り出す。
フミスケ
「あの人……仕事の前にトイレ行ってからにしようって思ったのかな……」
身体が痙攣する。
フミスケ
「くっ……うう……」
フミスケ、ふと虚空を見上げるように呟く。
フミスケ
「僕もね……さっきから、ずっと待ってるものがあるんだけど……」
その時。
カランカラン――。
ドアベル。
〇店内・入口
ソウサイ・ホワイト(勤務歴8ヶ月)が入店する。
両手には、やけに立派な赤い花束。
場違いなほど鮮やかだ。
ホワイト
「お待たせしました、プラマイラボです。ご注文のオプションのお花をお届けに参りました」
フミスケ(床から)
「こっち……ここ……」
弱々しく手を上げる。
ホワイト
「あっ、はい」
ホワイトは床に倒れたフミスケを見て動揺することもなく、フミスケのそばにしゃがむ。
そして、花束をそっと置くように差し出す。
ホワイト、状況をまじまじと覗き込む。
善意でも悪意でもない、ただの興味。
ホワイト
「サービスの成果、どうすか? 上手くいきそうです?」
フミスケ
「見ての通り……死にかけてるよ……」
ホワイト、その言葉で一瞬フリーズする。
数秒の沈黙。
空気が完全に止まる。
ホワイト
「……あ〜〜〜〜〜なるほどね」
(長い間)
ホワイト、深く頷く。
ホワイト
「相殺できますように!」
両腕を交差し「×」。
即座に開いて「セーフ」の『相殺』ポーズ。
無駄にキレのいい動き。
そして次の瞬間。
入口へ全力退避。
カランカラン――!
ドアベルが激しく鳴り、ホワイトは外へ消える。




