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5.変態野郎の捜索

 ハッと目を覚ますと屋根のように広がった木の枝と、その隙間から覗くような星空が見えた。

 遠くからはざわざわと風が木々を揺らす音が絶え間なく聞こえ、近くからはパチパチと火によって枝が爆ぜる音が聞こえる。


 頭を整理するのにかかった時間は、夜の冷たい空気ひと飲み分。

 飛び跳ねるように慌てて体を起こすと、同じように起きてきたミカゲと目が合った。


「ミカゲ……今……!」


 私達同じ場所にいたよね、と視線で伝えると頷きが返ってきた。

 間違いなく覚えている。私はさっきまでミカゲと一緒に、あの真っ白な箱の中にいた。そして扉を通ったのだ。

 あのとき現れた扉を開いて、眩しく白んだ扉の外へ一歩踏み出して、それから――


(――それから、今だ)


 わけがわからない。今私がいるのは、私が眠ったときの場所そのままだ。

 出口を見失った森の中。アルトに番を任せた焚き火の前。布一枚引いただけの土の上。

 なにも……何も変わっていない。それなりの時間あの部屋にいたはずなのに、夜が明けてすらいない。

 まるで一時の夢を見ていたような――……


「アルトリウス! 起きろ!」


 火の前で倒れていたアルトの体をミカゲが揺する。

 まさか……と、一瞬で嫌な想像が駆け巡った――けど、アルトは「んー……イモリは不味い……」と寝ぼけながらもいつもの調子だった。アルトにまともに火の番が務まらないのも、いつものことだ。

 

「クリスティナは?」とミカゲが言う。

 私は隣で眠るティナの顔を覗き込んで、普通に眠っているだけなのを確認した。

 

「大丈夫みたい」

「そっちもか……。一体どういうことだ? だれも俺達がいないことに気が付かなかったのか……?」

「んー……」

 

 あらためて夜空を見上げた。


「月の位置……そこまで正確には覚えてないけど、たぶん私が眠る前とほとんど変わってない」

「あの部屋の時間の流れが普通とは違うってことか……」

「……ぜんぶ夢だったとか……」


 たまたま二人で同じ夢を見た、なんてことがありえないのはわかっている。だから私達二人の夢の世界に干渉するような、そういう魔法の影響を受けたのかと考えた。

 だけどそんな私の前に、ミカゲが拳を突き出してきた。

 そう……私が怪我を治した拳。


「現実だ」

 

 そこに傷はないけれど……血の跡が微かに残っていた。


「そ……っか」


 夢なんじゃないか、というのは私が無意識に抱いた希望だったらしい。一瞬にしてその梯子を外されたような気持ちになってしまった。

 

 そしたらもう、居てもたってもいられなくて立ち上がった。


「探そう!」


 私達にキ……キ……き、キスをさせた変態野郎を!!



 ◇


 

 息巻いたものの周辺の捜索では変態野郎はおろか、部屋そのものも、なんらかの形跡すらもみつからなかった。

 結局捜索は夜明け前に切り上げ、野営地へ戻ることに。


「あんな石壁の部屋、そうそう簡単に一瞬で作ったり壊したりなんかできねーだろうに」

「私達はよっこらしょってあそこに移動させられたわけじゃなくて、魔法で召喚だか転送だかをされたってことでしょ。だったらあの部屋の場所は、近くにあるともこの空間にあるとも限らない」

「俺ぁ召喚獣になった覚えはねーぞ」

「そのへんは私も、魔法は大して詳しくないからわかんないけどさ」


 ただそういう風に考えれば大体のことに辻褄が合うということ。誰が私たち二人を、なんのために、というところは変わらず謎のままだけど。

 にしてもどうしたものか、他に手がかりになりそうなもの……


「そうだ、あの文字! あの文字はミカゲの故郷の文字なの?」

「いや……俺の故郷は東の島国だが、もうずっと昔から世界共通文字を使ってるはずだ。ただあの文字で書かれた書物が師匠んとこに一冊あったってだけだ」

「じゃあその書物とやらの著者は?」

「覚えてねーよ、んなもん」


 だめだ、役に立たん。本一冊分の勉強だけで異国の文字が読めるようになっていること自体はすごいけど。


「その師匠さんには訊けないの?」

「もうとっくに死んでる。家も燃えてなくなった」

「そう……」


 言い方からしてなんとなく、師匠さんはいい死に方をしていなさそうだと思って、それ以上追求するのはやめた。

 

「文字の形は覚えてるし、とりあえずそれを書き起こして次の街で聞き込みしてみよう」

「そうだな、その前にアルトリウスとクリスティナにも――」

「あ、帰ってきた。もう、こんな時間に二人してどこで何してたのよ」

 

 野営地に戻ると、ティナが火の前で寒そうに体を丸めて座っていた。登り始めた朝日が白金色の髪に反射してきらきらしている。

 なんともないのはわかってたけど、無事起き上がっている姿には少しほっとした。

 

 それから「ティナ、あのね」と事の次第を話そうとしたのだけれど。その前に大きな翡翠色の目がわざとらしく細められ、


「もしかして……いやらしいこと?」


 と不意打ちをかまされて思わずぎくりとした。

 いや、決していやらしいことなんてしていないのだけども。ちょっとキ……とかそういうのはあったかもしれないだけで。

 

「あ……あはは、もう、そんなわけないじゃん」

「あはは、そうよね、メイにかぎってそんなことないわよね。冗談冗談」

「…………あはは」

「…………で? 何してたの?」


 私はついミカゲにお伺いの視線を向けた。

 わかる、わかるよ、アルトとティナにはありのままを伝えて協力してもらった方がいい。私もそのつもりでいたよ。

 でも、でもね……? その……私達さっきキスしましたって……言う……? 〝私達にキスをさせた変態野郎を一緒に探そうぜ!〟って……ほんとに言う……?


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