第7章:プラスしてもマイナスしてもそれは至らず
〇喫茶ダイナマイト・店内
スタッフ・ブルーが、堪えきれずに叫ぶ。
ブルー
「絶対言ってる! 絶対に事あるごとにアピールして買わせてただろ、あの女! あざとすぎますって!」
レッド (鋭く遮り)
「しっ! 届く」
レッドはフミスケを気遣う素振りを見せ、同情に満ちた顔で歩み寄る。
レッド
「あの……フミスケ様。こんなことを言うのは大変失礼かもしれませんが、記憶の深淵を覗くと、彼女の本性が色々見えすぎて……。怖くなって、記憶相殺の希望を自ら取り下げる真っ当な人もいるんですよ?」
ブルー
「そうそう! フミスケさんはこんなに愛情で戦ってるのに、向こうはバッグ狙い! あんな女やめて、他にいったほうが身のためですよ!」
ブルーが異様な熱量でまくしたてる。
しかし、フミスケは静かに、しかし断固とした口調でそれを遮る。
フミスケ
「……一ミリも、取り下げる気はありません」
レッドとブルーが顔を見合わせる。
フミスケ
「彼女が“浮気相手”だと思って怒っている女性は、東北から来た僕のただの親戚なんです。たまたま端から見たらデートっぽく見えただけで……本当にただの京都観光ですよ。そんな誤解で関係が終わるなんて、僕は絶対に納得できない」
フミスケは眠るセキミの横顔を、切なげに、心から愛おしそうに見つめる。
フミスケ
「僕は最初からずっと、一途にセキミだけを愛しています」
フミスケの純愛っぷりに、レッドとブルーは顎が外れんばかりに驚き、間抜けに顔を見合わせる。
レッド
「え……えぇ!? じゃあ、なぜそれを彼女に真っ直ぐ言わないんですか!」
フミスケ
「……いや、してないとは言ってるんですが」
ブルー
「あなた、依頼する業者を間違ってますよ! 相殺とかそういう問題じゃない!」
フミスケ
「でも、結果的にセキミに悲しい思いをさせたのは事実なんで。だから、その誤解の記憶ごと、ちゃんと相殺して綺麗に消してあげたいんです」
フミスケのあまりに健気な横顔。レッドは深く感銘を受けたのか、じっとフミスケを見つめ、しみじみと呟く。
レッド
「……その優しさに、一体どんな名前があるんだろうか」
瞬間、レッドの瞳から感傷が消え、いつものビジネスライクな事務的な態度に戻る。
レッド
「まぁ、ウチとしても、契約キャンセルされるよりは潤った方がいいんでね。やりますよ」
レッドとブルーが並んで直立不動の姿勢をとる。
レッド・ブルー
「相殺出来ますように!」
二人は息ぴったりに胸の前で両腕を大きく交差し「×」を作る。そこから俊敏に腕を真横に広げ、審判の「セーフ」のポーズをビシッとキメる。
「相殺ポーズ」をキメた次の瞬間、二人は脱兎のごとく上手側へとドタドタと走り去っていく。




