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第5・6章 選ばれた記憶

第5章:選ばれた記憶 

〇夜の街路(回想)

喫茶店の壁面に映し出される、セキミの脳内記録。

セキミの誕生日会の帰りの夜道。

セキミとフミスケ。帰り道を並んで歩いている。


フミスケ

「セキミ、今日はほんと楽しかったね。誕生日、おめでとう!」


セキミ

「USJの花火があんなに綺麗に見える個室でで誕生日を祝ってもらえるなんて、思わなかった。本当にありがとう」

ふたりの距離は、完璧に近い。


〇喫茶ダイナマイト店内


画面の端(上手)から、レッドがぬっとフレームイン。自信満々にブルーに囁く。


レッド

「ここだよ。このポイントだ」


フミスケ

「彼に祝われたのが嬉しかったんですね。かわいいとこあるじゃん!」


レッド

「あ、違ったわ」


ブルー

「まだ続くみたいですよ。黙って聞いてみましょう」


フミスケ(映像)

「そうだ、今日集まってた子の中で、間違いなくセキミが一番綺麗だったよ!」


セキミ(映像)

「イヤだ〜、もうフミスケったら、そんなことないってば〜」


セキミ、照れくさそうに身をクネクネとよじる。


ブルー

「そんなことあるだろ! バレバレだから!」


レッド

「……ここだったか」


その時――カチカチカチと、異質な映写機の回転音が店内に響き始める。


ブルー

「……何の音ですか?」


レッド

「浮気疑惑のノイズだよ。……誕生日一回じゃ、あの浮気の罪は釣り合わんだろ」


ブルー

「あー……なるほど。相殺リソース不足ですね」


レッド

「次いくぞ。2本目だ」


ブルー

「はい。2本目、投影開始!」


奥の席では、中年女性客が、いつの間にか本をめくる手を止め、まるで映画を観るように、映し出された記憶の光景を楽しんでいる。


〇会議室(ドロメダジャンクション展望)

窓の外は、星々の光とターミナルの発光が織りなす、広大な宇宙のキャンバス。

会議は終了し、参加者たちは談笑しながら退室していく。

ジャロガは一人、ヘッドフォンを装着し、ラップトップに向かっている。

会議中も堂々と楽曲制作に没頭していた彼の様子は、どこか浮世離れした雰囲気を纏っている。


ジャロガ、不意にキーを叩く指を止め、独り言をつぶやく。

「……セキミの様子、見てみるか」


ジャロガ、迷いなくキーを「カチャ、カチャ」と2回叩く。

モニターに、喫茶店で無惨に「ヘルメット」を被せられたセキミの姿が映し出される。


ジャロガ

「……ヘルメット!?」



思わず叫ぶような素っ頓狂な声が、静寂の会議室に響き渡る。

先ほどまでのクールな楽曲制作者の仮面はどこへやら、ジャロガの顔から血の気が引く。


その時、退室しかけていた「ヘルメット型パンチ」のお偉いさんが、声の主に気づき、振り返ってジャロガを凝視した。

ジャロガ、モニターの「オレンジのヘルメット」と、背後の「ヘルメット型の髪」を交互に見て、凍りつく。


責任者

(お偉いさんの陰から現れ)

「ジャロガさん!」


ジャロガ、ギクシャクした動きで振り返る。


責任者

「この後、懇親会ですが、どうですか?」


ジャロガ

(モニターを隠すように体を乗り出し)

「……いえ、仕事が立て込んでて」


責任者

「次期、弊社制作映画の監督さんもいらしてくださる。ジャロガさんにはぜひ参加していただきたいんですが」


ジャロガ、モニターのセキミと、目の前の「ヘルメット」を天秤にかける。


ジャロガ

(喉を鳴らし、力なく)

「……行きます」


第6章:選ばれた記憶 ふたつめ

〇場面転換:喫茶ダイナマイト・店内

ジャロガの画面から、再び歪んだ喫茶店の光景へ。


〇喫茶ダイナマイト・店内

店内を漂うコーヒーの香りが、どこか消毒液の匂いに混ざり合う。 セキミの脳内から投射された「記憶のレイヤー」が、喫茶室の空間に二重露光のように重なり合っていく。


〇病室(回想)

病室のベッドに腰掛けるセキミ。隣のベッドには、女性が、左腕にギプスを嵌めて座っている。


セキミ 「……あ、どぉ〜どぉ〜も」


入院患者 「どぉも。……あの、どうされたんですか? 過労で急性腸炎になったとか?」


セキミ 「あ、病院内の情報ネットワークスゴいっ。そうなんです〜。ちょっと無理しちゃって……。そちらは?」


入院患者「私はね、自宅の階段で派手に転んじゃって……骨折です」


セキミ

「内科と外科が同室って、合理的ですね……」


二人は乾いたビジネス愛想笑いを一瞬だけ交わし、すぐに無機質な真顔に戻る。



そこへ、大きな高級ブランドの紙袋を抱えたフミスケが、息を荒くして病室に駆け込んでくる。


フミスケ

「セキミ! 大丈夫!? 急に会社で倒れたって聞いてびっくりして、飛んできたんだ」


〇喫茶ダイナマイト・店内

ブルー

「なるほど……。彼氏が必死に入院のお見舞いに来たことが最大の相殺ポイントか。やっとかわいいとこ見せたな」


レッド (冷ややかに)

「甘いな、セキミだぞ。よく見てみろよ」


〇病室(回想)

セキミは神妙な顔で応じながらも、その鋭い視線はフミスケの顔を素通りし、手元のハイブランドの紙袋を獲物を狙う鷹のように凝視している。


セキミ

「そうだ、フミスケ。この病室の窓からね、ひまわり畑が綺麗に見えるんだよ」


フミスケ、言われるがままピュアな瞳で窓の外を覗き込む。


フミスケ

「おぉ、本当だ、すごいね」


フミスケがセキミに背を向け、窓の外を眺めた瞬間、セキミの表情から「病人の儚さ」が一瞬で消える。

彼女は喉を鳴らし、貪欲に紙袋のロゴを値踏みする。

フミスケが振り返る気配を察すると、再び儚げな弱々しい病人の表情へと切り替わる。


フミスケ

「あ、これ。君が前に欲しいってずっと言ってた、OITAの限定バッグ。倍率高くて友だちと同僚に頼み込んで応募してもらったんだ。そしたら奇跡的に3人とも当たっちゃって」


セキミ (前傾姿勢になり)

「え?」


フミスケ

「……でさ、一緒に当たった同僚が転売の利益に味占めちゃって、気づいたら会社辞めて転売ヤーになってたんだよね」


フミスケは苦笑しながら、まるで「ちょっと面白い小話」でもするように軽く流す。 その言葉の重さを受け止めきれず、セキミはきょとんとした表情を浮かべる。


セキミ

「え……? 転売ヤーって、あの転売ヤー?」


フミスケ

「……あっ、いや、とにかくこれ! セキミがずっと欲しがってたでしょ。はいっ」


フミスケは満面の笑みで、同僚の人生を犠牲にして手に入れたその「戦利品」を差し出す。


セキミ

「え?わたし欲しいって言った?」

とぼけた顔がにやついている。


一瞬の沈黙の後、カクンと首を傾げ、何食わぬ顔で深い眠りへと落ちていった。



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