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第8章 冷めきったココア


〇喫茶ダイナマイト・店内

静寂。

空気は重く、時間だけが妙に伸びている。

セキミは無表情のまま、冷めきったココアの表面を見つめている。

その視線は揺れない。

フミスケは向かいの席から、穏やかに顔を覗き込む。

フミスケ

「新しいの、頼もうか。すみませーん!」

フミスケ、厨房へ声を飛ばす。


〇厨房

葉湯がオーダーを受ける。

葉湯

「ヒーヒー、二つ」

新人スタッフ・美井が首をかしげる。

美井

「ヒーヒーって……何ですか?」

絵々

「コーヒーのこと」

美井

「なるほど!」

葉湯(小声で)

「コーヒーとヒーヒーは違うよ」

厨房、妙な空気のまま作業が続く。


〇喫茶ダイナマイト・店内

フミスケ

「セキミが入院してたときさ。病室の窓から見えたひまわり畑。退院したら一緒に行こうって、約束したよね」

セキミ、反応しない。

ただ、わずかに視線を落とす。

その沈黙は拒絶ではなく、揺らぎにも見える。

フミスケは小さく微笑む。

フミスケ

「……まだ、ここにいてくれるんだね」


フミスケ、続ける。

フミスケ

「誕生日に行ったUSJの花火が見えるカフェ、あそこさ。今、期間限定メニューがバズってるらしいよ」

その言葉の瞬間。

セキミの指先が、ほんのわずかに止まる。

耐えているようにも見えるし、何も感じていないようにも見える。


〇店内・下手側客席

女性客が一人、静かに立ち上がる。

視線を一瞬だけ二人へ向ける。

そして何事もなかったように通路を抜け、奥のトイレへ消える。

(数秒の静寂)


〇厨房〜店内

葉湯

「ヒーヒー、お待たせしました」

しかし誰も反応しない。


〇店内

上手側から、さきほどの中年女性客が戻る。

足取りは自然。

だが、その動線だけが異様に滑らかだ。

通路を横切る。

一切迷いなく、フミスケの背後へ回り込む。


フミスケ(セキミに向かって)

「今のセキミの気持ち、当ててみようか?」


その瞬間。

女性客の動きが変わる。

“客”ではなくなる。

上着の内側から、細く鈍く光る針。

ためらいなし。

フミスケの首筋へ。

グサリ。


一瞬の静止。

毒が注入される。

フミスケ、声にならない息だけを漏らす。

視界が揺れる。

女性客は無言のまま針を抜き、振り返らない。

そのまま入口へ。


〇効果音

カランカラン――!

ドアベルが異様に軽く鳴る。

女性客はそのまま、街の中へ消える。


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